ウマ娘 プリティーダービー』『アイカツスターズ!』『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』などの人気作品へ次々に出演し、芝居にステージに、幅広く活躍を繰り広げる声優・前田佳織里が、待望の自身名義での音楽活動をスタートする。3月15日にリリースされた1st EPのタイトルは、『未完成STAR』。初のアニメタイアップ担当楽曲を含む全4曲は、いずれも「表現者・前田佳織里」のパーソナリティを映し出した佳曲たちだ。音楽活動、そして『未完成STAR』にたどり着くまで、前田佳織里はどのように歩みを進めてきたのか――声優や音楽を志すことになったルーツから青春時代、そして現在に至るまでを語り尽くした超ロング・インタビュー、第4回は高校生で見つけた自身の夢へと向かうプロセスについて聞いた。

【写真】1st EPへの手応えを語る前田佳織里

■人の3倍やらないとできないって思っているので、手を抜く選択肢はない

――高校でバンドをやっていたときに、自分でマイクを買って練習をしていたんですよね。

前田:練習、してました。当時、わたしたちのバンドでカバーしていこうよって話が出たときに、「じゃあ、まずはマイクからや」って言って(笑)。もう、とことんやらないと気が済まなかったんですね。調べて買ってみて、いろいろと使い分けてました。ライブハウスで使うマイクはこれっていうのもあったりするんですけど、自分で聴いたときになんかシックリこなくて、新しく自分でマイクを買って。「へえ〜、単一指向性はこういうふうにやるんだあ」とか調べたり(笑)。持ち込みマイクをやってましたね。

やっぱり、ギター、ベース、ドラムの楽器隊の負担が大きいということもわかっていたので、自分がボーカルでやりたいって言ってるんだから、より練習をしなくちゃダメでしょって思って。みんなのためにもやろうと思ったし、「前田、上手くなったよねえ」って言ってもらえるのはとっても嬉しかったですね。

――自分でも上達していく実感や自覚は得られてたんですね。

前田:初めて、自分で計画的に努力をして頭も身体もフルに回転させて成し遂げたときにすごく実感しました。

――青春時代にそういう経験ができてることも、声優としての今に生きてるんじゃないですか。

前田:そうですね。自分としては別に真面目なつもりはなくて、人の3倍やらないとできないって思っているので、手を抜くような選択肢はないなと思っています。

――他人以上に、やらねばならぬ。

前田:ならぬ、です(笑)。

――「道を追究してる人」には見えるでしょうね。

前田:ひとつ「こうだ」って決めたら、ほんとに押し通す頑固さはあるかもしれないですね。

■ノートには神様がいるって思ってる

――声優になることが夢になって以降、「声優になったあとの自分」は当時どのようにイメージしてたんですか。

前田:声優になったあと、逆にそこまで考えられてなかったんですよ(笑)。

――なるためのイメージをひたすらしていた。

前田:はい。そう、なりたくてしょうがなくて。だから、なったあとの大変さは、ほんとに身に染みましたね(笑)。

――(笑)とにかく「声優になること」がゴールに設定されていて、そこまでに何をするか、が大事だったわけですね。

前田:そうなんです。で、そこが叶ったあと、なってからが勝負でした。なったあとまで、見据えてないと大変でしたね。わたしの場合はなることが第1段階の目的で、なってからのことはほんとに漠然としてました。まずはならねば、第2段階はないと思っていたので。

――でも、声優になるために力を尽くした経験は、確実に今につながってますよね。

前田:そうですね。昔の自分に、すごく救われます。高校のときから、ずっとノートをつけていて、実家にある分も合わせたらたぶんもう何十冊もあるんですけど、当時考えていたことも書いてあって、たまに見返すと当時こんなこと思ってたんだ。と初心に戻ります。

――たとえばどういうことが書いてあるんですか。

前田:覚えているのは、大きなひとつのことを成し遂げるためには、いきなりその階段を目指すんじゃなくて、1個1個ステップアップしていけば必ずできる、みたいなことを書いてました。で、階段の絵を描いて、そこに棒人間を描いて、星描いて(笑)。いや、ほんとに恥ずかしいことばっかりです。「成せばなる」みたいなことも書いてました。ノートに書いてることは基本――ノートには神様がいるってわたしは思ってるんですけど、やっぱり言葉に出したり書いたりすると、頭の中でしっかり整理されるんですよね。だから、メモ魔でした。同時にいっぱいのことを考えていると、たまに「うわ〜!」ってなっちゃうので、その前に、1回ノートに順を追って書くことがあります。

――自分を省みる時間にもなるし。

前田:はい。自分にとっては、すごく大切な時間ですね。自分の中で「今日、上手くいかんかったな」って反省会をするときは、気が済むまでノートに書きます。なんでそれができなかったのかって。

――それは今もやる?

前田:やります。自分が成長していくためにこれからもやらないといけないことだと思ってるので。失敗を次に活かすために、自分が納得いくまで。次、似たような現場でどうしたらいいのかも考えられたらいいな、と思っています。まあでも、そうはならないこともいっぱいあるんですけど!

――確かに、書いて終わり、じゃないですもんね。

前田:もちろん。でも、基本的には自分の中でそれがすごく身になってると思っているので、続けていこうと思います。

■「声優になるし」って思ってたし、絶対なる、みたいな。絶対を信じていたし、なれないとかじゃなくて、なる。なれないことは、頭にすらなかった

――夢を持ってそれを目指すということは、折れかける体験も10代のうちにあったのかな、と想像するんですけど、どうでしたか。「やっぱり無理なんじゃないか」とか。

前田:あっ、それはなかったかなあ。

――貫いた。

前田:貫いたというか、なれなかったことを考えてなかったです。「声優になるし」って思ってた(笑)。「絶対になる!」みたいな。絶対を信じていたし、なれないとかじゃなくて、なる。なれないことは、頭にすらなかったですね。

――なれなかった自分がどうなるかの想像は一切しなかったんですね。

前田:当時はなかったかも。まっすぐでしたね(笑)。もちろん、焦りはありました。特に、母には反対されていました。厳しい業界なので、「もしなれなかったらどうするの」「まず大学に行きなさい」とは言われていて。でも、大学に行くことも大切なことだとは思うんですが、当時のわたしはたぶん大学に行きながら夢を目指すことはできないような気がしていたんです。だからわたしは声優を目指す、進学はしない、と。

母は大学受験を勧めてくれて、期待をしてくれていたんですね。母が出した条件は、センター試験は絶対受けてっていう。で、センター試験は受けて、受験はしなかった。だから、高校のうちに、あまりちゃんと勉強には取り組めてなかったけど、母から課せられたものはやったのかな、とは思いたいです(笑)。

――その選択は間違ってなかったし、夢を実現するために選んだ道が正しかったんだって、何より今の前田さんの活躍が証明していると思いますよ。

前田:はい、そう言っていただけると嬉しいです。

取材・文=清水大輔

写真=北島明(SPUTNIK)

スタイリスト:柏木作夢

ヘアメイク:坂本由梨奈(Leading)

前田佳織里/撮影:北島明