「死」と距離が生まれてしまった現代では、自分の死について考える機会がめっきりと減ってしまいました。ですが、死は誰にでも確実に訪れます。50万部超の大ベストセラー『80歳の壁』の著者、高齢者専門の精神科医である和田秀樹氏が、35年以上の高齢者診療で辿り着いた「極上の死に方」について、新刊『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)より解説します。

「介護保険制度」を知らないと老後に“大損”する

介護を必要とする高齢者の増加や核家族化の進行、介護による離職が社会問題となるなかで、家族の負担を軽減し、介護を社会全体で支えることを目的に創設されたのが、2000年4月に始まった介護保険制度です。

その後、お金がかかりすぎるということで変節してきましたが、それについては後でお話しするとして、この制度によってさまざまな介護サービスが受けられるようになりました。

そのおかげで仕事を続けられているとか楽になったという家族が増えています。昔であれば、認知症と診断されたら家に閉じ込められていた高齢者が、デイサービス(施設に通い日帰りで受ける介護サービス)を使うことによって、認知症の進行が遅くなっているのも事実です。

そして何より、施行から20年以上が経っていますから、スタッフたちの要介護高齢者に対する接し方が格段にうまくなってきています。それはもう見事です。プロとはこういうものだと感心させられることが多く、おそらく家族ではまねができないと思います。

ところが、すでに20年以上も経っているのに、この制度について名前くらいしか知らない人が多すぎる。いまはまだ元気でも、老後の人生設計を立てるうえで「介護保険制度」は欠かせない制度です。

そもそも老後についてだれもが一番不安に思うのは、介護の問題でしょう。「配偶者が認知症になったらどうしよう」「親の介護はどうしよう」「自分が寝たきりになったらどうしよう」と考えない人はいないはずです。

少なくとも老いの入り口に立ったら、介護保険制度の概要だけでも押さえておいてください。市役所や区役所に行けば、介護サービスについてコンパクトにまとめたパンフレットを手に入れられますし、ネットで検索すればいくらでも情報は収集できます。

大まかに言うと介護保険は、40歳以上の国民が保険料を支払い、65歳以降、支援や介護が必要になったときに給付やサービスを受けられる制度です。

介護保険サービスを受けるためには、まず市区町村の窓口で要介護認定の申請をしなくてはなりません。その後、市区町村の職員などの訪問聞き取り調査とかかりつけ医の意見書によって、要介護度が決められます。要介護度は、軽い順から要支援1~2、要介護1~5の7段階に区分され、要介護度に応じて月々いくらまでのサービスが受けられるという仕組みです。

在宅介護の場合、利用できる主なサービスには次のようなものがあります。

自宅に訪問してくれるサービスとして、「ホームヘルプサービス(訪問介護)」「訪問入浴」「訪問看護」「訪問リハビリ」「夜間対応型訪問介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」。

施設を使用するものに「デイサービス」「デイケア(通所リハビリテーション)」、「ショートステイ(短期入所生活介護)」などがあります。

また、車椅子や介護ベッドなどの福祉用具の貸し出しもあれば、全額ではないものの、自宅における手すりの取りつけや、段差の解消、床材や扉の変更にかかる住宅改修費の支給もあります。

もっとも軽い要支援1でも週2回まではヘルパーさんに来てもらえるので、食事の用意や掃除・洗濯をお願いすることが可能です。

月に利用できるサービスの限度額(2023年3月時点)は、要支援1の場合は5万320円。要介護1は16万7650円、要介護3は27万480円、そして要介護5は36万2170円です。なお、所得に応じて1~3割は自己負担になります。

施設に入った場合でも、要介護度によって介護保険が適用されるため、少ない自己負担額でサービスを受けることができます。たとえ民間の介護付きマンションに入ってから要介護5になったとしても、25~32万円は国から介護費用が支給されるわけです。そのため、以前より自己負担の月々の費用はずっと安くなっています。

「寝たきりになったらどうしよう」などと、いたずらに不安をふくらますのではなく、できる限りの情報を集めたうえで、賢く「終の棲家」を考えてください。

老人ホームは入居条件も費用も介護サービスも大きく違う

ひと口に介護施設と言っても、下記の一覧表「介護施設の種類─運営主体、条件、特徴、費用の目安─」のようにさまざまな種類があります。運営主体や規模、内容が違うだけでなく、入居条件や費用などが大きく違います。

介護保険が適用される公的な施設には、少ない費用負担で長期入所できる「特別養護老人ホーム(特養)」をはじめ、介護と医療の両方を提供する「介護老人保健施設(老健)」や、老健より要介護度が高く長期の医療を必要とする人を受け入れる「介護療養型医療施設(療養病床)」などがあります。

ただし、前述したように「介護療養型医療施設」は2023年度末の廃止が決まっており、代わりの施設として「介護医療院」ができ始めています。

民間企業、社会福祉法人、地方公共団体NPO法人などによって運営される地域密着型の「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」は、要介護5までの認知症の人が小規模な施設で共同生活を送る介護施設です。

軽費老人ホームは、A型・B型・C型があり、住宅や家族の事情などの理由で自宅で生活するのが難しく、かつ自分の身のまわりのことができるか要支援程度の60歳以上、あるいは要介護でも共同生活に適応できる65歳以上の人が入居する施設です。

ここでは、食事(B型は自炊)や生活支援サービスを受けることができます。運営主体は社会福祉法人や医療法人で、公的側面が強いこともあり、その名のとおり比較的安く生活できるのがメリットです。

主に民間企業が運営する有料老人ホームは、「介護付き有料老人ホーム」をはじめ、介護の必要がない人から要介護5の人まで幅広く入居する「住宅型有料老人ホーム」、介護の必要がない人を対象にした「健康型有料老人ホーム」、そして「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」などがあります。

「サ高住」には「一般型」と「介護型」があり、一般型で介護を受ける場合は、外部事業者による居宅サービスを利用します。介護型(特定施設)の場合は、担当の介護職員が介護サービスを提供します。

サ高住は自由度が高く、のんびりと老後を暮らしたい人におすすめの施設ですが、費用が高いのがネックです。

しかも、有料老人ホームのほとんどは「利用権方式」であり、何億円も払って超高級老人ホームに入ったとしても、入居者には所有権はありません。この点はぜひとも知っておいてほしい。当然、転売することも子どもに相続させることもできません。

また、基本的に自立の人を対象としている施設は、通常、介護が必要になると退去しなくてはいけないので、注意が必要です。

(※写真はイメージです/PIXTA)