ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある8歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の4歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 息子さんは、4歳になった年の12月に“知的障害を伴う自閉症”と診断を受けました。約4カ月後の4月、アマミさんは悩んだ末に、障害者手帳の一つで、知的障害がある人を対象とした「療育手帳」の取得に踏み切りました。4月2日の「世界自閉症啓発デー」に伴い、アマミさんが手帳取得に踏み切った理由や、親としての当時の心境についてつづります。

親としてできることを考えた

 私の息子は1歳半健診から発達の遅れを指摘されており、療育(障害のある子の発達を支援する施設)にも通っていました。最初は「いつか他の子に追いつく」と信じていた発達の遅れも、4歳になるとさすがに「遅れ」というには大き過ぎるものでしたし、私もさすがに心の底から何もないとは思っていなかったのです。

 しかし、それでも医師からはっきりと「知的障害」「自閉症」という診断が告げられると、大きなショックを受けました。息子に障害があると分かってからしばらくは、息子の将来への不安があまりに大きく、突然色を失った世界を生きているような感覚でした。

 それでも、私には時を同じくして、息子が通う療育で、息子と同じ障害がある子どもを育てるママ友がたくさんできました。子どもの障害告知というあまりに重い経験をしても、同じ立場にある仲間と過ごす時間の中で、少しずつ気持ちがほぐれていったのです。これは、私にとってとても幸運なことでした。

 そして、ママ友たちとの会話や通っていた療育施設で聞いた情報から、次第に「療育手帳」の存在を知るようになったのです。

「療育手帳」とは?

 療育手帳は障害者手帳の一つで、知的障害がある人が取得可能です。障害者手帳は3種類あり、療育手帳の他に、体の機能に一定以上の障害がある人が取得できる「身体障害者手帳」、一定の精神障害の状態にある人が取得できる「精神障害者保健福祉手帳」があります。

 いずれの手帳も、障害がある人が必要な支援を受けやすくするためのものです。自閉症がある人の中でも、息子のように知的障害を伴う場合は「療育手帳」を取得できますが、知的障害を伴わない発達障害の場合は療育手帳の対象にはなりません。そのような、知的障害を伴わない発達障害がある人は、「精神障害者保健福祉手帳」の対象になります。

 療育手帳を取得すると手当や年金、支援サービスなどを受けることができます。障害の程度を表す指標である「等級」によって受けられる支援は変わり、等級が重いほど、手厚い支援を受けられるのです。

 ただ、療育手帳を含め、障害者手帳の取得は必須ではなく、あくまで任意です。そのため、障害の重さにかかわらず、持っている人もいれば持っていない人もいる、個人の判断に任された制度です。

療育手帳のメリット、デメリット

「療育手帳を取得すると、さまざまな手当や支援を受けられる」。そうは思っても、私は診断を受けて、すぐに手帳取得に踏み出せませんでした。

 なぜなら療育手帳は、「息子に知的障害がある」と証明するものだからです。診断はどうしようもないものだと分かっています。それでも当時の私には、息子の障害を証明するものをすぐに手にする勇気が出なかったのです。

 しかし、手帳取得について相談したママ友から、このような話を聞いたことがありました。それは手帳を持つと、「この人には支援が必要」であると示すことができるという話でした。

 実際は、困っている程度が同じくらいの人でも、手帳を持っているかどうかで受けられる支援やサービスは大きく変わってしまいます。それは、手帳を提示することで受けられる福祉サービスや、手帳の等級を基準とした福祉サービスが多いからです。

 その話を聞いて、私は手帳は確かに障害を証明するものだけど、同時に息子を助ける後ろ盾のような存在でもあると気が付きました。

 さらに、手帳について調べていくと、取得するメリットは数えきれないほどあるのに、デメリットはないことが分かりました。手帳を持っていても、自分から出さなければ誰かに知られることはありません。しかも、不要になったら返納もできるのです。

