
どんな仕事にも職業病というものが存在する。たった数日働いた程度ではその職業特有のクセはつかないが、3ヶ月も経過すれば徐々に染み付いてくるだろう。のちに別の職業へ転職しても、過去についた職業病が完全に抜けきらないケースさえある。
私はセクシー女優歴2年半とそう長くない方だが、専業だったことにより、染まるのは一瞬だった。他に仕事を持っていなければ比較対象が存在しないため、今いる業界を受け入れるのに多大な時間を要さなかったのだ。
色濃い日々を過ごしたあのときから、今年で早5年が経とうとしている。実は引退後も女優時代の後遺症に気付かされることが多々ある。今回は現役時代から尾を引く私自身の“悩み事”をお話ししていこう。
◆金銭感覚は狂いがち
なぜかセクシー女優は出前が好きだ。というか夜職に従事する人間ほぼ全てがウーバーイーツのヘビーユーザーであることに間違いはない。
以前、YouTubeでペットボトル1本だけのためにウーバーを利用したキャバ嬢を見かけたが、出前が自宅の冷蔵庫代わりといったタイプだと送料・手数料などは一切気にせずバンバン注文する。これは高収入だからこそなせる技であろう。
◆一食2000円は一般的ではない
さすがに私はそこまでではないが、今でも出前を週1程度で利用するのは女優時代のクセ。1食だいたい1500〜2000円。正直なところ、高いという自覚はある。一般的な感覚ならランチに1500円以上はなかなか使わないと思うので、金銭感覚はまだまだ世の中とのズレを感じてしまう部分だ。
業界を抜けても、多少狂ったままであることは認めざるを得ない。
◆20代では破格の家賃10万円台
セクシー女優は基本的に高収入であり、頑張り次第で月収数百万円を手にできる職業だ。世の中の基準では家賃は手取りの3分の1が目安、と言われているため、例えば月収300万なら相当いい家に住める。
トップクラスの女優は若くして都会のタワーマンションに住むケースも多く、タクシーをすぐに捕まえられ、あちこちへの移動がラクなエリアを好む傾向にある。もちろん家賃を抑えてでも、仕事をするうえで便利なことから都会に住む女優が過半数以上だ。
◆人事担当者からツッコミを受ける
私もデビューしてすぐに住居を変え、繁華街へ近い家賃10万円のマンションで暮らしていた。その家をかなり気に入っていたので引退後も住み続けていたのだが、転職する際、人事担当よりツッコミを受けた。
「ずいぶんいいエリアに住まれてますね……。ちなみに家賃っていくらくらいなの?」
まだうら若き20代前半(?)で家賃10万円は、今考えると高い部類に入るはず。恐らく同世代の東京暮らしなら6〜8万円程度が相場だと思うが、当時の私は一般的な感覚を失っていたため、あっさり素直な金額を答えた。その後「え、どうやって暮らしているんですか?」と聞かれたのは言うまでもない。
ちなみに今でも同じ家に住み続けているが、周囲からは未だ「10万はちょっと高いって」と言われる。たしかにいいお値段だが、都会の暮らしと便利さ、そして追加の引越し代や手間暇を考えると、このままでいいかと思う自分がいたり、いなかったり……。
◆つい、メーカー名を略称で言ってしまう
セクシー業界の人間はビデオメーカーの名前を略称で言う。この略し方が一般的に呼ばれる名称と異なるため。相当勘のいい人でないと何の話をしているのか気付けないことが多いのだ。
私は少し前、お付き合いしていた恋人に業界特有の略し方でメーカー名を言ってしまった。すると元カレは「え?今なんと?」と顔をしかめる。ハッとして説明するも「一体なぜ独特の略し方になるのか」と腑に落ちていない様子を見せていた。
◆業界用語こそ本気で染みついたクセ
「そりゃあもう業界用語だからね」と、その場を適当に収めたが、無意識のうちにポロッと口からこぼれたことには自分自身でも大きく驚いた。業界用語は毎日何気なく使っていた言葉なので、息を吐くかのように言いがちだ。「口をついて出てしまう」、これぞ“本気で染みついたクセ”なのだろう。
◆高級焼肉、しゃぶしゃぶ、寿司、すっかり贅沢になった舌
高収入の仕事をしていると“美味しいもの”がたくさん食べられる。自分のお金で食べに行くことも可能であり、現場でもそこそこいい食事が出され、プロダクションからもたまにご馳走してもらえる。すっかり舌は贅沢病にかかり、回らないお寿司の味を若くして知ってしまった。
当時はコスパの良い食べ放題など一切気乗りがせず、同級生に誘われた時、私は露骨に嫌な表情を浮かべたのだろう。友人から「贅沢舌めが」「いい加減にしろ」「そろそろ普通に戻れ」と散々怒られ、無理矢理引っ張られていったのを今でも覚えている。
一般的な同世代と比べればわがまま舌になってしまったが、現役時代と同じ食生活をしていれば見事に破産まっしぐらなので、致し方なく料理の腕を磨いた。今ではほとんどお家ご飯で満足できるレベルにはなっており、たまに贅沢でいいところへ食事しに行く程度。毎週のように焼肉へ行かなくとも平気になったので、多少は一歩前進できたのだろう。
◆味覚についてはセクシー業界経験後一番の後遺症
ただ味覚に関してはなかなか矯正が難しく、セクシー業界経験後一番の後遺症と言ってもいい。衣食住、贅沢をしようと思えば際限がなく、私はそのなかでも「食」が最も苦労した部分だったということだ。
一度ついた職業病を完全に消すのは難しい。特に収入の高い仕事は金銭感覚の狂い方が著しいため、何が正常かわからなくなりやすいのが少々怖い部分と言えようか。
意識して無理に抜け出そうとするより、上手に付き合っていくよう心がける方が一番の解消法なのかもしれない。そろそろ私も引退して5年が経つ。いつまでも「業界人だったから」を言い訳にせず、世の中と足並みを揃えて進むことを忘れずに暮らしたいものだ。
文/たかなし亜妖
【たかなし亜妖】
元セクシー女優のフリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ソーシャルゲームのシナリオライターを経て、フリーランスへと独立。WEBコラムから作品レビュー、同人作品やセクシービデオの脚本などあらゆる方面で活躍中。

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