
2月16日、無修正のアダルト動画をネット上に流出させたとして、元AV女優でタレントの澁谷果歩さんが制作会社などに損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。
澁谷さんは青山学院大卒でTOEIC満点、新卒で就職した東京スポーツでは野球担当記者として活動していた。その後、好奇心からAV女優としてデビューすることになり、約750本の作品に出演。2018年に「仕事のマンネリ」を理由に引退し、現在は海外のアニメアワード審査員やイベントでコスプレ姿を披露したり、ゲーム配信などを手掛けている。
そんな澁谷さんに、今回の訴訟を決めた理由について詳しく話を聞いた。(全2回の1回目/続きを読む)
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「今さら流出?」と同時に「ついに来たか…」という思いも――訴えを起こした経緯を教えてください。
澁谷 昨年1月に、ゲーム配信のモデレーターをしてくれていた海外の方から、「澁谷さんの無修正動画が海外のサイトに流出しているよ」とリンク付きで連絡がきました。
実際にリンクに飛んでみると、たしかに私の動画だったんです。2016年に撮影され2017年ごろから販売された2作品だとわかりました。
引退してから4年が経っていたので、今さら流出? と思いましたが、同時に「ついに来たか……」という思いもあって。
――無修正動画の流出はよくあることなのでしょうか。
澁谷 頻繁にあるわけではないですが、業界内ではたまに聞く話です。現役のAV女優だと無修正動画の流出があっても、業界から干されるのが怖いから泣き寝入りすることも多いみたいです。AV女優を引退している人でも家族がいたり、全く違う仕事をしていたりすると、事を荒立てたくないという気持ちから、見て見ぬふりをする人もいるようですね。だからこそ、この部分については業界側も今までノータッチだったんです。やられ損でした。
でも、私は引退する前から、もし無修正動画の流出があったら絶対に訴えるぞと決めていて。誰かが動かないと終わらないと思っていたんです。それもあったから、流出がわかった時は、怒りと同時に、「ついに動く時がきたな」と、戦う覚悟を決めました。
可能性が高いのは関係者からの流出とハッキング――なぜ無修正動画の流出が起きてしまったのでしょうか。
澁谷 可能性が高いのは、関係者からの流出です。制作会社や監督などが無修正動画を外部に売り、そのデータを購入した人が流出させてしまうとか。
実際に、ある有名AV監督が夜逃げしてしまって、その後に彼が撮った作品が流出してしまったことがあって。引退した有名女優さんの動画だったんですが、訴訟を起こすことはなかったので、何が起きていたのかはいまだにわかりません。ここからは推測ですが、お金に困っていた監督が作品を闇業界に売ってしまったとか、もしくは誰かが彼の作品を何らかの方法で盗んだとか。
そしてもう一つ考えられるのは、ハッキングです。これも以前あった話ですが、有名なAVメーカーが外部からハッキングされて、無修正動画が流出してしまったことがありました。
――今回の流出だとどちらの可能性が高いと?
