50代女性の6人に1人は非婚者の現代。おひとりさまで最後を迎えることに漠然とした不安を抱えている人も多いはず。でもきちんと対処していれば、じつはそんなに心配することはありません。“ひとり終活”指南を『週刊文春WOMAN2023春号』より、一部編集の上紹介します。

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生涯未婚率と離婚率が年々上昇

 突然の夫との死別は、夫も私も42歳のときに訪れた。ある朝、夫はすやすや眠ったまま、ベッドの中で冷たくなっていたのだ。前の晩までいつもと変わらず元気だったのに──。私自身はこうして12年前、おひとりさまになった。

 厚生労働省『国民生活基礎調査』(2021年)によれば、65歳以上の高齢者世帯のうち31・7%が女性のおひとりさまで、実に477万6000世帯に上る。2001年調査では245万1000世帯だったので、この20年間で2倍近くに増加したことになる。

 もう少し若い世代は、たとえば50歳の女性の場合、5~6人に1人が結婚したことがない(2020年国勢調査』の調査結果から筆者が計算)。もちろん、この女性たちが今後結婚しないとは限らないわけだが、生涯未婚率が年々上昇しているのは周知の事実だ。また、離婚率も上がっている。そう遠くない将来、高齢のおひとりさまがマジョリティになるのは間違いなさそうだ。

「ボツイチ(没いち)の会」を結成

 私はもともと死生学の研究者で、立教大学に開設された50歳以上のシニア層を対象とする立教セカンドステージ大学で長年、死生学の講義を行ってきた。受講生には「残された時間をどう自分らしく生きるか」を考えてもらっている。

 夫が亡くなった翌年、配偶者と死別した受講生やこの講座の卒業生たちと「ボツイチ(没いち)の会」を結成した。配偶者に先立たれた人が前向きに生きていくための懇親会である。

 これまでは男性が多く、この会に入りたいがためにセカンドステージ大学に入学する人もいる。自分が先に死ぬと信じて疑わず、妻に先立たれておひとりさまになるなんて想像もしなかった男性たちだ。

病気や介護のことは心配しなくてもよい

 一方、女性というのは夫と死別しても同じ境遇の仲間もいるし、お茶のみ友だちもいるものだ。ところが、このコロナ禍にあっては女性の入会が増えている。どうやらステイホームを強いられ、人とつながる機会を失ってしまったようだ。

 死別者に限らず、私の周りのおひとりさまのなかには、「自分に介護が必要になったら」「認知症になったら」「孤立死したら」などという不安にかられている人が少なくない。しかし、研究者としてだけでなく、夫の突然死による混乱と悲嘆を経験した者としても、そんなに心配することはないですよと言いたい。

ひとりさまの終活を万全にするために

 まず、自分のこれからの人生で何がリスクなのか、何が不安なのかを具体的に把握する。そして、それらのリスク、不安に対処する制度やサービスが日本にはけっこうあるという現状を正確に知ってほしい。

 その上で、(1)自立できなくなった後、自分はどうしたいのかという意思を明確にすること、(2)その意思を理解し、伝達してくれる人、あるいは確実に伝達される方法を見つけることさえやっておけば、おひとりさまの終活は万全だと思われる。

 では、これからの人生のリスクや不安について、考えておくべきこと、そして考えておかなくてもよいことを挙げていこう。

Point 01
“長い老後”をどう過ごす

 2021年に死亡した女性の4割強が90歳を超えていた。人生100年時代が到来し、長生きリスクという嫌な言葉もあるが、特に平均寿命が長い女性の場合、老後について心配する人は多いようだ。

考えるべきこと

●何をしたい?
 50代半ばになったら、リスキリングボランティア活動、経験やスキルを活かして起業する、趣味にまい進するなど、自分は何をしたいのか、65歳以降の自分のライフスタイルイメージしておく。

●家計をどうするか?
 ライフスタイルが決まれば、お金のシミュレーションもしやすい。参考までだが、2021年の『家計調査報告』(総務省)によれば65歳以上の単身世帯の1カ月の消費支出の平均額は13万2476円である。

 年金は国民年金(老齢基礎年金)、厚生年金とも受給できるのは65歳からだが、繰り上げ受給は60歳から、繰り下げは75歳まで可能だ。繰り上げの場合は受給開始が1カ月早まるごとに0.4%(1962年4月1日以前の生まれの場合は0.5%)減額されるので、60歳になってすぐ受給する場合は24%(1962年4月1日以前の生まれの場合は30%)の減額になり、この支給額は生涯変わらない。

 繰り下げの場合は受給開始を1カ月延ばすごとに0.7%増額されるので、最長の75歳まで繰り下げると84.0%も受給額がアップする。年金の見込額は日本年金機構のねんきんネットhttps://www.nenkin.go.jp/n_net/)で試算できる。“人はいつ死ぬかわからない”ことを身をもって知った私自身は60歳からの繰り上げ受給を考えている。

高齢者の医療費や住まいに関することは心配だが…

考えなくてよいこ

●医療費は心配しない
 高齢になると病気になる頻度は高くなるが、日本の公的医療保険では、70歳以上の年金生活者の自己負担割合は現役時代より低くなる。また、通院だけなら月に1万8000円、通院と入院も含めて月5万7600円を超えた医療費は、高額療養費制度によってすべて還付される。月5万7600円までなら支払える、それを超えたとしても還付されるまで立て替える感覚で貯金から支出できるようであれば、民間の医療保険に入る必要はない。

●住まいは保証人がいなくても大丈夫
 高齢者が賃貸住宅を借りる際や老人ホームの入居時に、保証人がいないと入居を断られるケースがあるが、最近、保証人を立てず保証会社を利用する人が増えている。賃貸住宅の場合、初年度の保証料は、月額家賃の半月から1カ月分程度だが、家賃を滞納しなければ次年度からは安くなる。

※病気や認知症に備えるためにすべきこと、終の棲家の決め方、死後事務や遺産の分配方法など、ひとり終活で考えるべきこと、考えなくてよいことの全文は『週刊文春WOMAN2023春号』に掲載されている。

(小谷 みどり週刊文春WOMAN 2023春号)

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