―[シリーズ・駅]―


 1960年代には総距離4000キロ以上と路線が網の目のように張り巡らされていた北海道。だが、約半世紀の間に38路線が消え、現在の総距離(※23年3月時点)は2410.1キロとピーク時の6割に激減。そして、3月末にはJR留萌本線の石狩沼田~留萌間の35.7キロが113年の歴史に幕を閉じる。

 同路線としては16年の留萌~増毛間に続く廃止。今回はそれに伴い、営業終了となる留萌本線の7駅を巡ってみることにした。

◆①真布駅

 石狩平野のほぼ北端に位置する真布駅(北海道沼田町)は、田園地帯にポツンとたたずむ無人駅。短いホームの上には板張りの小さな待合所があるだけだ。

 ちなみにJR北海道によると、17~21年の1日あたりの平均乗車人員数は2.2人。上下線合わせて5本の普通列車が通過していたが、今回の廃止区間における利用客は留萌駅に次ぐ多さ。むしろ、周囲300メートル圏内に数軒の農家しかない状況で利用者がいることのほうが驚きだ。

 訪れたのは特に寒さが厳しい1月中旬。気温は氷点下10度を下回り、カメラを持つ手が寒すぎて痛い。それでも一面を雪に閉ざされ、いかにも雪原の秘境駅とった赴きがある。実際、『JTB小さな時刻表2022年冬号』(JTBパブリッシング)の表紙にも使われていた。

◆②恵比島駅

 真布駅から列車で約4分の恵比島駅(北海道沼田町)は、遠野なぎこがヒロインを務めた99年放送のNHK連続テレビ小説すずらん』の舞台となった駅。昭和初期風の木造駅舎は、撮影用のセット放送終了後もそのまま保存。駅舎は物語で使用された架空の駅名「明日萌(あしもい)」になっており、ホームの駅名票も恵比島駅名義のものと2つあった。

 ただし、この明日萌駅舎は常時開放しているわけではなく、訪問した3月上旬某日は結局中には入れず(※3月は土日祝のみ開放)。隣にはヨ3500形車掌車を改装した“本来の駅舎”があったが、どう見てもこちらが本物には思えない。

 なお、駅舎以外にもその隣には劇中でヒロインが住んでいた家、さらに駅正面には同じくドラマ内でたびたび登場した旅館のセットも保存。放送から24年が経つが留萌本線廃止で再び注目を集めており、朝ドラの聖地として今後もぜひ残してほしいものだ。

◆③峠下駅

「千鳥式」と呼ばれる互い違いに設置された2面2線のホームを有する峠下駅(北海道留萌市)は、全区間単線の留萌本線で列車の行き違いが唯一可能な駅。沿線ではもっとも山深い場所に位置し、鉄道ファンから絶大な信頼を受ける秘境駅訪問家・牛山隆信氏が作成した『秘境駅ランキング2023年版』では全国64位。留萌本線では真布駅(45位)と並ぶ秘境駅として知られている。

 留萌の中心部までは20キロ以上離れているがかつては近くに炭鉱があり、最盛期には約1000人が生活。ところが、1970年に閉山すると一気にゴーストタウン化。以前は駅前の道路沿いに民家が並んでいたが今は跡形もなく、集落自体が消滅してしまったようだ。

 国鉄時代は貨物取扱駅でもあった峠下駅。現在は撤去されたものの貨物用の引き込み線もあり、駅構内の敷地は思った以上に広い。駅舎も留萌駅には劣るがそれなりの規模だ。昔は道内でよく見かけた平屋のトタン屋根で、築年数は不明だが1954年に一部改築したとの記録もある。少なくともそれより前に建てられたのは確実で、廃止後は取り壊すのではなく鉄道遺産として保存する方向で検討してもらいたいところだが……。

◆④幌糠駅

 宗谷本線などでもよく見かける改装した貨車を駅舎として設置する幌糠駅(北海道留萌市)。周囲を山に囲まれているが、数十世帯が暮らす比較的大きな集落だ。徒歩圏内にはJAの事務所に大学研究施設、商店や理髪店などもあった。

 これだけ住民がいれば鉄道利用者もいそうだが、1日の平均乗車人数は0.8人(※17~21年/JR北海道調べ)。いくら車社会とはいえ、この数字は通学に利用する高校生すらいないということだ。

 ちょうど散歩中の年配の女性がいたので話を聞くと、「まだ国鉄だったころはホームが2つあって、利用する人も今よりずっと多かったんだけどねぇ」と教えてくれた。調べたところ、現在の片側1面ホームと違って86年までは相対式の2面2線のホーム。峠下駅のように列車交換が行われていたらしい。

 また、女性によれば、以前は皇室が所有する御料林(※現在は国有林)が近くにあり、幌糠駅はそこからから伐採した木材を搬出するために開業したとのこと。今の様子からは想像がつかないほど由緒正しい駅だったようだ。

