代替テキスト
(写真:PIXTA)

「医学は日進月歩。最近は科学的な証拠に基づいて医療現場ではつねにアップデートが行われています。健康について昔の常識にとらわれると、逆に健康を害することがあるかもしれません。今の医学の常識をチェックし、ご自身の健康や病気に対する新しい情報を更新していくことが大切です」

そう語るのは「秋津医院」の総合内科医・秋津壽男院長。病気や健康の情報でもひと昔前なら「常識」だったものが、研究が進むことで180度覆され、現在では「非常識」になっているものは少なくない。そんな、今は非常識となった昔の健康の常識を集めてみた。

■“実はNG!”昭和の常識

【1】鼻血を出したら上を向く

昭和の時代には、鼻血が出たときは上を向いて鼻にティッシュなどの詰め物をするのが常識だったが……。

「上を向くと、血が気道に入るので、今では、鼻血が出たら下を向いて小鼻部分をつまんで圧迫することがいいとされています」(秋津先生)

【2】傷には消毒

「かつて傷は消毒してから、乾燥させてかさぶたを作って治していました。ところが乾かすことで傷を修復する細胞の働きが阻害されるため、今では消毒薬を使わずに水で洗い流して、ラップや次世代絆創膏で湿らせて治す『湿潤療法』が主流です」(秋津先生)

【3】水道水で目を洗う

小学校の水泳授業ではプールから上がったら水で目を洗うことが当たり前だったが、今では行われていないことは、読者世代にはあまり知られていない。

「かつては、プール後の洗眼指導がありましたが、目の表面を保護している成分『ムチン』が減少して角膜上皮のバリア機能が低下することから、日本眼科学会が、推奨しないと見解を示しました。今でも目の違和感や乾燥から水道水で繰り返し洗ってしまう人もいますが、ドライアイなどの目の疾患の原因になります」(秋津先生)

【4】熱が出たらすぐに下げる

普通の風邪の場合、熱はすぐ下げるのが昭和の常識だった。だが、発熱は免疫力を高めるための体の防御反応。高齢者や基礎疾患のある人以外は、無理に解熱鎮痛剤で熱を下げるよりも熱をピークまで上げてしまうことが重要だという。

【5】睡眠時間は必ず8時間

睡眠についても、新しい常識が増えている。睡眠専門医として20年以上現場に立ち続ける「雨晴クリニック」の坪田聡院長が語る。

「いまだに“睡眠時間は8時間がいい”という風潮が根強く、睡眠時間にこだわるあまり、寝付けずにモヤモヤしたり、ムダな時間を布団で過ごしたりして寝ること自体がプレッシャーになり、睡眠の質を落としてしまう人も多くいます。最新の研究では、人間に必要とされる睡眠時間は個人差がとても大きく、年齢や性別、生活環境によって変わるとされています。睡眠時間よりも〈朝スッキリ目覚められている〉か〈日中を元気に過ごせている〉ことが大切です」(坪田先生)

【6】食後すぐに歯磨き

ムシ歯を防ぐために、「食べたらすぐ磨く」と指導された人も多いだろう。ただし、正確な知識を持っておくことが必要だと解説するのは「江口歯科・矯正」の江口康久万理事長だ。

「食物によっては食後30分以内に歯を磨くとエナメル質が削れることがあります。とくに酸っぱいものや炭酸の摂取後は、口中が酸性になり、エナメル質からカルシウムが溶け出す脱灰が起こります」

エナメル質が脱灰すると、虫歯や知覚過敏につながることも。

「30分ほどすると唾液によって口の中は中性に戻り、溶け出したカルシウムを戻してくれます。通常の食事の場合はそれほど気にする必要はありませんが、酸性の強いコーラやビールなどの炭酸飲料、ワイン、酢を使った料理を口にした直後には歯磨きをしないで下さい」(江口先生)

■運動のタイミングやストレッチも新常識

【7】卵は1日1個まで

コレステロールを気にする人のなかには「高コレステロールの卵は1日1個まで」という“常識”をいまだ信じている人も多い。

「ひと昔前まで悪者だったコレステロールも最近は世界的にも見方が変わり、厚生労働省の『日本人の食事摂取基準』でコレステロールの基準値を撤廃しました。血液中のコレステロールの8割は体内で作られ、食事による影響は2割だけ。食べすぎは動脈硬化を進行させますが、栄養面でもプラスの効果がある卵なら1日2~3個食べても問題ありません」(秋津先生)

