《深層スクープ》東京女子医大に“診療報酬の不正請求”疑惑!「ICU死亡事故で厚労省が“緊急調査”」 から続く

 日本の医療界をリードしてきた東京女子医科大学が、いま存亡の危機に立っている。経営トップの岩本絹子理事長の「疑惑のカネ」が背任罪にあたるとして、女子医大OG(卒業生)が警視庁捜査二課に提出した告発状が、3月27日に受理されたことが関係者への取材でわかった。これによって、「疑惑のカネ」に関する捜査が、いよいよ本格的に始まる見込みだ。

 医師や看護師の大量退職に始まり、崩壊状態になったICU(集中治療室)で、医療ミスによる患者の死亡事故が発生した女子医大病院。患者数の減少に歯止めがかからず巨額の赤字を累積している一方、診療現場の医師が中心となって正常化に向けた動きも起きている。

 こうした状況をリアルタイムで報道してきた、シリーズ「東京女子医大の闇」。これまでの15回分の概要をまとめた。

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#1 理事長“女カルロス・ゴーン”の「疑惑のカネ」 (2022/7/19配信)

 シリーズ初回は、女子医大に混乱を招いたとされる、岩本絹子理事長にフォーカスした。創立者一族の岩本氏は、同窓会組織の影響力を駆使して、2019年に理事長に就任する。反対意見を許さない強権的な支配体制を築き、研究費を4億円以上カットするなど、強引なコストカットを進めた。その結果、医師97人、看護師162人が就任から1年間で退職してしまう。

 2020年夏、女子医大は新型コロナによる経営悪化を理由に、職員の「ボーナス・ゼロ」を宣言したが、岩本理事長や側近の報酬は大幅に増額していた。

#2 女帝(75)が元タカラジェンヌ親族企業に1億円超支出 (2022/7/19配信)

 “第1の疑惑”は、総額約2.5億円に上る出向職員の「給与水増し・架空請求の疑い」である。岩本理事長は、会長を兼務する同窓会の「至誠会」から女子医大に事務職員を出向させた。この際、A職員に女子医大は月額120万円の給与を支払ったが、至誠会からA職員に支給されたのは月額約20万円から40万円だった。この他、勤務実態がない職員の給与や、契約上は必要のないボーナスまで「架空請求」した疑いが内部文書から判明した。

  “第2の疑惑”は、岩本理事長が熱心なファンである元タカラジェンヌ・彩輝なおの親族会社との「公私混同」契約である。至誠会から職員を出向させていた契約を、不適切な手続きでケネス社に業務委託する契約に変更していた。さらに岩本理事長は、自分の甥を専属運転手として月額66万円でケネス社と契約した。ケネス社に支払われた総額は1億円超になる。

#3 「疑惑のカネ」を告発した職員を懲戒解雇 (2022/7/19配信)

 “第3の疑惑”は、附属病院移転や校舎建替えなどに絡み、嘱託職員の一級建築士C氏に給与と多額の謝礼を「二重払い」していた点である。

 C氏は設計事務所の経営者でありながら、“個人”で女子医大の嘱託職員として契約し、月額60万円前後の給与に加え、「建築アドバイザー報酬」として総額3億円を受け取っていた。

「疑惑のカネ」に関する取材を察知した女子医大は、元公安刑事などの警察OBや、元検事の弁護士らを引き入れ、職員の監視体制を強化する。そして2022年4月、週刊文春に「疑惑のカネ」の記事が掲載されると、「機密情報を他に提供した」などの理由で職員2人を懲戒解雇した。

#4 東京国税局の最強部隊“リョウチョウ”が税務調査に着手 (2022/08/02配信)

 2022年7月20日、東京国税局・課税第2部の資料調査課が、女子医大の税務調査を開始した。リョウチョウと呼ばれる資料調査課は追徴税を課することが主目的で、管轄の税務署が定期的に行う税務調査とは趣が全く異なる。

 東京国税局OBで元リョウチョウだった佐藤弘幸税理士は、「人事異動がある7月に最重要の案件から着手する。脱税額の多寡、または社会的要請を考慮した結果、女子医大が最も重要だと考えたのではないか」と指摘。調査の手法と今後の見通しを解説した。

#5 《患者の命が危機に》女子医大病院のICU医師9人が一斉退職 (2022/08/19配信)

