YouTubeでこのところ異変が起きています。特に2022年半ば頃から、人気を得るチャンネルのパターンが明らかに変わっているのです。かつて楽天で「ラクマ」や「6時間タイムセール」等のヒット企画にかかわったYouTubeプロデューサーの大原昌人氏が著書『会社の売上を爆上げする YouTube集客の教科書』(自由国民社)より、今YouTubeで人気を獲得する条件について、実例を紹介しながら解説します。

個人から消費者へ、「P to C」でものを売る時代になってきた

なぜこれほどYouTube経由でものが売れているかといえば、最近の消費者は「好きな人や信頼している人から買いたい」と考える人が増えているからです。

ひと昔前まで、商品はお店や企業から買うものでした。それがいわゆる「B to C」(Business to Consumer)のビジネスモデルです。ところが昨今では、個人が企画・制作した商品やサービスを直接消費者に販売する「P to C」(Person to Consumer)のビジネスが急速に発達しているのです。

「P to C」における売り手Pは、YouTubeやSNSで多数のフォロワーをもつインフルエンサーです。サワヤンチャンネルの二人やヒカルさんもまさにこのパターンで、YouTubeで培った認知を武器にブランドを構築し、ファンに向けて自分の商品を販売しています。

企業がYouTubeチャンネルを立ち上げ、YouTube経由でものを売る場合は、厳密には「B to C」もしくは製造企業が消費者へ直接販売する「D to C」(Direct to Consumer)ということになるでしょう。

ただし消費者の感覚としては、会社からではなく個人から買っている。ヒカルさんのアパレルブランドだって当然法人化しているわけですが、彼のファンはそのアパレル企業からではなく、ヒカルさん本人から「P to C」で買っていると認識しているはずです。

演者は「校長先生」ではなく「おもしろい先輩」になりなさい

「P to C」でものが売れていく現代、YouTubeからエンド商品に誘導できるかどうかは、演者の人間的魅力にかかっているといってもいいでしょう。視聴者が演者に好感を持ち「この人から買いたい」と思わなければ、集客効果は見込めません。

といっても、演者に特別なカリスマが必要というわけではありません。

YouTubeで視聴者の心をつかむ最大のポイントは「親近感」です。

直近で伸びているチャンネルの演者は、ほとんどが身近にいそうな等身大のキャラクターを売りにしています。これは、ここ半年くらいのトレンドといえる現象です。

2021年頃まで、ビジネス系ユーチューバーに求められるのは親しみやすさよりも「権威」でした。

若手起業家や「〇〇先生」と呼ばれるようなその道のスペシャリストが、肩書にふさわしい権威をまとって視聴者に語りかければ、それだけで再生がまわっていました。

ビジネス系チャンネルの演者はこぞってそのスタイルを踏襲したので、界隈には「〇〇先生がまじめに解説する系」のハウツー動画があふれかえりました。

ところが2022年の半ば頃から、そのやり方では再生回数が増えなくなってきたのです。あまりにも似たような動画が増えすぎて、視聴者が飽きてしまったのでしょう。

代わって台頭してきたのが、権威ではなく親近感を前面に打ち出した動画です。「先生」の立場で語るスタイルから、ほんの少しだけ視聴者の先をいく「先輩」のポジションでやさしく説明するスタイルへと、トレンドがシフトしたのです。

「フランク路線」で成功したYouTubeチャンネルの例

たとえるなら、校長先生のありがたくも退屈なお話ではなく、担任の先生や部活の先輩のおもしろい体験談を聞きたいと思う視聴者が増えているのでしょう。

今このタイミングでビジネス系ジャンルに参入するのであれば、校長先生系のまじめトークではなく、担任や先輩くらいの距離感のフランク路線でいった方が、断然ファンがつきやすくなります。

具体的な事例をご紹介しましょう。

ダイエット系でも、少し前まではスタイル抜群のインストラクターが、科学的根拠を交えながらまじめに指導する動画が人気を集めていましたが、その手のものは徐々に下火になりつつあります。

代わりに最近では、特にスタイルがいいわけでもない、どこにでもいそうな等身大のインストラクターが頭角を現してきています。

たとえば「ズボラストレッチ」というチャンネルの演者である深井さんは“おじさん”という表現がしっくりくるようなアラサー男性です。

それも、特別細いわけでもマッチョなわけでもない、中肉中背の男性です。そんな彼が、立派なスタジオではなく、何ならちょっとボロいくらいの民家の一室にマットを敷いて、ストレッチのやり方を解説する。

このスタイルが大いにウケて、チャンネル登録者数は130万人以上になっています。

普通に考えたら、とりたててスタイルがよいわけでもない男性が「脚痩せストレッチ」「本当に痩せる腹筋」などの動画を公開しても、説得力に欠けるといわざるを得ません。

それでも同チャンネルが人気を博しているのは、タイトルどおりズボラな人でも挑戦しやすい「のび太君向け」の内容であることに加え、深井さんの飾らない姿に共感や安心感を覚える視聴者が多いからでしょう。

ダイエット系では、なるねえさんの「笑けるダイエット」も参考になります。彼女のダイエット動画の特徴は、タイトルどおり「笑える」こと。音楽に合わせてさまざまなトレーニングに挑戦しながら「いてて~」「つらい」「これヤバい」といった率直な感想を述べる姿は、まさに先生ではなく身近な先輩という雰囲気です。

伸びやすい動画づくりのコツ

このように、最近のYouTubeではお偉い先生のお堅い講話よりも「自分より少しだけ知識がある先輩の話」くらいの温度感が、もっとも伸びる傾向にあります。

では、一般的なビジネス系チャンネルの演者は、その絶妙な温度感をどうやって動画に反映すればいいのでしょうか。

まず大事なのは、上から目線で話すのではなく、親しげな雰囲気を心掛けることです。社長が演者を務める場合は、いつもの癖でついつい偉ぶった話し方になってしまうことがあるので、特に注意してください。

そのうえで、動画の冒頭5秒もしくは終わりの10秒くらいに、ちょっとプライベートな話を交えるのがおすすめです。

たとえば子育て中の人だったら「今日は子どもが保育園にいく前に泣いてしまって、バタバタ動画撮ってます」といった話をマクラに本題へ入っていくと、一気に親近感がわきます。

あるいは動画の最後に「今日の撮影、めっちゃ疲れたな。このままマックいっちゃうか」という感じのコメントを入れるのもいいでしょう。

テレビ番組で楽屋などのオフショットを映すのも狙いは同じで、表向きの顔だけではなく、プライベートな部分での「人となり」がわかった方が、視聴者はより演者に興味をもってくれるのです。

大原 昌人

株式会社ダニエルズアーク

代表取締役・YouTubeプロデューサー

(※写真はイメージです/PIXTA)