エンツォが「激怒」した「ブレッドバン」を550マラネロで作っちゃった! これなら「ちょいオコ」で済むレベルの美しさ

この記事をまとめると

フェラーリ250GT SWBをベースに製作されたブレッドバンはエンツォを激怒させたという逸話が残る

■そんな本家ブレッドバンをオマージュした現代版のブレッドバンが550マラネロをベースに製作された

■至るところに本家をオマージュしたディテールが見られるエクステリアに胸アツ

エンツォを激怒させたというブレッドバン

 エンツォ・フェラーリレースのためなら太陽すらも動かした、そう嘯かれるほど自己中心的な人物だったようです。それゆえ、気に入らないことがあると怒髪天を衝く勢いで怒り狂ったとか。

「ブレッドバン」なるニックネームが付けられたフェラーリベースとしたスポーツカーもまたエンツォは「けしからん」と一蹴。とはいえ、彼の怒りとは別に「ブレッドバン」の人気は後になってグイグイ来て、ついにはリイマジンというか現代版ブレッドバンまで登場する始末。

 そもそも、ブレッドバンとは1962年フェラーリの太い顧客、ヴォルピ伯爵が250GT SWBをベース魔改造しちゃったスポーツカーニックネームです。ピニンファリーナの優美な曲線をガン無視して、ル・マンで本家の250GTOを打ち破ることだけを考えて作られたマシン

フェラーリ250GT SWB ブレッドバンのフロントスタイリング

 エンジンフレームだけを活かし、フロントセクションこそGTOに似た形状となりましたが、キャビンから後ろはフラットルーフ&コーダトロンカを採用。平たくいえばGTOの顔をした荷運びトラックみたいなデザインで、モデナの小さなカロッツェリア「ネリ&ボナチーニ」による手仕事です。

フェラーリ250GT SWB ブレッドバンのサイドビュー

 製作にはGTOに携わったエンジニアの誰かが協力したと噂されていましたが、肝心のル・マンでは30周したところでギヤトラブルが発生、リタイヤを喫しています。

 で、これ見て「ウチのマシンを滅茶苦茶にしやがって」と、ブチ切れたエンツォは、以後ヴォルピ伯爵の注文を一切受け付けることはなかったそうです。もっとも、ヴォルピ伯爵が手放した後は、元フィアットの総帥にして希代の粋人たるジャンニ・アニェッリが買い求めたばかりか「棺桶運んでるみたい」だと真っ黒にペイントしたとのこと。こういう洒落をエンツォはどんな気持ちで見ていたのでしょうかね。

 その後、アニェッリからベルギーのコレクターに渡ったようですが、ガレージに眠ることなく積極的にクラシックカーレースに参戦しているとのこと。やっぱり、レーシングカーはこうでなくちゃいけません。

フェラーリ250GT SWB ブレッドバンのフロントスタイリング

 そんな奮闘もあってか、数台(5台?)が作られたというブレッドバンの人気はいまに至ってもグイグイ上がっている模様。そりゃ、レプリカやリイマジンして作りたくのも分かろうというもの。

現代のブレッドバンは550マラネロをベースに製作

 イギリスコーチビルダー「ニールズ・ヴァン・ロイ・デザイン」もそんなブレッドバンをリスペクトしたのでしょうが、彼らが振るったのはGTOやSWBと同じくV12エンジンフロントノーズに搭載した550マラネロをベースとしたところでしょう。

ニールズ・ヴァン・ロイ・デザインのブレッドバン・オマージュの走行シーン

 公式データは詳らかにされていませんが、公式動画を見るとどうやらボディはアルミを板金しての製作と思われます。もちろん、フラットルーフからスパッとテールを切り落としたコーダトロンカが最大のトピックとなっており、ウエストラインから下のバンパーマフラーの処理などもまずまずの出来栄えかと。

ニールズ・ヴァン・ロイ・デザインのブレッドバン・オマージュの走行シーン

 このあたり、マラネロのプロポーションと本家ブレッドバンのニュアンスが大きく異なり、動画によれば大いに苦労したポイントとのことでした。また、荷台(笑)サイドのルーバーも再現しており、オリジナルのマラネロ風味ともあいまってじつにレーシー。

ニールズ・ヴァン・ロイ・デザインのブレッドバン・オマージュのサイドルーバー

 そして、フロントセクションに目を移すと当時のトレンドを模したと思しき大きなエアダクトが設けられているのがわかりますオリジンのブレッドバンも「これでもか」とばかりにダクトが開けられていたので、これまた本家の雰囲気に近づいているでしょう。

ニールズ・ヴァン・ロイ・デザインのブレッドバン・オマージュのフロントエンド

 また、ブレッドバンで採用されていたボンネットフード上の透明なアクリルドームも忠実に再現されています。本来はキャブレターの吸気口をカバーするためのものでしたが、マラネロのエンジンはインジェクターのはず。ウェーバーを採用したという情報もありますが、これは確認できませんでした。

ニールズ・ヴァン・ロイ・デザインのブレッドバン・オマージュのボンネットのアクリルドーム

 インテリアの仕上がりも注目に値します。オリジン同様に鮮やかなブルーアルカンタラに張り替えられたバケットシートや、ワンオフのメーターパネル、あるいはダイヤモンドステッチのレザーで覆われたセンタートンネルやトグルスイッチへの変更など、どこを見ても往時の雰囲気そのまま。これは亡きヴォルピ伯爵だけでなく、エンツォだって一目置かざるを得ない出来栄えといえるのではないでしょうか。

ニールズ・ヴァン・ロイ・デザインのブレッドバン・オマージュのインテリア

 製作者にして、デザイナーのニールズ・ヴァン・ロイ氏は、インタビューでブレッドバンへの情熱を生き生きと語っていますので、興味のある方はそちらを検索してみることおすすめいたします。マシンの走行シーンなどを見ると、本家に負けず劣らずの猛々しさが伝わり、リイマジン的なマシンとしては珍しく胸打たれる思いでした。

エンツォが「激怒」した「ブレッドバン」を550マラネロで作っちゃった! これなら「ちょいオコ」で済むレベルの美しさ