勝負の2年目を迎える新庄剛志監督を直撃！
昨年、日本列島にBIGBOSS旋風を巻き起こした"球界の革命児"新庄剛志。北海道日本ハムファイターズ監督として、勝負の2年目を迎える今の心境とは？ 30年来の親友、インタビューマン山下が直撃する。
■生まれて初めて"楽しんじょう"じゃない
――昨年1月に発売した日めくりカレンダーのタイトルは『まいにち、楽しんじょう！』ですが、今は楽しめていますか？
新庄 今年は全然、"楽しんじょう"じゃないね（笑）。
――なんでですか？（笑）。意外ですね。
新庄 生まれて初めてじゃないかな。人生楽しまないといけないとずっと思ってたんだけど、そういう気持ちに今はなれない。
――今季は結果を出さないといけないというプレッシャーからですか？
新庄 小さい頃から野球を始めて、俺は優勝したいと思ったことが1回もないのよ。自分さえよければいい、という考えだから。
――2006年に日本ハムが優勝したときもですか？
新庄 あの頃は楽しんでやってたら、たまたま優勝につながっただけ。野球選手のほとんどが自分さえよければいいという考えで、その考えが後からチームワークになるだけ。
本誌で連載していた『新庄剛志の開運ポジ語録』以来、久々の登場
――今はどんな思いですか？
新庄 ファイターズの選手たちと出会ってからは、とにかく優勝させて、このコたちの笑顔が見たい。それと給料を上げさせたい。そういう気持ち。だから楽しさがなくて、そっちに必死やね。
――今季は「勝つためには鬼になる」と宣言しました。
新庄 去年は「優勝を目指さない」じゃなくて、目指せなかった。みんなの潜在能力や意識や性格を見抜くための1年だった。今年はもうその段階は終わって、野球に普通に真剣に取り組んだら、ちょっと厳しくなっているだけ。
――では今季は"楽しんじょう"ではなく、"何しんじょう"ですか？
新庄 "厳しんじょう"（笑）。
■ひとりひとりの能力を引き出して土台をつくった1年
――「大きな夢を掲げ、心の土台をしっかりつくらなきゃ夢はつかめんばい。」とカレンダーにあります。昨年は夢をつかむための土台をつくれましたか？
新庄 土台という意味では、去年は全員を1軍のグラウンドでプレーさせて、自信をつけさせたかった。2軍では打てるけど1軍では打てない選手もいれば、その逆の選手もいるわけ。
それがはっきり見えたのが松本剛（ごう）君。松本君は2021年までは1軍の試合に出続けたシーズンが1回あっただけで、それ以外は1軍と2軍を行ったり来たりしていた選手だった。
――そうだったんですね。
新庄 でも、去年のキャンプが終わってオープン戦が始まった頃かな。俺が若い選手を見たくて2軍に行ったら、松本君がめちゃくちゃ悔しそうな顔をして涙を流してたのよ。その姿を見たときに「この選手は伸びる。必ずいい成績を残す」と思って。
それで開幕戦に4番で使った。そしたら、あれよあれよと首位打者。そういった選手の能力をひとりひとり引き出して土台をつくっていった年やったね。
――清宮幸太郎選手もよかったですね。
新庄 清宮君は2021年のシーズンは1軍に1試合も出られなかったのよ。監督に就任してすぐ清宮君に会って、「ちょっと痩せよう。痩せたらキレが戻ってくるから、今までで一番いい成績が必ず残せる」って言ったの。そしたら過去最多の18本塁打。
――今年はさらなる活躍を見せてもらいたいです。
新庄 そもそも野球のレギュラーポジションは9つしかない。俺の考えでは、この9つのポジションに出てない選手はプロ野球選手と思ってないから。ベンチで座るだけなら誰でもできるわけやん。143試合に出る選手こそ、プロ野球選手。レギュラーとして12年、13年くらい出続ければ、プロ野球選手といえるんじゃないかな。
■監督になっても一瞬のチャンスでフォアボールはNG
――日めくりカレンダーでは「チャンスは一瞬しかないのになんで四球を選ぶんだ？」という言葉がありました。監督になってからも、この考えは変わらないですか？
新庄 変わらないね。例えば、レギュラーの誰かが試合中にケガをして、「さぁ代打で行け」と言われたときにフォアボールを選んだら、そのまま2軍に落とされる可能性があるのよ。
――そうですね。
新庄 1球目、見逃しストライク。2球目、見逃しストライク。こうやって追い込まれたら、チャンスで結果を出す可能性が減ってくるわけやん。だったら初球からストライクを振っていって結果を出したら、「よし。ケガした選手が戻ってきても、ほかのポジションで使ってみよう」ってなる。
ドラフト1位・矢澤の二刀流起用について、「可能性は十二分にある」と言及
――でも、監督の立場だと、フォアボールでランナーが出るのはいいことでは？
新庄 「よし！ よし！ フォアボールを選んだ。次も使おう！」とは俺はならん。なんなら三振でもいいのよ。初球からフルスイングして、ファウル、ファウル、空振り三振だったとしても、「軸がしっかりしてて振れてるな。次も使おう」と思う。
――結果よりもスイングや積極性を見ているんですね。
新庄 初球からバチンと仕留めたら、代打でも使いたくなるよね。だって、代打って1打席しかないから。そのチャンスをつかんだら、「よっしゃ、次の日スタメンで行け」って言うよ。次の日も、またその次の日もスタメンで活躍して、それが4、5試合続けばスターになれるのよ。
――確かにバットを振ったほうがチャンスはつかめますね。
新庄 それでチャンスをつかんだのが森本稀哲（ひちょり）。俺がヒルマン監督に「俺はあのピッチャーを打てない。だから俺の代わりに、今、練習を見てて一番調子がいい稀哲を使ってくれ」って言ったの。