 患者の命を守る最後の砦とされる、ICU(集中治療室)。これを担当する集中治療科の医師10人中9人が、2022年9月までに一斉退職するという異常事態になった。

 腎臓の生体間移植で、年間143症例(2020年)と国内トップを独走するなど、女子医大は臓器移植の分野で高い評価を受けている。だが、ICUが機能不全になると、移植手術の実施は難しい。

 さらに、女子医大は脳死ドナーの「心臓、肝臓、膵臓、腎臓」の移植施設として認定されており、移植手術が不可能になると、命の危機が迫っている患者たちに影響がでると懸念されている。

#6 「ICU崩壊状態」を招いた、患者の命を軽視した経営方針と恐怖政治 (2022/08/19配信)

 女子医大は、カナダの大学病院で働いていた小児集中治療の専門医A特任教授を招聘して、2021年7月に「小児ICU」をスタートさせた。しかし、招聘前に約束した報酬を支払わない経営陣に対して、A特任教授が抗議したことなどから、2年の契約期間を1年で打ち切った。他の専門医5人も全員退職や異動を余儀なくされ、「小児ICU」は、運用停止せざるを得なくなったのである。

 この事実をHPに掲載した集中治療科の医師が降格処分となり、上司の教授は減給の懲戒処分を受けた。理不尽で強権的な対応を受けて、集中治療科の9人は追われるように女子医大を去った。

 本来ならICUも運用停止になるはずが、板橋道朗病院長は「9月からICUに入室した患者は、各々の診療科で責任を持って管理する」という方針を打ち出した。

#7  “女帝”に抗議した女子医大・外科医の“矜持” (2022/09/24配信)

 女子医大病院の2022年7月収支は、3億9600万円の赤字となった。行き過ぎた人件費カットなど、経営判断のミスでありながら、創立者一族の“女帝”として君臨する、岩本理事長に誰も意見できない。過去に容赦ない報復人事を受けた、教授たちのケースを見ているからだ。

 しかし、消化器外科の名医として知られる本田五郎教授が、この閉塞した状況を破った。残業時間を減らせと、要求する岩本理事長に、敢然と反旗を翻したのである。深刻な医師不足に陥っているため、一人当たりの労働時間が長くなるのは避けられないからだ。女子医大の内部から、ようやく変わる兆しが見え始めた瞬間だった。

#8 《決起した7人の医師》“女帝”に突きつけた質問書の全容 (2022/09/24配信)

 岩本理事長ら経営陣の迷走によって、大混乱に陥っている女子医大。この状況に危機感を抱いた7人の教授らが遂に立ち上がった。小児集中治療室(PICU)の閉鎖や、ICUの集中治療医の一斉退職の原因、そして今後の立て直しに向けた対策など、4項目について説明を求める「質問書」を経営陣に突きつけたのである。この「質問書」には、職員400人が賛同の署名を寄せた。

 実は、医師不足の影響で、女子医大病院の救急外来は、閉鎖も検討する段階に追い詰められていた。にもかかわらず、丸義朗学長はさらに医師を減らす定員制を導入したのである。

#9 臓器移植などハイレベル医療から撤退を示唆した経営陣の非情 (2022/10/01配信)

 2022年9月22日、女子医大の経営陣は、教職員を弥生記念講堂に集めて、「質問書」の回答を行ったが、それが大きな波紋を呼ぶ。

 小児集中治療室(PICU)の閉鎖に関して、A特任教授の報酬について約束はなかったと主張。さらには「心臓移植と肝臓移植は、症例数がさほど多くない病態・疾患」として、今後の医療提供を再考する時期と述べ、臓器移植からの撤退を示唆したのだ。

 2022年、女子医大では脳死ドナーから提供された心臓移植が2件実施され、命が繋がれているが、その責務も放棄するような経営陣の姿勢に、医師たちは怒りと失望を隠さなかった。

#10 死亡事故がICUで発生! “杜撰な安全体制”が招いた悲劇 (2022/12/20配信)

 恐れていた悲劇が起きてしまった。集中治療科の医師が一斉退職した、女子医大病院のICU(集中治療室)で、60代の男性が、医療ミスによって死亡する事故が起きたのである。

