将来への危機感を抱き「本気で会社を変えたい」とあらゆる改革に取り組むものの、思い通りに進まないという悩みを抱えている経営者も多いだろう。組織改革やイノベーションの創出が成功しない大きな要因の1つには、「組織風土の劣化」がある。シナ・コーポレーションで代表取締役を務める遠藤功氏に、組織風土を刷新し、新しい組織文化を醸成させるための方法論を聞いた。

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※本コンテンツは、2022年11月22日(火)に開催されたJBpress/JDIR主催「第2回 人・組織・働き方イノベーションフォーラム」の基調講演「『現場からの風土改革』で人を育て、組織を再生させる」の内容を採録したものです。

経営幹部の不適切な言動が組織風土を劣化させる

 イノベーションを起こし、組織を変えて、活力あふれる会社に再生したい。そのような思いを持ってさまざまな風土改革に取り組んでいる経営者は多いはずだ。しかし、トップが必死に号令をかける一方で、組織全体は「笛吹けども踊らず」な状態に陥っている企業も少なくない。シナ・コーポレーションの代表取締役を務める遠藤功氏は「組織そのものが傷んでいると、組織風土を刷新したり、新しい組織文化を創出したりすることは難しい」と語る。

 同氏が「組織風土の問題は非常に厄介」と説明する理由は、組織風土を変えなさいと言われても具体的に何をどうしたらよいかが分かりづらいからだ。組織風土が問題となって会社に起こる症状は、次のような共通性があるという。

 (1)上意下達になる
 (2)下から上にものが言えない、言わない
 (3)横の連携が悪く、無関心、あきらめ感がまん延
 (4)ミドルが疲弊し、チャレンジしない、できない
 (5)自責ではなく、他責にする傾向が強い
 (6)組織全体にやる気が感じられず、活力に乏しい

「組織風土が劣化すると『ファイティングポーズを取らない、取れない組織』になってしまいます。これは組織の感情が劣化しているからです。人には感情があるように、組織にも感情があります。組織の感情が劣化していると、所属している人の元気もなくなっていくのです。そんな『活力枯渇病』が起こった状態では、どんな施策を講じても結果にはつながりません」

 併せて同氏は「会社は頭から腐る」と説明する。よく「魚は頭から腐る」といわれるが、それは組織も同様。経営トップによる不適切な言動が大きな起点となって、組織風土に問題が生じているケースがよく見られるという。パワハラが横行していたり、経営のトップが方針を決められずにいたり、さらに一度決めたことをすぐに覆したりしているようでは、組織全体の方向性は怪しいものになっていく。

 そして「弱いところから腐る」という点も、魚と会社は一緒だ。立て直しが難しいような赤字事業や赤字事業所に根本的に手を入れなければ、そこから組織は駄目になっていく。1カ所が腐れば関係がなかったところまで腐敗が進み、会社全体の風土も劣化していくということだ。

「私は、社長だけでなく、役員、本部長、部長クラスといった幹部の方々が風土を劣化させている様子を『ドブにコマ』という言葉で表現しています。『どなる(パワハラ)』『ぶれる(意志薄弱)』『逃げる(決めない)』『細かい(任せない)』『丸投げ(責任放棄)』。これら5つのうち1つでも思い当たる点があれば、それは組織風土を劣化させる大きな要因になりうると自覚してほしいと思います」

健全な組織風土なくして現場力は高まらない

 現代の日本企業に共通する経営テーマは、「Innovation(新たな価値創造)」と「Efficiency(経営効率の最大化)」の2つに集約される。

 目まぐるしく変化する時代や環境の中では、新しい価値を生み出し続けなければ会社を存続していくことは難しい。従来、生産性が低いと評されてきた日本企業は、DXなどによって経営全体の効率を向上させていく必要がある。

 しかし、この2つだけに取り組んでいても、企業は再生できないと遠藤氏はいう。同氏は3つ目の大きなテーマとして「Culture(組織風土の刷新)」を提示する。組織風土を刷新し、新しく強い組織文化をつくることができなければ、「Innovation」も「Efficiency」も改善しない。変革を進めていく上では、これら3つの経営テーマを念頭に置く必要があるのだ。

「そもそも組織風土とは組織の土壌です。木の幹は事業。幹が立派に育てば、きれいな花が咲き大きな実がなります。幹、花、実といった外から見えるものを立派にしたい気持ちは理解できますが、経営において大事なのは外から見えない土壌です。健全で良質な土壌をしっかりと耕すことで、元気な根っこが栄養分を吸収して幹が太くなります。この土壌こそが『カルチャー』なのです」

