存続の危機に立つ地方ローカル鉄道に活路はあるのか。ムーミン列車やレストラン列車などを走らせていすみ鉄道千葉県)の知名度を一気に高め、今はえちごトキめき鉄道新潟県)の社長を務める鳥塚亮氏に、ローカル線の可能性を聞くインタビュー連載の最終回。地元自治体が線路を所有する「上下分離方式」による運営形態に異を唱えるなど、独自のローカル線活性化哲学を語った。

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(池口 英司:鉄道ライター・カメラマン

時速25kmで走る「白馬エクスプレス」構想も

——前回の記事で、えちごトキめき鉄道沿線の利便性を高め、安定経営に向けた仕組みづくりの話がありました。その流れで伺いますが、えちごトキめき鉄道とつながっているJR大糸線糸魚川〜南小谷について、JR西日本は収支の厳しさから「あり方の検討」をしています。

 松本と糸魚川を結ぶ大糸線は採算性の低い典型的なローカル線で、特に南小谷以北の非電化区間は、利用者が少ないといわれてきました。これをJRから分離して、えちごトキめき鉄道に経営移管するのではないか、と話題になっています。

鳥塚亮・えちごトキめき鉄道社長(以下、鳥塚氏):いずれJRからは切り離されて、もし鉄路として存続させるのであれば当社で運営することになるでしょう。糸魚川で線路がつながっているのですから。

 えちごトキめき鉄道の社員には、大糸線のことを熟知している者が何人もいます。(国鉄ローカル線を廃止し第三セクター鉄道に転換されるときに支給となった)転換交付金のような補助金を頂けるのであれば、それを管理して基金とします。

 大糸線は災害が多い路線といわれていますが、そもそも災害はいつ来るかわからないのだから、不必要に怯えるべきではありません。それよりも大糸線の魅力を再発掘して盛り上げてゆき、絶対に廃止してはならない鉄道だと皆に認識してもらうことです。

 大糸線糸魚川駅新幹線と接続しており、白馬にも行くことができる路線です。こんなに魅力がある路線を廃止する必要などないのです。

 時速25kmで走る「白馬エクスプレス」を運転して(笑)、お客様で賑わうようになれば、たとえ災害が起こったとしても、「それ直せ!」ということになるじゃないですか。

えちごトキめき鉄道の運営でJR大糸線は生き残れる

鳥塚氏大糸線を、えちごトキめき鉄道が運営することで、効率の良い運転、魅力ある列車の運転ができれば、今は長野県側が入り口になっている妙高高原という観光地に、新潟県側からも入ってくれるようになります。

 もしも、観光輸送に特化するのであれば、この路線を特定目的鉄道として冬季の運転を取りやめるという選択肢もあるでしょう。すると、今は路線の運営の大きな負担となっている除雪のための費用がゼロになりますから、収支が大幅に改善します。

 大糸線を廃止する必要などありません。十分に運営が可能な路線になります。

——新潟県には、もう一つ、北越急行という第三セクター鉄道があって、これもえちごトキめき鉄道が運営すると良いのではないかということも言われ続けてきました。

鳥塚氏:現状では、越後湯沢と六日町の間がJR、六日町から犀潟の間が北越急行、犀潟から直江津の間がJR、直江津から上越妙高まではえちごトキめき鉄道と運営主体が分かれています。これは一本化しなければダメでしょう。

 えちごトキめき鉄道と一体化するかどうかは置いておいても、北越急行越後湯沢―六日町、犀潟―直江津は一本化しないといけないと思います。

老人ホーム併設のレールパークも

——えちごトキめき鉄道は、鉄道テーマパークの「直江津D51(デゴイチ)レールパーク」も運営しています。鉄道に親しんでもらう施設として、もっといろいろな展示物があっても良いのかなと感じているのですが、この先、どんな構想があるのでしょうか。

鳥塚氏:レールパークの中に老人ホームをつくれないかなとも考えています。例えばここに5階建ての老人ホームを建てて、1階はコモンスペースにして、例えば、かつて頚城(くびき)鉄道(現在の上越市に路線のあった軽便鉄道)を走っていた機関車を保存して、2階はレストランにして、3階から5階は老人ホームにする。そうすれば、鉄道が好きなお年寄りには、格好の棲家となるに違いありません。

 現職の上越市の市長が公約として掲げたものに、レールパークの建設がありましたから、この公約を実現する格好のものになります。上の階の老人ホームに住むおじいさんが、休日にはレールパークの入り口に降りてきて、入場券にハサミを入れ、自分のコレクションや、昔撮った写真を自慢する、レールパークがそんな場所になったら楽しいと思いませんか。

