物への執着心を捨てる「断捨離」や、必要最小限の物だけで生活する人「ミニマリスト」などが話題となり、それにチャレンジする人が増えました。

しかし思い出の品を手放すときに強いストレスを感じたり、手放した後に深い悲しみに襲われたりする人も多いようです。

こうした傾向は、本人にとっても、中古品を扱う業者にとっても大きな問題となってきました。

アメリカ・チャップマン大学(Chapman University)に所属するビジネス経済学者シャーリン・チュウ氏ら研究チームは、手放す物に関連した写真を持っておくことが、手放す際のストレスを軽減すると報告しました。

この効果を利用するなら、本人が楽になるだけでなく、中古品の売買がスムーズに行われると考えられます。

研究の詳細は、2022年7月12日付の学術誌『Journal of Behavioral Decision Making』に掲載されました。

目次

  • 保有効果が人にストレスを与え、物を手放すのを難しくさせる
  • 思い出の品や写真があると、物品を手放しやすくなる

保有効果が人にストレスを与え、物を手放すのを難しくさせる

多くの人は不要物を手放したいが、手放す際にストレスが生じる
Credit:Canva

多くの人は不要な物をため込みたくないと感じています。

それにもかかわらず、いざ物を捨てたり売ったりするとなると強いストレスを感じてしまいます。

これには、「保有効果(endowment effect」が関係しています。

保有効果とは、自分が所有している物に対して高い価値を感じ、それを手放しがたく思う心理現象のことです。

例えば、長年乗ってきた愛車やずっと練習に使ってきたボロボロの楽器などは、今後それを実際に使う機会がほとんどないとしても、手放すことに抵抗を感じるものです。

思い切って売ったり捨てたりしても、後になって「やっぱり手放さなければよかった」と後悔することもあるでしょう。

保有効果によって手放しがたく感じる
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また、こうした保有効果は、現在の所有者に物を余計に高い価値で感じさせる効果があることも知られています。

中古の車を売却する際に、所有者と中古業者間で値段交渉がうまくいかない場合は、この保有効果が関係することもあるようです。

では、所有者が物品を手放す際にストレスを軽減し、適切な価値観で取引するための助けはあるでしょうか?

チュウ氏ら研究チームは、ある調査と分析によって、この課題を解決する方法を見つけました。

思い出の品や写真があると、物品を手放しやすくなる

研究チームは、数百人を対象に、比較的価値の低い物品(お気に入りの服、CDセット、ウォーターボトル)と価値のない記念品(写真、ステッカー)に対する価値観の変動を調べるため、複数の実験や調査を行いました。

例えばある実験には121人の大学生が参加し、彼ら全員に、大学ブランドのウォーターボトルが提供されました。

そしてその中のあるグループには、お揃いの大学ブランド・ステッカーを一緒に提供し、別のグループにはステッカーを渡しませんでした。

その後、それぞれのグループにウォーターボトルを手放す意思があるかどうか、またどれほどの値段で売却するか尋ねました。

大学ブランドの「思い入れのある」ウォーターボトルを気持ちよく手放すには?
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その結果、記念品であるステッカーをもらっていない学生たちは、大学ブランドのウォーターボトルを手放したいと思わず、売却するとしてもより高い値段を付けました。

大学生は、自分が通っている大学ブランドの物品に強い思い入れを持ち、それがウォーターボトルという比較的価値が低い物であっても手放しがたく感じたのです。

これはまさに、保有効果が働いている証拠です。

対照的に、ウォーターボトルと一緒に大学ブランドのステッカーをもらったグループは、ウォーターボトルを簡単に手放し、その売却価格も低い傾向にありました。

研究チームはこの結果について、「売却する物に関連した記念品が、売却者の喪失感や悲しみを軽減し、結果として売却意欲を高めることを発見しました」と述べています。

一連の他の調査でも、これを支持する効果が確認されました。

関連する写真や品を残しておくなら、ストレスなく物を手放せる。中古品の売買もスムーズに進む
Credit:Canva

このことから、断捨離しようと考えている人は、手放す物品の写真やそれに関連した思い出の品を残しておくことで、断捨離に伴うストレスを軽減できる分かります

そしてこの傾向を利用すれば、中古業者も円滑な取引が可能になるだろうといいます。

例えば中古車を買い取る際に、売り手に記念品(売却する車の3Dモデルや記念写真)を提供することで、所有者の手放す際の抵抗やこだわりが軽減させる可能性があるのです。

また不動産業であれば、販売対象の家を描いた絵画を贈るなども、適切な販売価格の設定とスムーズな契約に繋がるといいます。

保有効果を軽減させる今回の発見は、物を手放したい本人だけでなく、中古売買に関係する人々にとっても円満な取引に必要なノウハウを提供するもののようです。

いずれにせよ、私達が物を溜め込みがちになる原因の1つは保有効果と考えられるため、今回の報告は私達が不用品を整理するために有効な手段となるでしょう。

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参考文献

Downsizing personal items can be just a snap away https://news.cornell.edu/stories/2023/02/downsizing-personal-items-can-be-just-snap-away

元論文

Mementos and the endowment effect https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/bdm.2295
不要物をストレスなく手放すコツは「関係する品や写真を残すこと」