「DSEI Japan」にて英BAEシステムズは、開発中の新型フリゲートを出展しました。海上自衛隊におけるそのクラスの艦艇建造は国内企業の牙城であり、そこへ切り込みをかけるのか……と思いきや、真の狙いは別のところにありそうです。

イギリス企業が展示した新型フリゲートのコンセプト

2023年3月15日から17日にかけて、日本最大級の防衛装備品展示会「DSEI Japan」が千葉県幕張メッセで開催されました。世界65か国、合計250以上の出展者が集まったこの展示会で、出展企業のひとつであるイギリスのBAEシステムズが展示したのが、新型フリゲートのコンセプトモデルである「Adaptable Strike Frigate(ASF)」です。

しかし日本の海上自衛隊は、すでに国内企業が建造した艦艇を多数配備していますし、今後もその状況に大きな変化が訪れるとは考えられません。それではなぜ、BAEシステムズはこのようなモデルを「DSEI Japan」において展示したのでしょうか。

イギリス海軍の将来フリゲート計画が発端

そもそも、このASFとはいったいどのような艦艇なのでしょうか。もともとは、イギリス海軍2030年代以降を見据えて計画中の新型艦艇である「32型フリゲート」に向けて、BAEシステムズが考案したものです。

Adaptable(適応性)」という言葉が示すように、このASFの最大の特徴は、さまざまな状況に応じて自らの能力を変化させることができる点にあります。それを実現するために、BAEの担当者が強調したのは「モジュラー能力」という言葉です。

ASFの船体を見てみると、真ん中に広いスペースがあり、そこにコンテナが置かれています。実は、これらのコンテナの中にさまざまな装備を組み込むことで、これを載せ替えることにより容易に能力を変化させることができるのです。

たとえば、機雷を敷設したい場合には機雷敷設装置を、逆に取り除きたい場合には機雷掃海システムをそれぞれ組み込んだコンテナを載せることで対応できます。あるいは、災害時であれば医療設備を搭載することも見込まれます。また、今後レーザー兵器やレールガンなど、大量の電力を必要とする兵器が艦艇に搭載されることを見込んで、コンテナバッテリーなどを組み込むことも考えられます。

ASFのキモは「いかに各種装備を組み込むか」

これらコンテナの搭載に加えて、ASFの艦尾には無人水上艇(USV)や水中無人機(UUV)の発進、回収スペースも設けられています。さらに、無人航空機(UAV)を搭載することもできるため、これらの無人装備を用いて、迫る脅威を早期に発見したり、あるいは人命を危険にさらすことなく各種作戦を実施したりすることができるのです。

しかし、こうした無人装備や、あるいは各種装備が組み込まれたコンテナをただASFに搭載するだけでは、何の意味もありません。たとえば、コンテナ内の装備を動かすためには電力供給が必要ですし、無人装備を含めてこれらを効率的に運用するためには、艦艇自体の戦闘システムへ統合する必要があります。つまり、コンテナ化された装備や各種無人装備を、艦艇のシステム内に組み込むことが必要となるわけです。

このように、それぞれが独立したシステムを連結して連携させる、いわゆる「システム・オブ・システムズ」の発想が、このASFのキモとなります。実際、BAEシステムズの担当者は、「ASFにおいて最も重要なのは、(各種装備と艦艇との)連結性」と話します。

日本の展示会への出展は輸出が真の目的にあらず?

それでは、BAEシステムズはなぜこのASFを日本の展示会に持ち込んできたのでしょうか。実は、その狙いはこの艦艇そのものの輸出ではなく、もっと深いところにあります。それが、日本の防衛産業とのコラボレーションです。

BAEシステムズの担当者によると、たとえばイギリス海軍が32型フリゲート計画をキャンセルした場合でも、ASFの意義が消滅するわけではないといいます。というのも、このASFというコンセプトそのものを用いて、日本を含めた他国の海軍や防衛関連企業と連携し、協力することができるためです。今後の技術革新を見据えた艦艇のコンセプトや、それを実現するための技術やノウハウを基に他国の防衛産業と連携することができれば、将来世代の新たな軍艦を共同して建造することも可能となります。

さらに、BAEシステムズは艦艇の設計や技術開発を行うだけではなく、それを販売するためのサプライチェーンも有しています。そこで、日本の防衛産業との連携とは、単なる設計や技術面での連携にとどまらず、サプライチェーンも含めた連携になると筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。たとえば現在、日本、イギリスイタリアの3か国が共同で進める次世代戦闘機開発計画である「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」は、その好例といえます。

他国の防衛関連企業と連携し、日本で製造された各種装備やパーツを、サプライチェーンを通じて海外に輸出することができれば、昨今話題の防衛産業の再建にも大きく寄与することになるでしょう。

「DSEI Japann」へBAEシステムズが出展した「ASF」のイメージ(画像:BAEシステムズ)。