K-1で世界三階級を制覇、そのアグレッシブファイトスタイルで人気を集め、“ナチュラルボーンクラッシャー”としてキックボクシング界に君臨した武尊選手。

 昨年6月19日に開催された『THE MATCH 2022』では那須川天心選手と世紀の一戦と呼ばれた対戦が実現。惜しくも判定で破れたものの、『ABEMA PPV ONLINE LIVE』で行われた生中継は同時接続者数で新記録を達成するなど、大きな話題を呼んだ。

 この試合に文字通り全身全霊を捧げていた武尊選手は、しばらくリングを離れることを宣言。K-1を離脱し、KRESTとの契約解除も発表された。

 あれから10ヶ月。その去就が注目されていた武尊選手がついにその沈黙を破った。

 虎ノ門ヒルズフォーラムで行われた記者会見には、フリーランスとなり、株式会社STR代表取締役という肩書となった武尊選手、そしてABEMA格闘チャンネル・エグゼクティブプロデューサーの北野雄司氏が登壇。武尊選手が「ABEMA専属PPVファイター」となる契約を締結したと発表した。

 この日本人初となるPPVファイター契約により、今後、武尊選手の試合や大会、イベントを「ABEMA」が独占配信していくことになる。

 『ABEMA PPV ONLINE LIVE』で配信される武尊選手への試合に対する報酬は最低でも1億円とされ、さらに大会視聴チケットの売上に応じた追加報酬も予定しているという。年間の試合数にもよるが、この先進的な契約により、武尊選手は日本でもトップクラスの“稼ぐ”格闘家となったといえる。

 北野プロデューサーは「今回の契約はひとつのモデルケースとして、他の格闘家やアスリート選手にもこうした取り組みをしていきたい」と語った。

 武尊選手は「このような契約をしていただき感謝しています。PPVというビジネスは日本やアジアではまだあまり浸透していないけど、今回の契約で業界がもっともっと発展していって欲しい。僕がモデルケースとなることで、いま日本で頑張っている格闘家や、これからスポーツでプロを目指していく人たちの未来へ繋がる契約になると思う」と力強く語った。

 1億円という破格の金額で武尊選手と契約したことについて北野プロデューサーは「1億円という数字は、細かく計算したというよりも、業界を変える、環境を変える、そして夢を持てる数字ということでご提案させていただいた」とインパクト重視で決めたことを明かし、「武尊選手の試合をはじめてABEMAで生中継したのは2016年の『K-1ワールドグランプリ』。以来、ずっとカリスマとして闘い続けてくれた武尊選手は、格闘チャンネルだけでなくABEMAそのものの成長を引っ張ってきてくれた存在です。そんな武尊選手がキャリアの最終章に船出するということで、そこに貢献したいというのが理由のひとつ。それに常に努力を積んでいる武尊選手なら1試合1億円という契約も夢ではないということを証明していけば、格闘技界も盛り上がる」と述べた。

 武尊選手は1億円契約に対し、「率直に嬉しさと、ビックリした気持ちがあった。これから次の世代につなげていけるように、復帰戦に必ず勝って業界を盛り上げたい」と意気込み、「以前から、格闘技でも、FIFAワールドカップWBCに匹敵するような世界規模の大会を実現したいと思っていた。PPVで配信していくことで、日本の選手たちが世界中から観ることができる環境を作ってもらえたことは業界の発展につながる」と、今後の構想を語った。

 注目の復帰戦は、2023年6月24日フランス・パリ、ゼニスアリーナで行われるMTGP『Impact in Paris』に決定。その模様は『ABEMA PPV ONLINE LIVE』にて独占生中継される。

 対戦相手はISKA世界スーパーライト級王座も獲得したことがある“ブリティッシュ・ブルドック”ことベイリー・サグデン選手になることが電撃発表された。

 サグデン選手は、GLORYなどでも活躍した強豪。2022年9月11日に開催されたK-1スーパーフェザー級王座決定トーナメントにもエントリーされていたが、練習中の骨折で欠場しており、日本人選手との対戦は今回が初となる。

 なお、この試合はISKA-61.0kg王座を決定するタイトルマッチとなり、3分5ラウンド、K-1ルールで行われる予定だ。

 武尊選手は「やっと復帰戦が発表できることを嬉しく思ってます。僕はずっと海外で試合をしたいと思っていて、今回、権威あるISKAのタイトルに挑戦できることがすごく嬉しい。海外での試合は3年前に決まっていたけど流れたことがあったので、このチャンスにベルトを取って、日本の格闘技界にはこんな強い選手がいるんだよとアピールしたい」と、念願だった世界進出の実現に力を込めた。

 武尊選手はかつてフランスで行われた卜部兄弟の試合のセコンドについたことがあり、「世界で戦う大変さも知ったし、敵地でベルトをとった先輩たちが誇らしかった」と当時の感想を述べつつ、「僕のことを誰も知らないような会場で、知らない人たちを熱狂させるような試合をしたい」と意気込んだ。

 記者会見には、ISKAヨーロッパ代表ポール・ヘネシー氏が登壇。そしてMTGPの代表であるフィリップ・チュウ氏からの激励のメッセージも読み上げられた。

 そして、対戦相手のベイリー・サグデン選手がサプライズ登場。

 「武尊選手は有名な選手だが、日本という限られた世界でしか試合をしていない。なので、自分が世界を教えてやる。楽しみにしてほしい」と余裕タップリに挑発。

 対する武尊選手は「サグデン選手の試合映像を見たけど、アグレッシブな選手だし、世界と戦っているというイメージ。どういう試合になるのか楽しみだし、自分の実力を世界に知らしめるチャンスだと思うので、KOで勝ちたいと思います」と闘志を燃やした。

 最後に武尊選手はファンに向けて「前回の試合に負けてから、長い期間お待たせしました。手術もして、コンディションも整えて、やっと復帰戦、戦う場所が決まりました。前の試合で悔しかったことは、応援してくれていた人たちに勝つ姿を見せられなかったこと。負けたあとも応援してくれていた、家族や仲間、みんなに勝つ姿を必ず見せます」と力強い表情を見せた。

 会見後の囲み取材では、那須川天心選手に対する質問も飛び、「向こうは向こうで頑張ってると思う。戦う場所は変わりましたけど、一度戦った選手として、違う競技に行っても負けてほしくないし、僕もそれをいい刺激にして頑張りたい」と語った。

 『Impact in Paris』で行われる他の対戦カードなどは今後発表予定。生中継となる『ABEMA PPV ONLINE LIVE』の配信チケットは5月1日から発売される。

 前代未聞の新契約、そして電撃的な復帰戦の発表により、ついに果たされた「カリスマの帰還」。

 武尊選手の新たな挑戦は、格闘技界だけでなく、スポーツビジネス界の勢力図も一変させるかもしれない。

武尊、ABEMAと“1億円契約”