中学、高校の6年間、テストのたびに一夜漬けでまとめノートを作り、語呂合わせで年号を暗記していった教科、日本史。もう少し記憶に残るように勉強しておけばよかったと反省しつつも、「教科書に載っていた肖像画にひげや髪を足しているやつが必ずいたよなあ」とか、「先生のテストに出ない話がおもしろかったな」とか、いろいろと思い出の多い教科だ。
 
 さて、そんな日本史の教科書である。教科書が、数年ごとに改訂されて、世代ごとに使用するものが違うことはさすがに知ってはいた。だが、自分が日本史を学んだ日から早20年。まさか自分の習った知識がすべてデタラメなんてことはないよなあ…と、『書き替えられた日本史』(「歴史ミステリー」倶楽部/三笠書房)を手にとってページをめくってみると…。

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 結論からいうともちろん、デタラメということはない。最新の研究成果が更新されることで一部の“史実”が変わり、教科書にも用語が削除されたり、表現の仕方の変割ったりといった形で反映されているだけだ。ただ、特に平成に入っての“史実”の変化は著しく、「これが常識」と思っていたものが「もはや常識ではない」ということには興味深い驚きを覚えた。

 例えば、歴史上の人物の肖像画。80年代まで1万円札に使われていた聖徳太子の顔といえばひげが生えたあの顔を思い浮かべるが、実はコレ、別人の可能性が高いというのだ。そのため、現在の教科書では、「聖徳太子像と伝えられる」と断定を避ける説明が付けられているとのこと。近年では聖徳太子の実在を疑う説も浮上しているという。

 では現在の聖徳太子に関する教科書表記はどうなっているかというと、「国際的緊張のもとで蘇我馬子や推古天皇の甥厩戸王(聖徳太子)らが協力して国家組織の形成を進めた」といったように、聖徳太子の文字は括弧書きの中に納められてしまったようなのだ。

 ああよかった。括弧書きとはいえ、教科書に聖徳太子はまだいたのか、と胸をなでおろしつつ、今度は鎌倉幕府成立の年号にびっくり。今の教科書では「いい国つくろう(1192)」ではなく、「1185(文治元)年、(中略)武家政権としての鎌倉幕府が確立した」となっているとのこと。どうやら鎌倉幕府が段階的に成立しており、いつをもって幕府の成立とするのかといった論争が起きていることから、このような結果になったらしい。

 偉そうに書いてある教科書の内容も当てにならないではないか、と思いながらも、次々と新しい史実を発見している研究者の情熱にはおそれいる。本書によれば、日本史を更新し続けているのは、新たな遺跡の発掘、またはかつて発掘されたものへの偽物疑惑。また、今まで眠っていた古文書が発見や、技術の進歩で同じ絵巻でも今までは見えなかった部分が判読できるようになったりしたからだという。

 そして気づかされるのは、自分が「当たり前」と思っていた事柄が「ただの一説にすぎない」可能性があり、100%正しい事実なんてないのかもしれないということだ。ならば当然、現在の日常生活においても「当たり前」を疑ってみたいという気持ちになった。

 個人的には、本書が項目ごとに読みきりの形になっているため、自分の好きな人物や事件だけを読めば、週末の飲み会のネタとして活用できそうなのもうれしい。と同時に、まずは日常に潜む「当たり前」を疑ってみたくもなる。そう、例えば、“飲み会の酒量に気をつけよう”と思うのをやめるとか…。 あれ、そういうことじゃないかな?

文=奥みんす

『書き替えられた日本史 「昭和~平成」でこんなに変わった歴史の教科書』(「歴史ミステリー」倶楽部/三笠書房)