レイセオン・テクノロジーズが、米海軍艦艇向けの新型レーダーについて大型契約を取り付けたという、一見して日本には無関係に見えるニュースは、実は関係大アリかもしれません。どういうもので、なぜ日本に関係があるのかを解説します。

アメリカ海軍のイージス艦に新たなレーダーが

2023年3月30日(木)、アメリカの大手防衛関連企業であるレイセオン・テクノロジーズは、同社がアメリカ海軍向けに「AN/SPY-6レーダー」シリーズを継続して製造する契約を6.19億ドル(約823億円)で受注したと発表しました。

この発表の中で特に注目されるのは、現在アメリカ海軍で運用され、日本にも配備されているアーレイバーク級イージス艦の「フライトIIA(アーレイバーク級のバージョンのひとつ)」も、能力向上改修にともないSPY-6レーダーを初めて搭載することが明らかになった点です。実はこのニュース、日本にとっても非常に重要な内容を含んでいます。

そもそも「SPY-6」とは

SPY-6は、レイセオン社が開発、製造している最新鋭の艦載用レーダーで、現在アメリカ海軍の最新鋭イージス艦原子力空母への搭載のため、納入が開始されています。その特徴のひとつは、搭載する艦艇や求められる能力などに応じて、自身のサイズを自在に変更できるという点です。

SPY-6は「レーダーモジュラーアッセンブリ(RMA)」と呼ばれる、一辺が60cmの四角い箱状の小さなレーダーを組み合わせることによって、ひとつの大きなレーダーを構成しています。そのため、このRMAの数を変更することで、レーダーの大きさを自在に変化させることが可能というわけです。

そしてこのRMAの数に応じて、SPY-6にはいくつかの種類が存在します。

初の「バックフィット改修」用のSPY-6

SPY-6のバリエーションとして、たとえば現在、海上公試中である「ジャック・H・ルーカス」を含む、アメリカ海軍に今後、順次就役するアーレイバーク級イージス艦の最新型「フライトIII」には、37個のRMAで構成される「SPY-6(v)1」が搭載されます。

また強襲揚陸艦輸送艦には、9個のRMAで構成される回転式の「SPY-6(v)2」が、アメリカ海軍に今後就役する新型フリゲートコンステレーション」級や「ジェラルド・R・フォード」級原子力空母の2番艦「ジョン・F・ケネディ」には、同じく9個のRMAながら3面固定式の「SPY-6(v)3」が、それぞれ搭載されます。

そして、冒頭で触れたアーレイバーク級「フライトIIA」の能力向上改修にともない搭載されることになるのが、24個のRMAで構成される「SPY-6(v)4」です。これは、現在イージス艦に搭載されている「SPY-1」レーダーを置き換えるもので、大幅な探知距離の向上が見込まれるほか、整備性なども大きく向上します。

また、イージス艦の名前の由来でもある「イージス武器システム(AWS:多数の目標に同時対処することを目的に開発された対空戦闘システム)」も、SPY-6の搭載にともない、その最新バージョンである「ベースライン10」へとアップグレードされることになります。

このように、これから新しく建造されるイージス艦への搭載ではなく、すでに運用されているイージス艦のレーダーを置き換える形でSPY-6を搭載するようなことを「バックフィット改修」といいます。

日本も他人事ではない理由とは

それでは、このバックフィット改修がなぜ日本にとっても他人事ではないのでしょうか。

それは、日本の海上自衛隊が運用するイージス艦も、このバックフィット改修が可能と見られているためです。現在、海上自衛隊は8隻のイージス艦を運用しており、その中でも、2020年3月に1番艦「まや」が就役した2隻のまや型護衛艦に関しては、その船体規模なども踏まえてSPY-6の搭載が可能と見られています。

すでに触れたとおりSPY-6は、現在まや型に搭載されているSPY-1レーダーと比べて大幅に探知距離が向上しており、このことは、同艦に搭載される弾道ミサイル防衛用の迎撃ミサイルである「SM-3ブロック2A」の射程や機能を、これまで以上に活かすことができるようになることも意味します。

さらに今後、アメリカ海軍SPY-6を、イージス艦を含めた多くの戦闘艦艇に搭載することを計画しています。いずれ、神奈川県アメリカ海軍横須賀基地にも、SPY-6を搭載した艦艇が配備されることになるでしょう。その際、日米間で共通のレーダーを使用することは、有事の際の連携や補給面でのメリットも大きいと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。

今後SPY-6は独自の能力向上が予定されていて、たとえばSPY-6同士で目標に関する情報を共有し、どこにどのような敵が飛んでいるのかということを示す、ひとつの大きな状況図(ピクチャー)を作成することも可能になると見られています。2022年12月に公表されたいわゆる「安保関連三文書」では、海上自衛隊イージス艦をさらに2隻、増勢することも明らかにされました。バックフィット改修の可能性とあわせて、新しいイージス艦用のレーダーに関しても、SPY-6は有力な候補となり得るでしょう。

SPY-6はアメリカ海軍において、7種の艦艇で防空およびミサイル防御に使用されている(画像:レイセオン ミサイル&ディフェンス)。