国内初となるLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」に乗船。瀬戸内を航行する船としては最大級のサイズになり、船内設備やサービスも充実しましたが、重油を燃料にした従来船とは全く異なる環境が、そこにはありました。

話題のLNG燃料「さんふらわあ」 さすがの巨体の余裕も

国内初となるLNG(液化天然ガス)燃料フェリー「さんふらわあ くれない」(1万7114総トン)が、2023年1月から大阪~別府航路で運航を始めています。商船三井グループの「フェリーさんふらわあ」が提唱する“カジュアルクルーズ”の最終形態として投入した同船は、「瀬戸内海の女王」の名に相応しい豪華な内装がセールスポイント。4月には2番船「さんふらわあ むらさき」の就航が迫っており、別府航路はますます賑やかになりそうです。

今回、デビューしたての新船に乗り、その広さや静粛性、そして乗組員のホスピタリティを堪能してきました。

筆者が乗ったのは大阪19時5分発、別府6時55分着の下り便でした。従来の紙の乗船券に代わってQRコードによるスマートチェックイン機能が採用されており、そのまま船室の鍵として利用できます。

さんふらわあターミナル(大阪)第1ターミナルからボーディングブリッジを抜け、乗船口から「さんふらわあ くれない」の船内に入ると、まず3フロア吹き抜けのアトリウムが目に飛び込んできました。中央に設けられた扇状の大階段と、吹き抜けを囲む手摺りは、映画「タイタニック」でも描かれた戦前のオーシャンライナーの姿を彷彿とさせ、船旅への期待を高めます。これから別府へ向かおうとする乗船客の多くはここで足を止めて感嘆の声をもらし、別府の観光地を紹介するプロジェクションマッピングが投影された天井を背景に、大階段で記念撮影をしていました。

周囲を観察すると、子供と一緒に旅行する家族連れや、大きなカートを持った大学生の団体、トラックドライバーなどさまざまな乗船客が行き交っており、約200人が乗船していました。「さんふらわあ くれない」の旅客定員は716人なので、この日は比較的船内に余裕がありましたが、繁忙期となる4月は400~500人が乗船する見込みだとか。新造船のためYouTubeなどでも話題となっており、600人が乗船した時もあるそうです。

約12時間の船旅でお世話になるセミスイートに入ると、船長からのメッセージカードが。冷蔵庫にはウェルカムドリンクが入っており、自由に飲むことができます。バルコニーに出てみれば黄昏色に染まる大阪南港の景色が目に入り、旅情を掻き立てます。

食事は?風呂は? 目玉の「スイート専用ラウンジ」は?

アトリウムと同じフロアにはバイキングスタイルの食事を提供するレストランが設置されています。船体中央から右舷船尾にかけた広いスペースが確保されており、席数は従来船の「さんふらわあ あいぼり」に比べて1.5倍の約200席以上。瀬戸内海で最大級の大きさを誇るフェリーならでは設備の一つと言えるでしょう。

大分の郷土料理りゅうきゅう」のように、これまで人気が高かったメニューに加え、瀬戸内海の食材を使用した料理や、ミシュラン一つ星獲得店「agnel d'or」の藤田晃成シェフが監修した「国産牛赤ワイン煮」が並んでおり、窓側のカウンター席に座れば夜景と共に料理を楽しむことができます。

夕食を食べていると出港の銅鑼が鳴り、船が静かに大阪南港を出港します。インフォメーションボードには1930年代瀬戸内海を模した地図が表示されており、本州と四国を結ぶ明石海峡大橋瀬戸大橋、来島海峡大橋の通過時間が書かれています。

大阪からの下り便では、明石海峡大橋を20時15分ごろに通過するため、ライトアップされた吊り橋を両岸の街明かりとともに眺めることができます。この日は天気が良かったため、多くの乗船客がデッキに出て動画や写真を撮っていました。

さて、広くなった大浴場に入った後に向かったのは、スイートフロアの利用客だけが入れるスイートカフェラウンジです。ここにはコーヒーメーカーとアイスが入った冷凍庫が置かれており、お風呂上がりにラックに置かれた雑誌を読みながらノンビリ過ごすことができます。コーヒーとアイスはもちろん無料で、船旅という贅沢なひと時を感じてもらうために設けられたそうです。

お土産物を買うためアトリウムの方へと歩いていくと、トランプで遊ぶ子供たちや、プロムナードのソファーでお酒を飲む人、スマホを持って明日の予定を立てている人を見かけ、それぞれ思い思いの夜を過ごしていたようでした。

これがLNG船か…! 到着後には“ならでは”の光景も

朝食のビュッフェは5時45分にオープン。さんふらわあ名物のカレーを食べながら窓の外を見ていると、徐々に空が白んできました。

客室で過ごしてわかったのは、「さんふらわあ くれない」は従来船に比べて非常に静かな船だということです。主機関として採用されているバルチラ製の4ストロークエンジン「バルチラ31DF」は静粛性と経済性を両立した高効率エンジン。船底からの振動をほとんど感じることなく、心地よく別府まで移動できるフェリーが投入されたことで、同航路のさらなる利用者の増加につながると思われます。

朝焼けに照らされたデッキに出て煙突を見ると、煙がほとんど見えません。これまで船はモクモクと黒い煙を吐いている姿が描かれてきましたが、環境に優しいLNGを採用することで、こうしたイメージも変わっていくのではないでしょうか。

別府湾を静かに進む「さんふらわあ くれない」の進行方向には、別府温泉を象徴する無数の湯けむりが見えます。船はやがて針路を変え、新造船の就航に合わせて別府観光港に設けられた新しいターミナルに接岸しました。ここで、“LNG船ならでは”の光景も見られます。

岸壁には「さんふらわあ くれない」で使用するLNGを搭載したタンクローリー3台が待機しており、到着後すぐに燃料補給が始まります。通常は船とタンクローリーを1台ずつつないでいきますが、ここでは、スキッドと呼ばれる導管装置を用いてタンクローリー3台から同時供給するという、国内初のちょっと豪快な方式が採用されています。これにより燃料補給の時間が大幅に短縮できるようになりました。徒歩で下船するとターミナルのすぐ近くで作業が行われているため、時間があれば少し覗いてみるも良いかもしれません。

下船して振り返ると、船内のさまざまな装飾や美味しい食べ物が浮かんできます。12時間では物足りず、もっと乗っていたい空間が「さんふらわあ くれない」にはありました。

大阪南港で出航を待つ「さんふらわあ くれない」。左は志布志航路の「さんふらわあ きりしま」(深水千翔撮影)。