——入居者を募集したら、1分間で完売となるかもしれません。

鳥塚氏:観光と、福祉産業が、今が有望といわれています。ただ、観光産業に力を入れるにしても、忘れてならないことは、どの土地にもその土地の長い歴史があって、今日に至るまでに様々な出来事があった。多くの人が悲しい思いをしたこともあったかもしれないということです。

 そういったその地域の歴史、風土、そこに住まう人々の気質、思いを蔑ろにしてはいけない。私にしても子供の頃は本当に小さな家に住んでいました。私の同級生も同じです。そして今でもそのような家に住まっている人もいる。

JRの強みは運行より路線の維持管理

鳥塚氏:それを、その町の歴史を知らない観光客が、面白がって写真を撮るような、それが観光の正しい姿とは思えません。私は、ローカル線の活性化の方策に観光事業を挙げていますけれど、あくまでも地元の人と歩調を合わせながら進んでゆくことが、鉄道会社にまず求められる大切な姿勢であると考えています。

——ローカル線の経営は、とても難しい時代になりました。

鳥塚氏:JRさんがよく口にするのは、ローカル線を上下分離したとして、沿線の自治体が、その下の部分を持って下さい。つまり、線路の維持管理をやって下さい。自分たちは上の部分、つまり、列車を運行します、ということなのですが、JRは列車を走らせて、その路線をダメにしてきていると言わざるを得ません。

 それが日本のローカル線の現状です。けれどもJRは、線路を維持管理するノウハウは蓄えている。だからJRが下(路線の維持管理)をやり、他の会社が上(列車の運行)をやる。これが本来あるべき上下分離の姿ではないでしょうか。

 上を担当するのは、旅行会社でも良いし、どこかの私鉄でも良いでしょう。福島県の豪雨で大きな被害を出した只見線を復旧させるのに福島県がお金を出しました。このお金を出す条件は、只見線を被災前の状態に戻すということです。

 では、被災前に只見線でどのような運転が行われていたのかといえば、1日に3往復の列車が運転されていただけです。ということは、これから1年後、2年後に、「県があれだけお金をかけて、1日に何人が利用しているのですか?」という話になります。

リゾート列車「雪月花」を只見線に走らせるワケ

鳥塚氏:そのときに、「確かに乗客数は少ないけれども、観光客や、撮影派の鉄道ファンがこれだけ来ていて、これだけの経済効果があります」ということをきちんと数値化して説明できるようにしておかないと、「1日3往復のために県がどれだけお金を出したのだ?」という話に絶対になる。

 それから、観光による収入を求めるのであれば、観光列車を導入して福島県が所有し、運転士だけJRが出して下さい、という形にすべきです。私は只見線運転再開のための委員も務めたので、そういう仕組みを作るように福島県に言いました。

 ただ、県にはできない仕事でしょう。であれば、その役割を誰か第三者に努めてもらえば良いのです。それが旅行会社であり、あるいは東武鉄道であっても良いわけです。

 鉄道会社であれば、自前で車両を持っていますし、集客力もある。それを活かしてお客様を集めて、地元とタイアップし、現地までの移動には、バスを使うのでも構いません。

 東京から福島までバスで来て、そこから列車に乗ってもらう。企画する会社は、列車に食材やお弁当を積み込み、お客様を地元のホテルに泊める手配をして、お土産も用意する。そういうプランニングはJR出身者にはなかなかできませんから、旅行会社や私鉄のスタッフが担当する。

 その手始めとして、今回えちごトキめき鉄道リゾート列車「雪月花」を只見線で走らせる計画をしています。これがうまく行けば、新しい風が吹くと考えています。

ローカル線の収入は運賃だけではない

鳥塚氏:地方ローカル線は、単に運賃収入を得るための道具ではなく、鉄道をシンボルに仕立てて、多方面でビジネスを展開するのです。私は、これからの時代は、そういう経営を行わなければ、ローカル線の経営が成り立たないと考えていますし、そういう組織をつくっていきたいと考えています。

——新たな舞台として先ほど話の出た大糸線が選ばれることもありそうです。

鳥塚氏:大糸線は長いですから、気動車特急を運転するのが良いかもしれませんね。先頭車同士2両を1ユニットとして、4両編成を組む。このうちの2両の先頭形状はキハ181系に似せ、残りの2両の先頭形状はキハ58系に似せる。編成の組み方次第で、今日はキハ181系だ、今日はキハ58系だと、その日の気分でイメージを変える。

——それで通用しますか(笑)?

鳥塚氏:しますよ(笑)。あとはどうやって地域に人を呼び込む商品化の企画をして、どうやって販売して満席にするか。これは民間会社の得意の部分ですからね。

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