定年しても現役を引退せずに働き続ける高齢者が増えています。そこでも定年前のように、高給を手にするサラリーマンがいます。「定年後も勝ち組」。しかし、思わぬ落とし穴が待っていました。みていきましょう。

働き続ける高齢者、過去最多の900万人超

定年の年齢は60歳という会社が多いですが、法改正に対応し、ほとんどの企業で65歳、さらにはその先まで働ける環境が整いつつあります。それに伴い、60歳で現役引退という人も少なくなってきました。

総務省『労働職調査』によると、2021年の高齢者の就業者は909万人と過去最多を記録。年齢別にみていくと、「60~64歳」で働いている人は71.5%。つまり60歳で引退する人は、その前に無職になった人含めて3割を割り込むという水準です。さらに「65~69歳」でも50.3%と過半数。「70歳以上」が18.1%と、70代の2割は働いているという状況。さらに男性だけに限定すると、その数はさらに増えます。

【年齢別「高齢就業者」の割合】

「60~64歳」71.5%/82.7%/60.6%

「65~69歳」50.3%/60.4%/40.9%

「70歳以上」18.1%/25.6%/12.6%

出所:総務省『労働力調査』(2021年)より

※数値は左より、男女計/男性/女性

高齢就業者を雇用形態別にみていくと、役員を除く雇用者が517万人、役員が111万人、自営業等が270万人。雇用者の内訳をみていくと、正社員が124万人、非正規社員が393万人。会社員として現役続行の4人に1人が正社員として働き続けています。

その給与(所定内給与月額)はいくらくらいなのでしょうか。男性正社員の場合、60代前半で35.2万円、60代後半で31.0万円、70代以上で29.1万円。一方、男性非正規の場合は、60代前半で27.4万円、60代後半で24.0万円、70代以上で21.8万円です。

さらに大卒・大企業(従業員1,000人以上)というエリートサラリーマンの場合をみていきましょう。正社員であれば60代でも月収は40万円台。賞与も含めた年収は600万円前後。非正規であれば月収は30万円前後、年収は300万~400万円台となります。

【年齢別「高齢就業者」の給与】

「60~64歳」43.1万円(649万円)/31.8万円(474万円)

「65~69歳」41.7万円(593万円)/28.4万円(388万円)

「70歳以上」45.7万円(601万円)/28.7万円(386万円)

出所:厚生労働省令和3年賃金構造基本統計調査』

※数値は左より、大卒・男性・従業員1,000人以上・正社員/大卒・男性・従業員1,000人以上・非正社員の月収(所定内給与額)、(かっこ)内は年収

年金をもらっていなくても存在する「47万円の壁」

やはり大卒・大企業勤務のエリートサラリーマンは定年後も高給取り。そんなエリート街道だけを歩んできた人はどれくらいの年金を手にするのでしょうか。大卒後、ずっと大企業勤務の平均給与を手にし、65歳で引退したとしましょう。その場合、平均標準報酬額は56万円となり、65歳から手にする年金は厚生年金部分だけでおよそ月13万円。国民年金と合わせると、月19万~20万円ほどになります。

さらに原則年金支給となる65歳を超えてもなお、現役続行するとします。そのとき「厚生年金を繰り下げ受給して、さらに年金額を増やそう」と考える人も多いでしょう。繰り下げ受給は、受給を1ヵ月遅らせる(繰り下げる)たびに0.7%、最大75歳0ヵ月、84%まで増額できるという制度です。たとえば70歳0ヵ月までの繰り下げ受給を選択したなら、42.0%の増額となります。前出のエリートサラリーマンの場合、月28万円程度の年金額になる計算です。

――給与はまだあるし、年金はまだいいかな

そう考えるエリートサラリーマンに思わぬ落とし穴が。それが在職老齢年金制度の「47万円の壁」です。

在職老齢年金は60歳以降に働きながら受ける老齢厚生年金のこと。受給する厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計額に応じて年金額が支給停止となる場合があります。その金額が47万円。47万円を超えると、在職老齢年金による調整後の年金額は「基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2」で計算されます。まとめると、給与が高いと年金は減額されますよ、ということです。

しかし繰り下げ受給の場合、年金をもらっていないのだから関係ないかといえば、そうではなく、在職老齢年金により支給停止されるはずの部分は、年金を繰り下げても増額の対象外。繰り下げ受給で増額になるのは、本来の年金額から在職老齢年金により減額される部分を引いた残りだけなのです。

前出のエリートサラリーマンの場合、仮に在職老齢年金をもらうとすると減額される年金は月額3.85万円。つまり、厚生年金部分は9.15万円となり、そこに42.0%が加算されるということ。国民年金と合わせて月22万円ほどになる計算です。これが一生涯続きます。

実際には70歳まで正社員として働けば保険料を払うので、さらに年金額は増え「働き損」ということはありません。しかし、「繰り下げ受給したけど、思ったほど年金は増えなかった」という、なんとも納得しがたいことが、エリートサラリーマンには起きてしまうのです。

(※写真はイメージです/PIXTA)