若者が回転ずし店で迷惑行為をしたり、アルバイト先でいたずらをしたりする様子を撮影した動画投稿が相次いでいる。回転ずし店の一連の迷惑行為では逮捕者も出た。

消費者心理やカスタマー・ハラスメント(カスハラ)問題に詳しい関西大学の池内裕美教授は、若い世代で迷惑行為が相次ぐ背景について「悪いことだと認識していながら、SNSで目立ちたいという自己承認欲求を満たすための行為です。社会が甘くなり、怒られない若者が増えたことも背景にあります」と説明する。高齢者のカスハラと若者の迷惑行為の違いや、対策について池内教授に聞きながら考えた。(ライター・国分瑠衣子)

●若者は悪いことをしている自覚がある一方、中高年は自分が正義だと認識

池内教授が行った調査ではカスハラは中高年男性に多いという結果が出ている。池内教授は今回、回転ずし店で起きた若者による一連の迷惑動画と、中高年男性のカスハラには動機や認識に大きな違いがあるという。

「迷惑行為をするのはZ世代と呼ばれる10~20代半ばの若者で、1人ではなくグループで来店します。店に不満があるわけではなく、目立ちたいという悪ふざけのノリです。SNSで拡散されることで、自己承認欲求を満たす快楽も求めています」。迷惑行為について「悪いことをしている」という自覚もある。現実ではうまくいかないことが、SNS上ではコントロールでき、満足感を得ることができることも多い。

一方、中高年男性のカスハラは単独のケースが大半だ。若者の迷惑行為の目的が「単なるその場の快楽」なのに対し、中高年のカスハラの目的は「個人的な問題の解決」と異なる。また、高学歴、高所得、社会階層が高いという特徴もある。「自分が悪いことや、迷惑行為をしている」という認識がある人は少なく「会社や店にとって良いことを言ってあげている」という考えだ。

中高年のカスハラの根底にあるのは、定年退職などで社会との接点が薄れる寂しさや不安だ。コロナ禍でキャッシュレス決済など急速にデジタル化が進み、時代の波についていけない焦燥感もある。

●本人が特定されるなどいたずら以上の社会的制裁を受けている

迷惑動画では、若者がアルバイト先のコンビニや飲食店でいたずらをする様子を撮影した「バイトテロ」も問題になっている。最近ではコンビニでアルバイトをする女子高校生が、店内で商品のポテトをつまみ食いしたり、掃除用モップを手に飛び跳ねたりする動画がツイッターで拡散された。客か店員かの違いはあるが、根本は回転ずし店の迷惑行為と一緒だ。

昔からこのようないたずらはあったと思われるが、SNSの普及とともに拡散されやすくなり、問題が表面化しやすくなった。池内教授は「子どもが家や学校で叱られなくなり、歯止めがきかなくなっていることも背景にあるのではないでしょうか」と見る。

●法律で罰せられることは、抑止力にはなる

若い世代の迷惑行為を減らすにはどんな対策が有効なのか。

今回、回転ずし店への迷惑行為では逮捕者が出た。「法律で罰せられることは、若者にとってはシンプルに怖いことなので抑止力にはなると思います。社会が甘くなっている今、こうした法的措置は有効です」

ただ、法的措置は悪質なケースに限られるため、前の段階での対策も必要だろう。池内教授は「社会全体の消費者教育が重要です。家庭での教えはもちろん、自治体の消費生活センターで行っている消費者教育や講師派遣を活用し、幼少期から賢い消費者として生活するためのマナーや知識を徹底して教える必要があります。ここまでしなければならないのは情けない話ではありますが…」と話す。

若者に対しては、インターネット上で動画が拡散されることによって自分や家族にどんな影響が出るのかや、逮捕者まで出た過去のケースを伝えることで、迷惑行為の抑止力になる。

いたずらをした若者たちへの救済も必要

一方で、池内教授は社会的制裁を受けた若者たちへの救済も必要と指摘する。回転ずし店の迷惑行為やバイト先でいたずらをした当事者は、顔だけではなく居住する地域や学校まで特定されるなど、制裁を受けている。

池内教授は「若者の迷惑行為そのものを擁護する気はありませんが、子どもたちはいたずらの内容以上の社会的制裁を受けたと思います。どういう形かは考える必要がありますが、なぜ迷惑行為に至ったのか反省の弁を述べる場をつくることが、更生の機会になるのではないでしょうか」と話している。

「Z世代の迷惑行為動画」と「中高年男性カスハラ」の決定的な違い 池内教授に聞く