多くの人が、老後のセカンドライフのプランや生活資金について、漠然とした不安を抱えています。その不安の内容を明らかにし、解決するためには何をすればよいのでしょうか。本記事では、元キャスターでCFP・ジャーナリストの和泉昭子氏が、著書『定年後のお金、なんとかなる超入門 インフレ時代のセカンドライフ』(KADOKAWA)から、理想のセカンドライフを過ごすために、何から手を付けるべきかについて解説します。

セカンドライフを自分らしくより充実させるために「お金の計画」は大切です

「人生100年時代」といわれる中、「老後の生活にいくらかかるのか」「お金に困らず暮らしていけるのか」と心配になり、長生きするリスクに対処するため老後は控えめに暮らそうと考えている人も多いと思います。

ですが、私は、「60歳から75歳までの間に多めにお金を使い、自分のやりたいことをしましょう」という提案をします。

ファイナンシャル・プランナー(FP)として、長生きの時代に考えもなく「お金をどんどん使っちゃっていいですよ」といっているわけではありません。

ここ数年の実体験を経て、少なくとも、私自身は老後の前半に比重をおいてお金を使っていこうと考えています。

これを『前を厚く生きる』=『前厚ライフ(前厚)』といおうと思います。

自由に動ける時間は意外と短いということに気づいた

どうして、そのように考えるに至ったかのお話をさせていただきます。

私は、50代後半から、母の在宅介護をすることになり、仕事の量を減らし、母のことが第一優先の生活を過ごしていました。

介護をする中で、高齢の親戚ですとか、介護を必要としているたくさんのお年寄りの方々、そして介護の仕事に従事していらっしゃるヘルパーさんやお医者さんなどとお話をする機会がふえました。

その中ですごく感じたのが、「自由に動ける時間って意外と短い」ということ。そんなことはとうにわかっていると思っている方も多いかもしれませんし、私自身も頭ではわかっているつもりでした。

しかし、いろいろな方のお話を聞いて、「長い長いといわれる老後も、自分らしく好きに動ける時間って限られているのだ」ということを痛感したのです。

50代は、まだまだお金がかかることもありますし、定年後の生活について考えられないという人もいるかもしれません。でも、今のうちから自分のセカンドライフについて少しずつでも、イメージしてほしいと思っています。

定年後の自分の暮らしをどうするか?新たな人生が始まる気持ちで考えてみる

では、「前厚」を実行するにはどうしたらよいのでしょう。改めて「前厚」とは、老後を30年間と想定したときに、前半と後半に分けて、その前半を思いっきり充実させる。そのために、お金の配分についても「前を厚くする」という考え方です。

現役時代は、家族のため、会社のためなど、自分のことは、わきにおいて走り続けていた人がほとんどだと思います。わたしもそのひとりです。介護をする前は、全力で仕事に集中してきました。

今まで頑張ってきた分、定年後、元気で動ける60歳から75歳は、「やりたいこと」「やりたかったこと」にチャレンジする新たなチャンスだと思っています。

その時間をいかに充実したものにできるかは、自分自身としっかり向き合って、どんな風に過ごしていけば幸せに感じられるのか? 悔いが残らないのかを、とことん考えること。

元気で自由に動ける時間って、本当に短いんです。重い病気になって闘病生活を続けなくてはいけないこともありますし、ある日突然、寿命がくるということもゼロではありません。

私の場合、自分のセカンドライフをどう過ごしていくかを考えたのは、還暦を迎えたその年、母が亡くなってからでした。

はずかしい話なのですが、母が亡くなった後の最初の数カ月間は、悲しみと脱力で、一日のほとんどを横になって過ごす日々が続いていました。

ですが、あるときこのままではいけないと思い立ち、自分のこれからの人生についてじっくりと考えることにしたのです。

母の介護をしているときは、セカンドライフについて考える余裕はありませんでしたし、仕事もセーブしていましたので、その後のプランは何もありませんでした。

その時点での私のライフプランは真っ白になっていたのです。そこからまた、自分の人生について考え始めることとなりました。

理想のセカンドライフへの道のりを考える

セカンドライフにはいろいろな不安が付き物です。そもそも老後のライフプランを考えたことがないという人も多いのではないでしょうか。そこで、理想の老後を過ごすためにはどんなことをすべきかについて、「先生」と「生徒」の2人とともに考えてみましょう。

老後の前半はアクティブに過ごそう!老後は「前厚」に生きると決めてお金の使い方を考える

【CHECK!】

  • 元気で健康でいられる時間は意外と短い。体が動くうちに思いっきり楽しむ
  • 老後の後半はシンプルに暮らすという考え方も

生徒:自分のやりたいことを思いっきりやりきるとしても、80歳、90歳になってやっぱりお金が足りなかったという事態にならないかが心配です。

先生:その気持ちはわかります。寿命がわからない以上、最低でも老後30年間は、お金には困らないように計画していきたいと考えるのが一般的でしょう。ですが、老後の30年間、ずっと元気でアクティブに動けるとは限らないのですよ。

生徒:たしかに。60歳と80歳の体力では全然違いますよね。

先生:厚生労働省が発表している健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳です。このことからも、健康で元気でいられる時期は意外と短いということがわかります。

※「健康寿命の令和元年値について」厚生労働省

私は、老後の30年間を前半と後半で分けて考えたときに、60~75歳の前半に、使うお金を厚くして、アクティブに楽しむ「前厚型」という考えを持ってもよいのではないかと思うのです。