過去にも無修正動画の流出があった制作会社澁谷 それが全くわからないんです。向こうの言い分としては、流出したデータは発売後すぐに削除しているから流出しようがないと。ハッキングの可能性も考えましたが、もし向こうの言い分が正しければ、撮影した日から発売までの間にハッキングしているはずで。そんな短期間でのハッキングは、起こり得るのかなと。それに、その動画が5年以上経ってからネット上にアップされるのもどうしてなのか、と少し疑問です。
私が訴えた制作会社は過去にも無修正動画の流出があったらしいんです。会社としては一度ミスを犯しているから余計に気をつけていたと言っていたので、なぜ流出が起きたのかは本当にわからないですね。
――たしかに5年以上経ってから流出したというのはなぜか気になりますね。
澁谷 業界を引退して今は違う業種にいるので流出しても何も言ってこないだろうと思われたのか、もしくはたまたまなのか。メーカー側が削除していたとしても、誰か1人でもデータを持っていたら、流出することはあるので。管理体制は十分だったのか、その辺も裁判で明らかになってほしいと思います。
――流出した動画自体は海外のサイトにアップロードされていますが、その動画を削除してもらうのは難しいのでしょうか。
澁谷 アメリカのサイトだと連絡したらすぐ消してくれるらしいですけど、中国のサイトだと消してもらうのがなかなか難しいと弁護士から聞きました。そもそも私たちAV女優に著作権はないので、相手にされない可能性もあるみたいです。
それに全ての動画を消すには、莫大な時間とお金がかかるので、こういった問題が起きた時にできればメーカー側が積極的に動いてほしいです。
――今回の流出動画では、「はい、スタート」といった撮影の様子が残っており、編集前のモザイク加工のされていない素材が流れたことが明らかになっています。訴訟の争点はプライバシーの損害になるのでしょうか。
澁谷 そうですね。AV女優は、裸が前提で出演しているので、裸の動画が公開されただけではプライバシーの侵害は基本的に認められないみたいです。ただ、今回の動画はモザイクがなく、完全に性器が露出していますので、そこは大きな争点になると思います。
それに、日本国内ではモザイク処理のない動画は取り締まりの対象です。そういった違法動画に加担していると思われることは、社会的な評価の低下にも繋がりますので、その点も一つの争点になるかと思います。
損害賠償を740万円に決めた理由――今回、澁谷さんは精神的苦痛を受けたとして、制作会社などに対し計740万円の損害賠償を求めました。この額はどのように決めたのでしょうか。
澁谷 正直、損害賠償金を決めるのに一番時間を要しました。お金欲しさに裁判をやるわけではないですが、あまりにも安い金額にしてしまうと、AVそのものの価値が低いとみなされてしまうのでそれだけは避けたいなと。
まずは、該当動画に対して私が受け取ったギャラの28万円、そして私が当時所属していた事務所側の取り分であったと思われる28万円を足した56万円の10倍である560万円が適当かなと考えました。そこに弁護士費用だったり、その他裁判のためにかかる費用を上乗せして、740万円を損害賠償金に決めました。
Twitterでは、「賠償金安くないか?」という声もあったんですが、本当に前例がないので、今でもこの金額が適正だったのか悩むことはあります。ただ、この裁判はお金ではなく、再犯防止を求めてやっていますので、業界が少しでも変わるきっかけになればと思います。
「恥ずかしいから訴えを起こしたわけではない」――訴えを起こしてから、制作会社側から何か声明はあったのでしょうか。
澁谷 特に何もありません。謝罪の一言はあるのかな、と期待していましたが今のところないです。もし向こうに非がないとしても、流出してしまったのは事実なので、謝罪がないのは残念だと思いました。
――SNSなどでは、「モザイクがないことがそんなに重要なのか」と今回の流出事件を軽視する声もありました。
澁谷 よく勘違いされることなんですが、私はモザイクなしの自分の性器の映像が流出して恥ずかしいから訴えを起こしたわけではないです。AV女優という仕事をしていたので、裸を売りにしていましたし、人から見られてなんぼの世界だと理解しています。ただ、先ほども言ったように今回の問題はそこではなく、違法動画に出演していると見なされてしまうということです。モザイクなしの動画は日本では違法です。
過去にモザイク処理のない動画に出演したとしてAV女優が逮捕されたことがありました。彼女たちは、事務所やメーカーから「これは海外向けのものだから違法じゃないから」と説明を受けたみたいです。モザイク処理のない動画だとギャラも通常のAV動画に比べて5倍くらい高いので、騙されて出演してしまうというケースもあるようです。
それにAV新法制定前は、AV撮影での性行為は、グレーゾーンだったんです。モザイク処理をすることで、性行為をカモフラージュするという側面もあったと思います。そういう意味でも無修正動画の流出は絶対に起きてはならないことだと思っています。(#2に続く)
「月の半分は風邪を引いていた」「『監督、もう声が出ません』と訴えても…」青学卒の元AV女優が語る、過酷すぎた業界の裏側 へ続く
(「文春オンライン」編集部)

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