 強いて言えば、手帳を持つ唯一のデメリットは、「わが子を障害児だと認めること」、それに尽きるのかもしれません。

「それはデメリットと言えるのか?」と思うかもしれませんが、子どもが障害の診断を受けたばかりの親にとって、これは心理的に大きな抵抗感があるものです。当時の私もそうでした。

 だから、「悩んでいる」と言いながらも、結局は「手帳を持つデメリット」を探し、障害の診断から目をそらしたかったのだと思います。しかし、この「唯一のデメリット」以外はデメリットが見つからなかったため、診断から4カ月後の4月に、私と息子は療育手帳の判定を受けに児童相談所に行きました。

療育手帳、どうやって取得する?

 意外かもしれませんが、療育手帳は子どもの場合は児童相談所、大人の場合は知的障害者更生相談所などで交付されます。ただ、療育手帳は都道府県市区町村などの自治体が運用している、非常に地域差が大きい制度です。そのため、取得までの流れは全国共通とは限りません。

 療育手帳が気になる場合、まずはお住まいの地域の障害福祉課か福祉事務所などに問い合わせ、手帳取得のための方法を確認するのがよいと思います。

 私が住んでいる地域では、親が直接児童相談所に検査予約の電話をすることが、手帳取得の第一歩でした。療育手帳の交付には知的障害の判定が不可欠であるため、児童相談所で発達検査や医師の診察などを行った後、改めて知的障害があることを確認します。その結果、手帳を交付できる判定がなされると、手帳が手元に届くという流れでした。

 ただし、手帳の取得には思った以上に時間がかかります。息子の場合、「手帳を取得したい」と思って児童相談所に電話をした日から約1カ月後が、判定を受けるための検査日でした。そして、検査から手帳が手元に届くまでに、さらに1カ月以上かかりました。

 このようなケースもあるため、使用目的があって手帳を取得しようと考えているのなら、早めに動いた方がよいかもしれません。

少しでも息子が生きやすくなるように

 息子の手帳が初めて手元に届いた日、私は届いた手帳を見つめながら、少しだけ涙をこぼしました。すでに息子に障害があることは分かっているし、望んで取得した手帳です。それでもいざ目の当たりにすると、息子の障害を完全には受け入れ切れていない複雑な気持ちが、どっと押し寄せてきたのだと思います。

 しかし、後悔はしませんでした。息子がこれから先の人生を生きていくために、きっと大きな助けになるものだと思ったからです。

 その後、年月を経て手帳は更新の年を迎え、息子の療育手帳の判定は重度になりました。おかしな話かもしれませんが、重度になった手帳を手にしたときは、まったく涙はこぼれませんでした。それどころか、重度の判定が出た日は夫の提案で、息子が好きな焼き肉を食べに家族で楽しく出掛けたくらいです。

 とはいえそんな私も、息子の障害を本当に受容できているのかと言われれば、よく分かりません。それでも以前に比べたら、息子に障害があることは私の中で当たり前の日常として根付き、落ち込むこともなくなりました。

「障害受容」という言葉がありますが、どういう状態になったら「受容した」と言えるのか、その指標は非常に曖昧なものだと思います。

 誰かに促されてするものでもないですし、できるまでの期間も人それぞれです。大事なのは受容できたかどうかではなく、子どもが少しでも生きやすくなるように、親ができる限りのことをしてあげること、それに尽きるのではないでしょうか。

 手帳の取得は親の障害受容あってこそ、と思われるかもしれませんが、「とりあえず心を無にして動いた」という親御さんもいれば、私のように、「取得したはいいけど泣いてしまった」という話も聞きます。

 もし、かつての私のように、子どもが障害の判定を受け、葛藤の中で苦しんでいる人がいたら、「受容できたかどうかは分からないけれど、受けられる支援は全て受けることにした」という一つの例として、知ってもらえたらうれしいです。

ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ

療育手帳を取得するために児童相談所に向かったべっこうあめアマミさんと息子(べっこうあめアマミさん作)