「モザイクがなく、完全に性器が露出していますので…」東スポ出身の元AV女優が語る、編集前“無修正動画”の流出と訴訟を決めたワケ から続く

 2月16日無修正アダルト動画をネット上に流出させたとして、元AV女優タレントの澁谷果歩さんが制作会社などに損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。

 澁谷さんは青山学院大卒でTOEIC満点、新卒で就職した東京スポーツでは野球担当記者として活動していた。その後、好奇心からAV女優としてデビューすることになり、約750本の作品に出演。2018年に「仕事のマンネリ」を理由に引退し、現在は海外のアニメワード審査員やイベントコスプレ姿を披露したり、ゲーム配信などを手掛けている。

 そんな澁谷さんに、今回の訴訟を決めた理由にやAV業界の裏側ついて詳しく話を聞いた。(全2回の2回目/最初から読む

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「元AV女優」として注目を集めた葛藤

――現在、澁谷さんはYouTubeの企画・プロデュースをしたり、コスプレイヤーとして活動されていますが、今回訴えを起こしたことで、「元AV女優」として注目を集めました。そこに対する葛藤はありましたか。

澁谷 とても悩みました。引退して4年が経ちますし、やっとブランディングが確立してきて、新しい仕事が軌道に乗り始めたところだったので、タイミングとしてはすごく嫌でした。

 でも、今回訴えると決めた時に、AV業界にいる方から、「訴えたことで逆にいろんな人が検索したりして注目を浴びてしまったら澁谷さん困るんじゃないですか」って言われたんです。その通りなんですけど、なんかちょっと脅しみたいに感じて嫌だなと思って。それってつまり泣き寝入りしましょうよってことじゃないですか。その言葉で逆に火がついたというか、何がなんでも立ちあがろうと覚悟を決めたきっかけになりました。

 今まではこういう仕事をしていたのだから、しょうがないことだと受け入れてきましたが、AV新法などで業界が変わりつつある中、AV業界の未来のためにも今、立ち上がらなければいけないと思っています。

監督やりたい放題という現場も

――無修正動画の流出以外にも、働いていた中で業界に対する不信感みたいなものはありましたか。

澁谷 ありましたね。今はどうかわからないですが、私が働いていた2017年くらいはセクハラされたという話はよく聞きました。

 撮影が終了してみんなが帰った後に、監督から「撮りこぼしたから、ワンシーン撮りたい」と言われ、監督と絡むシーンを撮影して。でも、後日そのシーンが使われていないことがわかるんです。「やられた」と思うんですが、泣き寝入りです。「撮影のために必要だったから撮ったけど、カットしたんだ」と言われたらそれまでなので。

――撮影中にマネージャーメーカーの人が立ち会うことはないのでしょうか。

澁谷 入りたての頃はマネージャーが立ち会うこともありますが、慣れてくるとマネージャーが現場に来ることはあまりないです。メーカーの人もパッケージの写真を決めるために現場に来ることはありますが、すぐに帰ってしまいますね。現場では、監督のやりたい放題ということも少なくありません。

 休憩時間に監督やスタッフが体を触ってくることもありました。少しくらいなら我慢しますが、度が過ぎたセクハラだと事務所の人に報告します。

 でも、事務所の対応としては、「やめてください」とセクハラを断罪するのではなく、「次の撮影は優先的に入れてくださいね」と交渉するんです。私たち女優側も一般的な会社の感覚とはずれているから、それをおかしいと思わないんですよね。仕事が増えたラッキーみたいな。だから余計セクハラがなくならなかったんだと思います。

「業界内のことは業界内で解決する」が暗黙のルール

――根本的な解決には至らないんですね。

澁谷 そうですね。何か問題が起こると、基本的にはお金で解決するイメージがあります。メーカー事務所が話し合って、「じゃあ今回のギャラを少し上げておきます」とか、「撮影でおたくの女優をたくさん使いますね」とか。

 業界をやめてからそういう良くないところに気づきましたが、中にいるとそれが当たり前になるんですよね。

 昔、男優さんで業界内のルールを破った人がいて、業界の重鎮から「お金を払え」と、脅迫されたことがあったんです。男優が警察に相談したことで、その重鎮が逮捕されたんですが、男優はその後、撮影NGリストに入って、メジャーメーカーからの仕事は一切無くなりました。もちろんルールを破った男優が悪いですが、業界内のことは業界内で解決するということが暗黙のルールなので、内部の問題が明るみに出ることがないんです。

 AV業界を辞めてから業界の内部について赤裸々に明かした本を執筆したんですが、ある女優さんから、「業界を悪く言うなんて敵だ」みたいに言われてしまって。特に悪く書いたわけではないんですが、業界内のことを外に漏らすことはあまりいいことだとされていないです。だからこそ根本的な解決が難しいんだと思います。

「監督、もう声が出ません」と訴えても…

――そういった業界に対する不信感が積み重なって澁谷さんは引退を決めたのでしょうか。

澁谷 もちろんそういうのも理由の1つですが、やっぱり自分自身の好奇心が満たされたというのが大きな理由ですね。

 AV女優として活動する中で、だんだんと楽しもうという気持ちよりも楽しませなきゃという気持ちの方が強くなってしまって。刺激や面白さ、新鮮さがなくなり、最終的には仕事がルーティン化しちゃったんです。それに体力的な限界も感じていました。

 撮影では多くの人と体液を交換するので、常に体調が優れなかったです。扁桃腺が腫れて声が出ないけど、撮影に行かなければいけないということもありました。「監督、もう声が出ません」と訴えても、「大丈夫、まだ行ける」と言われてしまって。これはもう体力的に難しいかもしれないと思って、引退を決めました。

――澁谷さんにとって、体力的なきつさには、撮影時間の長さなどが影響していたのでしょうか。

澁谷 そうですね。撮影は朝の8時から長い時は深夜の2時までかかることがありました。それが月に10~15回程度あります。撮影中は女優が動くことも多いので、結構体力を消費しましたね。

 私がスポーツ新聞で現場記者になったときは、月に1回ぐらい風邪を引いていたんですが、AV女優だったときは、月の半分は風邪をひいているみたいな状況でした。体力にはそこそこ自信があったんですが、やっぱりAV女優の仕事は大変でしたね。

AV業界を働きやすい環境にしていくために

――今改めてAV業界に対して思うことを教えてください。

澁谷 業界に対していろんなことをお話ししてきましたが、私はAV女優として活動したことを誇りに思っていますし、いい思い出ばかりです。AVという仕事の楽しさややりがいを感じてきましたし、今後もAVは必要だと思っています。

 そのためには、変わるべきところは変わらなければいけない。AV女優や男優、スタッフたちみんなが働きやすい環境にしていくために、正すところは正していってほしいと思っています。

写真=松本輝一/文藝春秋

(「文春オンライン」編集部)

澁谷果歩さん