松田文雄氏の著書『「心の育ち」と「自分らしさ」―子育てと自戒―』より一部を抜粋・再編集し、「ほめるしつけ」「応用編のしつけ(我慢すること、待つこと、諦めることについて)」についてみていきます。

ほめるしつけ

恐らく最も難しいしつけだと思います。

甘くもなく厳しくもなく適切にほめるためには、子どもの成長を十分に把握していなければできません。成長をほめるために、子どもの成長に十分な関心を向けていることにも意味があります。

半年前からできていたことをほめられてもあまり嬉しくないでしょうし、「何を今頃になって!」と腹が立つかもしれません。タイミングよく、正当に適切にほめられたという体験として心のなかに染みこむことが大切です。ほめすぎや親の無関心といった極端な態度にならないように「ほどほどのほめ方」をすることは難しいものです。

1日のなかで叱られた回数よりほめられた回数のほうが必ず多くなるように接しましょうという考え方があります。

これは、1日2回以上ほめるならば、1回くらいは叱ってもよいという意味にも聞こえますが、叱るためにほめるのではありません。ほめ上手になってください。ほめられることは、お世辞とわかっていても悪い気はしないものです。嬉しい体験、よい体験を求めて努力する態度を養うためにも大切な積み重ねの体験になります。

一方で、 “ほめられ上手”とはどういうことでしょうか。自分の努力をアピールする力でしょうか。認められたいための努力はいけないことでしょうか。“ひたむきな努力”が評価されるのではないかと思いますが、アピールする力も必要かもしれません。

やがておとなになって、誰も努力をほめてくれなくても、「自分ながらよくやったよ」と内心自分をほめることができるようになるとよいですね。

しつけの応用編(我慢、待つ、諦めることについて)

子どもが成長して、多様な人間関係を経験しながら社会生活をその子らしく生き抜いていくためには、嫌なことを克服する力を身につけなくてはなりません。

我慢することも、待つことも、諦めることも嫌なことばかりです。子どもは我慢できません、待てません、諦められません。諦めないこともときには大事ですが、諦めることも大事です。

おとなになればできて当たり前になり、できないと世間では通用しません。おとなになっても嫌なことは尽きません。子どもにどのように関わり、接していけば“嫌なことから逃げない気持ちを養う”ことができるようになるのかを、具体例を通して考えていただきたいと思います。

おもちゃ売り場で「あれ買って!」…どう対応する?

「我慢すること」を例にあげます。

母親と7歳の男の子がデパート買い物に行きました。たまたまおもちゃ売り場の前を通り過ぎようとしたときの場面です。

想像してください。子どもがおもちゃを指さして「あれ買って!」と言いました。もちろんおもちゃを買う約束はしていないし、たまたま通っただけでした。

このような状況で、母親は、「何でもすぐに買い与えては、この子のためによくない」、「我慢させなければ」と内心思ったとします。そのような場合には、いきなり「ダメ!」と禁止するのではなく、これから何をするのかをまず伝えなければなりません。

「今日は買いませんよ。我慢しようね」です。つまり、「あなたはこれから我慢するということができるようになってちょうだいね」というメッセージです。

そのメッセージに対して、子どもは「ヤダ! 買ってよ!」とすぐには引き下がらないでしょう。これは通常のパターンです。

このとき、あまりに聞き分けがよかったら「なぜ、そんなに聞き分けがよいのだろう?」と考えてみてもよいかもしれません。

次に「なぜそのおもちゃをほしいと思ったのかを聞くことが必要です。「そのおもちゃを買ってほしいと思ったのはどうして?」と。

すると「前からず~っとほしかったし、友達もみんな持ってるし」と買ってもらうための理由を並べるでしょう。そこで「わかったよ、そうだったんだね」と理由を受け取ります。

理由も聞かずに我慢しなさいと言われると「このおもちゃがどんなにほしいか知らないくせに、僕の気持ちなんかわかってくれない!」というストーリーになります。

理由を聞いたあとは、「このおもちゃがどれくらいほしいのかよくわかったよ。わかったけど今日は買いません、我慢しようね」と穏やかに返します。

このとき子どもは、「どれくらいこのおもちゃがほしいのか、わかったんだったら買ってよ!」と思うでしょう。当然ですよね。

では、この時点でなぜ我慢しなければいけないのかを、その理由を本人にわかるように説明しなくてはなりません。子どもに理解できて、ある程度納得できる説明をすることは結構難しいことです。

子どもに説明する「我慢すべき理由」例

たとえば、「急に目についたおもちゃを買ってあげると、いつでも駄々をこねればほしい物がすぐに手に入るということになって、それはあなたにとってよくないことだと思うから、だから今日は買いませんよ。我慢しようね」と言ってみてはどうでしょう。

きっと子どもはその言葉をなかなか受け入れないでしょうね。

わが子に説明するために、我慢しなければならない理由を日頃から一生懸命考えておいてください。我慢の理由を説明したとしても、子どもはそれでもなかなか諦めないでしょう。

生まれてから現在まで過去のデータを掘り起こし“こうすれば買ってもらえるかもしれない”という作戦に出ます。これは生き抜いていくために重要な作戦です。

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松田 文雄

東海大学医学部医学科卒業後、国立精神神経センター診断研究部流動研究員などを経て、東海大学大学院医学研究科修了。

現在、医療法人翠星会松田病院理事長・院長。精神科・児童精神科医師。

医学博士。精神保健指定医。日本精神神経学会専門医。日本精神神経学会指導医。子どものこころ専門医。

(※写真はイメージです/PIXTA)