生徒:「前厚型」ですか。確かに、年齢が高くなると、自由に動けなくなることも多くなりそうだし、元気で動けるうちにいろいろなことに挑戦して楽しむほうがお金も生きてきますよね。

先生:そうなんです。何をしようかとぼんやりと過ごしていくうちに、「結局やりたいことは、何もできなかった」と後悔しないように、今のうちから年齢に合わせてやりたいことを計画しておくことで、必要なお金も見えてくるようになります。

たとえば、旅行へ行くのが趣味という人は、70歳までは、1~2年に1度、日数のかかる海外へ行くけれど、70歳からの5年間は、アジアなど近くの国々や国内旅行に変える。それ以降は、近場の温泉でのんびりするなど。

体力的な負担や経済的な負担を軽くしていくことで、その年齢に合った自分らしい楽しみ方を考えるといいかもしれません。

生徒:なるほど! その年代ごとの体力や健康度合いに合った楽しみ方に変えていけばいいんですね。

先生:そうです。一度立てた計画を必ず実行しないといけないわけでもありません。無理があれば調整するなどフレキシブルに進めていくといいとでしょう。

ただし、75歳以降は、年齢が上がるほど大きな病気や介護へのリスクが高まりますから、医療・介護のお金は確保できるように手立てを考えておくこと。

たとえば、手をつけない貯蓄として別の預金口座に分けておくことや、生命保険の解約返戻金で準備するなど、別枠で確保しておくといいですね。

大事にしたいことの主軸を変えよう「働く人」から「趣味を楽しむ人」へ転換

【CHECK!】

  • ライフキャリアレインボーで自分のキャリアを見直す
  • 悔いのない老後を過ごすために「やりたいこと」「やりたかったこと」をじっくり考える
  • 優先順位をつけてお金の配分も検討する

生徒:定年後に何をやりたいか? すぐに思いつかない人も多いのではないかと思うのですが。

先生:そういう方も結構多いと思います。ここで、私がおススメする「やりたいこと」の考え方メソッドをお伝えしますね。

生徒:考え方メソッド! どんな方法ですか?

先生:自分の人生を楽しくするために、アメリカの教育学者ドナルド・E・スーパーが提唱している「ライフキャリア・レインボー」という理論から、人生のライフキャリアを輝かせるヒントを考えます。

生徒:ライフキャリアとは?

先生:この理論ではキャリアを仕事だけととらえず、年齢や置かれている立場の8つの役割の組み合わせでキャリアが形成されているとしています。[図表2]を見てください。

人生のステージには「子」としての役割があり、その後成長していくうちに「学ぶ人」となり、成人すれば「働く人」という風に変化していきますよね。これは1つだけじゃなく、同時に誰かの「親」だったり、「配偶者」だったりと複数の役割があります。

先生:そして、この役割は、年齢やその場所によってさまざまに変化していきます。現役時代であれば、「親」「働く人」「家を維持する人」の幅が大きくなりますし、仕事をしながら勉強を続けていれば、「学ぶ人」でもあります。

スーパー氏は、この複数の役割での経験を積んでいくことで、自分の豊かな人生やキャリア形成が可能になると唱えているのです。

この役割は、定年後には変化します。たとえば、働く人や親の役割は小さくなり、代わりに「市民」としてボランティア活動をしたり、「趣味を楽しむ人」として、自分の好きなことを思いっきりやる。この趣味を楽しむのも人生のキャリアを積んでいるという風にとらえているんです。

このライフキャリアをベースに、これからやりたことを考えてみましょう。お金や時間、健康などの制限はいったんわきに置きます。

まずは、付箋を用意してください。

生徒:お金も時間も制限なし。どんなことでもいいんですね。

本当に「やりたいこと」を実現するまでの手順

先生:用意した付箋の1枚に1つずつ、自分がやりたいことを思いつくまま、最低でも10個書いてください。

生徒:10個! 思いつくかな~。

先生:どんなことでもいいんです。たとえば、今まで夫婦の時間が全然なかったから、2人で共通の趣味を始めるなら何をしようか、離れて暮らす親の顔を見に定期的に実家を訪ねたいとか、昔やっていたバンドを復活させたい、大学で学び直したい……など。思いつくままでいいのです。

生徒:思いつくまま自由に。やってみます。

先生:次は、やりたいことの優先順位を決めます。書いた内容を2つずつ見比べて優先するのはどっち? という風に。

そのとき、必ず優劣をつけてください。どれから始めたら自分の満足度が上がるのか? 後悔がないかということで考えるためです。優先順位がついたら、リストに書き出していきます。

そして、ここが重要! リストに書いたやりたいことについて、どうしてまだやっていないのか? 理由を書き出します。

生徒:やっていない理由ですか。

先生:よくいわれることですが、「やりたいこと」って裏返すと「やっていないこと」なんです。何故まだやっていないのか、その理由・要因を探ってください。

お金がないせいか、時間がないからかと、深く考えているうちに、意外とこれは優先度が低いからと、順番が変わって、本当に自分がやりたいことが見えてくるはずです。

そして、まだやれていない原因が「お金」であれば、実現させるためにいくら必要なのか、どうやって資金を捻出するかについても考えを進めていってください。

次回から、これらやりたいことのクオリティを下げずにコストを下げる、上手なやりくり方法をお伝えします。

和泉 昭子

生活経済ジャーナリスト/ファイナンシャル・プランナー/人財開発コンサルタント

(※写真はイメージです/PIXTA)