 一方で同氏は「組織風土そのものをよくすることを目的としてはいけない」とつけ加える。企業にとって最も大事なのは会社の競争力を高めることだ。この競争力を遠藤氏は「現場力」と表する。日本の企業が世界で戦うためには、現場力を最大限に生かす経営を実践しなければならない。現場力を向上させて競争力を高めるための前提条件として、健全で良質な組織風土が必須なのだ。

 また「現場力」という言葉には、2つの意味があるという。1つ目が「組織能力(ケイパビリティー)としての現場力」だ。いくら立派なビジョンや合理的な戦略をつくったとしても、現場が実行しなければ価値は生まれない。しかし、卓越した実行能力が現場にあれば競争優位に立つことができるし、模倣困難性にもつながる。

 遠藤氏はこれまで約20年もの間、この「ケイパビリティーとしての現場力を高めてほしい」と強調してきた。しかし最近は「それだけでは足りない」と感じているそうだ。

「現場力にはもう1つ、より根源的な意味があります。それが『組織風土(カルチャー)としての現場力』です。現場が自主性、自発性、自立性を発揮し、ボトムアップで問題を解決していくという組織風土なくして組織の能力は高まりません。従来、私は日本の組織には健全な組織風土があるという前提で話をしてきましたが、どうもそうではないと認識を改めています。もう一度、組織風土から高めていかなければ現場力は手に入らないでしょう」

「実行の時代だ」といわれる昨今、世界を見渡しても実行力の高い会社が生き残っている。そもそも戦略というものは模倣性が高く、いずれ同質的になっていく傾向にある。戦略が同一化したときに勝利するのは実行能力が高い会社だ。「実際に業績のよい会社は現場力も高い」と遠藤氏も分析する。

 だからこそ同氏は「問題解決型の現場」への変革を強調する。現在、多くの現場が言われたことや決められたことを真面目にこなすだけの「業務遂行型」に成り下がっている。日々、現場で発生するさまざまな問題を、主体的、継続的に取り組める「問題解決型」の現場へと変革していくことが重要だ。

「現場こそが競争力のエンジンだということを改めて認識してほしいと思います。現場主導で問題を解決し、新しいことにチャレンジしていく。そして経営陣はそれをサポートする。そういった環境をつくることができれば、実行力も担保されるでしょう」

現場からカルチャーを創造していく

 一般的にいわれる「風土」とは、自然環境が人間の在り方を規定する。あくまでも人間は受け身であり、環境によって人の在り方が変わってくる。

 しかし「組織風土」においては、その考え方はやや異なる。働く環境が社員の在り方を規定する側面も少なからずあるが、組織風土は、人間(社員)も環境(職場)を変えることができるのだ。

 風土が変えられるとするならば、現場からカルチャーを創造していく必要があるだろう。そのためにも遠藤氏は、次の3つの要素を現場から積み上げていくことが大切だと話す。

 (1)自由闊達(かったつ)な組織風土
 (2)挑戦する組織文化
 (3)卓越した組織能力

「これら3つの積み上げによって、持続的な競争優位が確立されます。何より大切なのは『社員1人1人が主体的に挑戦する組織文化』を形成することです。組織の主体性を保つには、心理的安全性を担保し、双方向のコミュニケーションを適切に取り、上司は部下に対して適切なコーチングを行うなどして、健全で良質な組織風土を醸成しなければなりません」

 日本の企業においては、これまでも常々「人が財産である」ということはいわれてきた。しかし、風土や文化が健全でなければ人を生かすことはできない。「ピープル」と「カルチャー」を一体として扱うことが重要だ。とはいえ、カルチャーの変革は容易ではなく、大きな組織であればあるほど、5年、10年、それ以上に時間が必要になるかもしれない。遠藤氏は組織風土を変革するための3ステップを「変革カルチャジャーニー」として次のように紹介する。

「まずは大きな組織に風穴を開けましょう。そして、若い人材や外部からの人材を上手に活用して新しい風を吹き込ませ、組織全体を揺さぶってください。次に風穴を広げましょう。『健全な組織風土』『挑戦する組織文化』を組織のマジョリティーにしなければなりません。最後に『挑戦が当たり前である』ことを定着させてください。そのためには、カルチャーを言語化し、DXやイノベーションといったキーワードと同じように、トップがカルチャーの重要性を説き続けることが大切です」

 最も大切なのは、カルチャーこそが、最強の模倣困難性を成しえるということを、組織全体で自覚すること。「そうすれば日本の企業は必ず復活、再生できると思っています」と遠藤氏は結んだ。

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