
ダークマター(暗黒物質)は、光を発することがないため目に見えないけれども、重力を持つ仮説上の物質だ。
宇宙の中にたくさんあるが、今だその正体は不明だ。そんな謎多きダークマターが存在するという間接的な証拠が発見されたそうだ。
香港教育大学の研究チームは、連星ブラックホールを周回する伴星の動きをシミュレーションすることで、ダークマターが大きな摩擦となってその動きに影響を与えていることを確認した。
目には見えないダークマターを研究するには、これまでブラックホールの合体のようなごく稀な現象を探すしかなかった。
だが今回の新しいアプローチならば、そのような制約から解放されるという。
「ダークマター(暗黒物質)は、宇宙に多く存在しているとされる仮説上の物質だ。
ダークマターは重力という力で他の物質に影響を与えることができるため、質量の範囲を絞り込むことには成功しているが、光をまったく出さないため、これまでに直接観測されたことはない。
だが宇宙の動きを観察する限り、必ずダークマターがあるはずだと考えられている。
[もっと知りたい!→]ダークマターが発生源と疑われた謎のX線シグナル。最新の分析でも正体は判明せず(米研究)
宇宙で目に見える物質はたったの5%で、残りの27%がダークマター、68%がダークエネルギー(宇宙の膨張を加速させる未知のエネルギー)と推測されている。
2つの連星ブラックホールに注目
謎めいたダークマターを探し出すべく、香港教育大学の研究チームが注目したのが、「A0620-00」と「XTE J1118+480」と呼ばれる2つブラックホールだ。
どちらも「連星ブラックホール」で、それぞれの周囲を相棒である恒星(伴星)がぐるぐると周っている。
だが、ブラックホールと伴星は重力によって互いに引き寄せられており、だんだんと近づいている。つまり「軌道の崩壊」が起きているのだ。
この軌道の崩壊速度を調べてみたところ、1年間で約1ミリ秒であることがわかった。これは驚くべき数値だ。なぜなら、理論上予測されるものより50倍も速いからだ。

炎のように燃える降着円盤と宇宙塵の壁に囲まれた超大質量ブラックホールのイラスト / image credit:NASA/JPL-Caltech
・合わせて読みたい→謎の暗黒物質「ダークマター」の質量の範囲を絞り込むことに成功
ダークマターが摩擦になっている可能性
一体なぜ、予測値と現実の崩壊速度との間にこれほどズレがあるのか?
その理由はブラックホールの周りにあるダークマターの影響はないかと考えた研究チームは、そこにダークマターがあると仮定して、連星ブラックホールの動きを再現してみることにした。
そのために使用されたのが、「ダークマター動的摩擦モデル」という天文学者には有名な理論だ。
これにしたがってシミュレーションしてみたところ、ブラックホールと伴星が近寄る速度が、観測データとぴったり一致したのである。
ここからわかるのは、ブラックホールの周りにある「ダークマターが大きな摩擦となって、星にブレーキをかけている」という可能性だ。

ダークマターの正体に迫れる可能性
20世紀後半に提唱されたダークマターに関するとある仮説によると、ブラックホールに飲み込まれたダークマターは残骸を残し、その周囲に「密度スパイク」なるものができるのだという。
今回の研究は、そのような高密度のダークマターによって摩擦が生じることを示した間接的な証拠だ。
研究チームのチャン・マンホ博士は、動的摩擦モデルで初めてブラックホール周辺のダークマターを検証した今回の研究は、「ダークマター研究に新しい方向性を与えるだろう」と語っている。
これまでダークマターを研究するには、滅多に起きないブラックホールの合体で生じるガンマ線や重力波を調べるよりなく、そのチャンスはそうそうなかった。
だが連星ブラックホールを利用してダークマターの存在を探る今回のやり方なら、そうした制約から研究者は解放されることになる。
私たちが暮らす天の川銀河だけでも、似た連星系が少なくとも18個はあるのだそうだ。
この研究は『The Astrophysical Journal Letters』(2023年1月30日付)に掲載された。
References:Research team finds indirect evidence for existence of dark matter surrounding black holes / written by hiroching / edited by / parumo

コメント