 この男性は、消化管穿孔(胃や腸などに孔が開いた状態)の手術を受けた後にICUに移されたが、集中治療医が不在のため、手術を担当した消化器外科医が、ICUでの管理も行うことになった。術後1週間が経過して、男性の人工呼吸器を外す際、「胸水」を抜く処置を消化器外科医が実施したが、その際に大血管か臓器を損傷して大量に出血が起こり、男性は死亡したという。

 現場の医師からは、「死亡事故の根本的な原因は、患者の命を軽視した大学の経営姿勢にある」との声も上がっている。

#11 『背任罪』の疑いで“女帝”が警視庁に刑事告発された! (2022/12/28配信)

「刑法247条(背任罪)に該当すると思料されるので、被告発人の厳重な処罰を求めるため告発する」

 文春オンラインで報道してきた、岩本絹子氏が関与したとみられる疑惑のカネに関して、捜査を求める告発状が、2022年9月に警視庁捜査二課に提出された。告発人となったのは、いずれも女子医大OG(卒業生)の医師たちだ。

 東京地検の元検事・落合洋司弁護士は「岩本理事長の権限によって、女子医大にとって必要のない金が使われたことが解明されると『背任罪』が成立する可能性がある」と述べている。

#12 女帝に仕える“謎の側近”に流れた「疑惑のカネ」とカラクリ (2023/01/28配信)

 岩本理事長には、影のように仕える2人の側近がいる。2019年ホテルオークラで開かれた、岩本理事長の就任祝賀会で、記念撮影に写り込んでいた、女性Xと男性Yである。女子医大の職員さえも、2人の素性は知らされていない。

 至誠会の出向職員として、女子医大に入り込んだ2人は月額55万〜150万円(X)、80万〜90万円(Y)と破格の給与を得ていた。2020年、女子医大が職員の出向契約を至誠会(同窓会)から、彩輝なおの親族会社(ケネス社)の業務委託に切り替えた後も、変わらず女子医大での仕事を続けていた。

#13 女子医大OG教授の“決死の訴え”を鼻で笑った経営陣 (2023/02/01配信)

 “現状が続けば、女子医大が消滅してもおかしくない”として、混乱する母校に危機感を抱いた有志40人が、「女子医大を復活させるOGの会」を結成。岩本理事長の解任を求めて活動を始めた。

 これに対して、岩本理事長らは「OGの会」メンバー2人から名誉教授の称号を剥奪したうえ、1月18日に女子医大内で緊急集会を開き「OGの会」に賛同しないように呼びかけた。

 この集会で、麻酔科の長坂安子教授が、今年度から導入された各診療科の定員制に触れ、「麻酔科は44名分のポジションが、定員制で6名分になった。患者の命を失わないように、医師の数が必要」と、経営陣に定員制の見直しを切々と訴えた。しかし、参加した一人は「長坂教授の大切な指摘を、経営陣は嘲るように鼻で笑った」と証言している。

#14 《ICU死亡事故》インフォームドコンセントを実施せずに医療ミス (2023/02/22配信)

 女子医大のICU(集中治療室)で、60代男性が医療ミスにより死亡した事故について、担当医が、必要なインフォームドコンセントがないままリスクのある処置を実施したことが判明した。

「何度もやっている処置なので問題なくできるだろうと考え、勢いでやってしまった」と、事故調査委員会に対して担当医は説明したという。

 さらに、死亡した男性の家族から「病理解剖して下さい」と言われながら実施せず、Aiと呼ばれる死亡時画像診断のみだったことも分かった。このようなケースは、Aiだけでは、死因が十分に解明できない可能性が高い。

#15 “診療報酬の不正請求”疑惑が発覚 (2023/03/10配信)

 厚労省の関東信越厚生局が、1月30日に女子医大病院に立ち入り調査を行い、ICU(集中治療室)について「医師の勤務記録に不備がある」と指摘していたことが、関係者への取材で判明した。

 このICUでは、医療ミスで患者が死亡する事故が起きているが、関東信越厚生局の調査で“ICUの管理日誌に、医師が何時から勤務しているかの記載が抜けている”など、ズサンな管理体制が明らかになったという。

 24時間体制で医師が勤務していなかったのであれば、悪質な診療報酬の不正請求として認定される可能性が高い。

《独占スクープ》「背任罪で捜査開始へ」東京女子医大理事長に対する告発状を警視庁が受理! へ続く

(岩澤 倫彦/Webオリジナル(特集班))

岩本絹子理事長(HPより)