それで稀哲に「この試合でもしおまえが打たなかったら、両親が殺されるというぐらいの気持ちで行きなさい」と言ったら、稀哲が打った。
次の日は俺がセンターに戻ったけど、ヒルマン監督は稀哲をレフトで使って、また打って。そこからずっと活躍して、2年後ぐらいに1億円プレーヤーになった。それがこの「チャンスは一瞬しかないのに...」という考えにつながったわけ。
■新コーチに就任した森本稀哲の存在
――今年から森本稀哲さんが日本ハムのコーチ陣に加わりましたね。森本コーチの存在は大きいですか？
新庄 俺の負担が減るね。俺はベンチでピッチャーのことも内野手のことも、作戦のことも全部しないといけないから。でも、俺の考えを知っている稀哲が入ることによって、外野は任せられる。
まあ、稀哲が間違えていたら、「こうじゃないよ」って言うよ。俺が現役時代にどういう意識で守っていたかは稀哲にも教えてないし、「こうやって」と言ってもできないだろうから、できることだけを俺が稀哲に直接教えて、選手に指導してもらってる。ほら、レベルが違うから。俺と稀哲じゃ（笑）。
――（笑）。今年の外野陣の守備が楽しみですね。
新庄 去年はファイターズがパ・リーグで一番エラー数が多かったのよ。なぜかというと、レギュラーを固めてなくて2軍の選手も全員使ったから。緊張もあるし、硬くもなるし、そりゃエラーするよね。でも、レギュラーを固めて、試合に出続ける選手が増えれば、勘がつかめてきて余裕も出てエラーも減ると思う。
聞き手は30年来の親友であるインタビューマン山下
■ドラ1・矢澤が伸びると思う理由
――二刀流で注目されているドラフト1位の矢澤宏太選手はいかがですか？
新庄 球にキレがあって、肩もよくて、スピードもある。30m走と50m走のタイムはチームで一番速いから。
――それはすごいですね！
新庄 2位が五十幡（いそはた／亮汰）君で3位が江越（大賀／たいが）君かな。12球団の中でもタイムは速いのよ。このメンバーがレギュラーに入ってきたら、外野は抜かれないね。
――長打を防げそうですね。
新庄 それぞれがヒット70本打って、25盗塁ぐらいしてくれたら、「チーム全体で何個になりますか？」って話。レギュラーメンバーは足の速い選手が多くなるだろうから、今年は面白いチームになるよ。
――矢澤選手は投手と外野手、両方の練習をやっているんですか？
新庄 キャンプ初日のミーティングで「最初は野手のメニューですべて行くぞ」って伝えた。ピッチャーはその後から。野手は練習でスパイクもよく履くけど、ピッチャーはランニングばっかりするから鍛え方が全然違う。
スパイクを履いてグラウンドで練習すると、筋肉がちょっとずつついていくの。そしたら、ピッチングにもプラスになるから。それで最初は野手だけ。
――矢澤選手は新球場のブルペンが外野にあるので、自分が肩をつくっている段階でファンに注目してもらえたらうれしいと答えていました。
新庄 それはいい考えだね。そういう選手こそ伸びる。ファンに見られていることを力に変えようとしてるから。俺もそのタイプだった。
――今季、二刀流は見られそうですか？
新庄 可能性は十二分にある。
■今年はチャラけず、「V」を目指す！
――今年はBIGBOSSポーズに代わる、新たなポーズがあるそうですね。
新庄 ビクトリーポーズね。
――親指と人さし指がビクトリーの「V」になってますね。
新庄 やっぱりワードは大事だからね。去年はBIGBOSSポーズのおかげで、グッズもめちゃくちゃ売れたらしいから。
新庄 俺がデザインした。まあ派手よ。なんかガンダムっぽい。「機動戦士ファイターズ」みたいな。襟がめっちゃ高い（笑）。
――襟が高いの好きですね（笑）。就任会見の衣装も相当高かったですから。
新庄 あれよりかは高くないよ。でも今、ピッチャーから「襟が高くて投げづらい」って文句が出てる（笑）。
――ダメじゃないですか（笑）。
――今年のチームスローガンは「新時代 FANS ARE OUR TREASURE」となりました。
新庄 「若い選手たちが何年も勝ち続けていく。そのスタートを新球場のエスコンフィールドから始めよう」って意味を込めて、俺が考えた。実はもうひとつ、「新しい時代のその先に」という意味で、「ニュー新時代」という言葉にしようかなと思ったんだけど。
――ニュー新時代！ 面白いですね。新しい新しいで（笑）。
新庄 北海道にちなんで、「ニュー」は牛乳の「乳」ね（笑）。それは却下されたけど。
――そりゃそうでしょ（笑）。「乳・新時代」では締まらないですから。
新庄 そうなのよ。今はチャラけたくないのよ。というよりチャラけるのもいやになってきてる。だから、今年は"厳しんじょう"でいく。
北海道日本ハムファイターズ公認応援ソング『We are FIGHTERS』（HARTY） 3月29日より配信リリース！
●新庄剛志（しんじょう・つよし）
1972年1月28日生まれ、長崎県出身。
2006年の現役引退後、インドネシア・バリ島で暮らし、2020年に12年ぶりの現役復帰を目指してプロ野球12球団合同トライアウトに参加。2021年11月、北海道日本ハムファイターズの監督に就任。日めくりカレンダー『まいにち、楽しんじょう！』絶賛発売中！
取材・文／インタビューマン山下 撮影／木部伸治
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