◆⑤藤山駅

 明治時代にこの地に農場を開き、開拓時代の北海道に大きく尽力した実業家・藤山要吉の名から取った藤山駅(北海道留萌市)。現在も一帯は田園地帯で冬は一面銀世界。駅前に通る国道沿いには10軒ほどの民家があるが、この駅に至っては平均乗車人数はなんと0人(※17~21年/JR北海道調べ)と文句なしのワーストだ。

 屋根付きの駅舎は左右対称のロッジのような造りだが、もともとは横長の建物。1984年無人駅となったことで駅事務室など半分以上が減築され、今の姿へとなったそうだ。そのため、片側の壁面は断熱パネルを繋ぎ合わせた不自然な見た目に。そして、雪が積もっているので見えにくいが地面には取り壊した建物の基礎部分が残されていた。

 でも、駅舎内は天井が高いため、ほかの駅よりも開放感がある。おまけにきちんと清掃されているのか汚れもほとんどない。次の列車が来るまで2時間40分ほど待つハメになったが、思った以上に快適に過ごすことができた。

◆⑥大和田駅

 留萌駅の1つ手前の大和田駅北海道留萌市)は、線路を並行して流れる留萌川の川岸にある駅。両側を山に挟まれているが幌糠駅と同程度の集落があり、田舎駅だけど秘境というわけではない。

 駅舎はここも貨車を転用したものだが、入口のドアには「マムシが出ます!」の貼り紙。実は、幌糠駅にも同様の貼り紙があったが、思い起こせばこの連載で過去に訪れた小幌駅(JR室蘭本線)や四国の坪尻駅(JR土讃線)といった日本有数の秘境駅にも似たような看板や貼り紙があった。これを基準に判断するなら秘境駅とも言えなくはないが……。

 そんな大和田駅はもともと石炭を運ぶために開業するも最後の炭鉱が1957年に閉山。これは路線全体に言えるが、留萌本線は石炭や木材、日本海で獲れる海産物を運ぶ目的で敷設された路線で旅客運送はオマケにすぎない。沿線での貨物列車の運行が正式に取りやめになった1999年の時点で命運はすでに尽きていたのかもしれない。

◆⑦留萌駅

 留萌本線の終着、留萌駅北海道留萌市)は、道内を14区分した振興局のひとつ「留萌振興局」の中核都市。かつては札幌や旭川と急行が行き来し、羽幌線や天塩炭砿鉄道、留萠鉄道が乗り入れる道内でも有数のターミナル駅、貨物駅として賑わっていた。

 大きな駅舎はその名残だろう。構内のギャラリースペースでは昔の沿線の様子が写真で紹介され、ほかにも記念撮影コーナーも用意されていた。

 さらに待合室には沿線ではここだけの立ち食いそば屋がある。この店は創業100年以上の老舗で、にしんの甘露煮を乗せた絶品「にしんそば」(650円)は鉄道ファン以外にもこれを目当てにわざわざ足を運ぶ人もいるほど。しかし、同店も駅の廃止に合わせて3月末での閉店が確定。横浜から訪れた60代の男性は、「20代のころ、北海道を鉄道旅行した際に食べた思い出の味。最後にまた来ることができてよかった」としみじみと語る。

 北海道では黒い麺で人気だった音威子府駅の『常盤軒』も21年に閉店し、今や道内の駅そば店は絶滅危惧種。貴重な駅グルメがこうして姿を消すのは残念な限りだ。

◆【番外編】浜田浦駅

 留萌本線ではないが、3月18日からのダイヤ改正に伴い廃止となったJR日高本線の浜田浦駅(北海道むかわ町)にもついでに訪問。駅は海岸線から600メートルほど入った場所にあるが海チカという印象はまったくなく、どこか原野のような荒涼とした風景が広がっている。

 周辺には少し離れたところに工場があるのみで民家は皆無。ただし、苫小牧と静内方面を結ぶ、国道235号線が線路と並行する形で走っており、交通量は意外と多い。

 遠目からだとホームは草で覆われ、コンクリートブロック製の待合室にも駅名の表示もない。入口に扉がないので寒いうえに誇りっぽく快適とは言い難い。そういう意味でも廃止前から自然に還りつつある雰囲気を漂わせていた駅だった。

◆5年で4路線が廃止に

 北海道で全区間、または一部区間が廃止となった路線は00年代以降だけで7路線。19年の夕張支線の全区間をはじめ、20年には札沼線北海道医療大学~新十津川)、21年にも日高本線(鵡川~様似)、そして今回の留萌本線とこの5年で4路線が廃止。さらに根室本線富良野~新得間が来年3月末で廃止の方針が示され、留萌本線の残りの石狩沼田~深川も26年中、函館本線長万部~小樽は時期未定ながら北海道新幹線延伸までに廃止されることが決定済みだ。

 今やスカスカになってしまった全国の鉄道網。3月9日には房総半島を走る久留里線についてJR東日本・千葉支社が千葉県君津市に協議を申し入れたことが発表され、廃止の可能性が高まっている。

 とはいえ、鉄道の旅にはそれだからこそ味わえる旅情もある。たまにはローカル線で普段行かないような場所を訪れるのもいいかもしれない。

<取材・文・撮影/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

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「ありがとう留萌本線」の感謝のメッセージが