あまり起こってほしくないことですが、親であれば1度は目の当たりにする「わが子が頭を打った」場面。いったん様子を見る人もいれば、血相を変えてすぐ病院に連れていく人もいるなど、実は親の反応はさまざまです。しかし、親の対応次第で、子どもの「思わぬ部分」にも影響が出ることがあると、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。複数の論文をもとに、詳しくみていきましょう。

子どもが頭を打った…親の反応として正しいのは?

さな子どもを持つ親であれば、子どもが頭を打った場面を目の当たりに経験があることでしょう。その際、親の反応はさまざまです。

「すぐ泣いたから大したことないよ。平気平気」と考える方もいれば、「すぐ病院にいかないと大事になるかもしれない」と病院に駆け込む方もいます。

実際、子どもが転んで頭を打ったとき、親としてどちらの反応が正しいのでしょうか。複数の論文から考察してみましょう。

侮ってはいけない「子どもの転倒・転落」

結論からいうと、子どもが頭を打った際に子どものことを見ないで放置することは危険です。単なる転倒でも、思わぬケガにつながっていた……ということがありえます。

マリアンナ医科大学の脳神経外科では2019年に、15歳以下で入院した頭部外傷患児149人の転機について分析しています。そのうち、転倒転落が原因の子どもは91人(61%)を占めています。

また、この149人の転機ですが、外科手術を要した子どもは14人(9%)となっているほか、手術を必要としない子どもも76人(56%)は頭の中で出血を起こしていました。つまり、転倒時に当事者やその親が「軽い」と思っていても、手術や入院をしなければならないケースがあるということがわかります。

また、他の論文では「5歳以下の頭部外傷の大半が転倒転落であり(1 歳以下:57%,2〜5 歳:81%)、6 歳以上では転倒転落と交通事故が約同数になる結果であった」と報告されています。

子どもの頭部外傷の大きな割合を占める転倒転落は、決して侮ってはいけません。

子どもの脳震盪は将来「心の病」にも影響

しかも、子どもが転んで頭を打つ影響は短期的なものだけではありません。海外の5歳~18歳の子どもたち(44万8,803名)を対象とした研究によると、脳震盪を起こしたことのある子どもは、そうでない子どもに比べてメンタルヘルスの問題を発症するリスクが約40%高いと報告されています。

実際、44万8,803名の子どもたちのうち、約半数にあたる21万2,374人の子どもたちが、過去に1回以上脳震盪を起こしていました。

そのなかで脳震盪を起こしたことのある子どもたちを分析すると、そうでない子どもたちに比べて

●あらゆるメンタルの問題を抱える確率が上がる ●自傷行為をする確率が1.44倍(1.37~1.51倍)になる ●精神科入院が1.43倍(1.37~1.49倍)に増える ●自殺してしまう確率が1.51倍になる

ということがわかっています。

脳震盪を過去起こしただけにもかかわらず、将来のメンタルヘルスの問題まで抱えてしまう……非常に恐ろしい話ですよね。

当てはまったらすぐに救急車を!子どもの「11」の異変

軽視が命取り…子どもが転んだときは例外をのぞき「すぐに救急車」を呼んで

以上から、「たかが子どもの転倒」と侮ってはいけないことが十分わかったのではないでしょうか。

イギリスのNHS(国民保健サービス:National Health Service)は、「特に次のような場合は、すぐに救急車を呼ぶようにすべきである」と報告しています。みなさんもすぐ救急車を呼ぶようにしましょう。

1.ぶつけたあとになかなか目覚めない 2.転んだあとに、目を開けない 3.聴覚や視覚に異常がある 4.目に明らかな外傷がないのに、黒目である 5.耳や目から液体が出てきている 6.耳から出血していたり、耳の後ろにあざがある 7.体の一部分が脱力していたり、しびれが生じている 8.歩いたり、バランスをとったり、話したり、書いたりするのに障害が出てきている 9.頭をぶつけるスピードが非常に早かった 10.1メートル以上の高さ、もしくは階段5段分以上の高さから落ちた 11.頭がへこんでいたり、頭の中になにか異物が入っている

昔の日本では、脳震盪で倒れても、「すぐに意識が戻れば大丈夫」と考えられていましたが、短期間(30日、平均2週間)のあいだに繰り返し脳外傷を受けると重篤な転帰をもたらすことがわかっており、これを「セカンドインパクト症候群」と呼びます。

アメリカでは、中学生女子サッカー選手に多くの脳震盪が認められることから、アメリカサッカー協会は10歳以下のヘディングを禁止する通達を出しています。日本においても、全日本柔道連盟やJリーグなどが「脳震盪後の1~4週間の練習禁止」など、脳震盪後の練習復帰指針などを定めています。

上記にあてはまらない場合でも、子どもが頭をぶつけたら、一度はクリニックや病院に行ってきちんと診ていただくことをおすすめします。

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

(※写真はイメージです/PIXTA)