【8】朝はフルーツジュースを

ビタミンや食物繊維が豊富でヘルシーなイメージがある果物。「フルーツジュースは体にいい」と信じている人もいるが、そこには大きな落とし穴がある。

「食後の血糖値の急上昇や急降下を指す血糖値スパイクは、糖尿病のリスクを高めるだけでなく、血管を傷めて重篤な病気を招く動脈硬化を進めます。実は、果物のジュースは糖質が多く、米ハーバード大学の調査では、フルーツジュースを毎日飲む人は糖尿病リスクが21%上がるという報告も。朝に果物を取る場合は、固形のまま、よくかむことで血糖値スパイクを抑えられます」(秋津先生)

【9】毎朝のジョギング

自律神経の研究も進み、新常識が登場している。自律神経研究の第一人者、順天堂大学医学部の小林弘幸教授が語る。

「おもに血流をコントロールする自律神経は、日中には交感神経が、夕方からは副交感神経が活発になります。『ジョギングするなら朝がいい』と信じる人がいますが、全身の血流がよくなる夕方のほうが効率はいいです」

【10】冷え性には手足を温める

「手足の冷えは自律神経の乱れが深く関わっており、末端を温める以上に自律神経を整えて全身の血流を改善させることがカギ。運動をして筋力をつけることも重要です」(小林先生)

【11】運動前のストレッチ

運動前のストレッチは、体の1カ所の筋肉を伸ばすだけでは全体のバランスを崩す可能性も。また伸びてしまった筋肉は、すぐには元に戻らないため柔軟性が損なわれ、可動域が狭まりケガをするリスクがある。ストレッチは運動後、が今どきの常識だ。

■“実はOK!”昭和の常識

昭和世代がダメと思い込んでいても、実は健康にいい習慣も。

【12】二度寝

「『二度寝はよくない』と子どものときに言われた人は多いでしょう。ですが、朝に5~10分ほど二度寝することで、ストレスから体を守ってくれるホルモン『コルチゾール』の分泌が増え、全身に行き渡り、目覚めがスッキリします」(坪田先生)

【13】おしっこを我慢する

おしっこを我慢すると膀胱炎になる」というのも正しく理解しておきたい。極端な我慢は体によくないが、適切な尿がたまる前に排尿を繰り返すと膀胱が膨らまず、硬くなり、頻尿や尿もれなど尿トラブルを引き起こすこともある。

【14】貧乏ゆすり

ネガティブなイメージがある行動にも、意外な健康効果が。

「みっともないという印象があるため、『貧乏ゆすりをやめろ』と言われた人もいるでしょう。実際は、貧乏ゆすりは座っている時間が長い現代社会では効果的なストレス解消法。リズミカルな動きが脳をリラックスさせるほかにも、50代女性に多い変形性股関節症の運動療法としても昨今注目されています」(小林教授)

【15】ため息

「『幸せが逃げていく』とされるため息は、息を思い切り吐き出すことで瞬時に末梢血管の血流が回復。酸素や栄養が全身に行き渡る効果も。ため息はどんどんついたほうがいいのです」(小林教授)

【16】白髪を抜く

「白髪を抜くと増えるので抜いてはダメ」という“常識”には科学的根拠はなく、俗説にすぎない。

【17】食後すぐに横になる

「『牛になる』ので、食後すぐに横になってはならない」と子どものころに言われた人も多いだろうが、こちらも健康には悪くはないのだ。

「食べたものを消化しているときに動くと栄養分がきちんと吸収できないため、休むのは医学的にはいいんです」(秋津先生・以下同)

【18】高齢者が肉を食べる

「肉は消化に悪く、高齢者は食べてはダメ」と思い込んでいる人もいる。これも間違いだ。

「高齢者に顕著なのが筋肉の衰え。要介護になるフレイル(虚弱)になるリスクを高めます。高齢者になったら動物性タンパク質をしっかり取るのはいまや常識。とくにアミノ酸の一種の『ロイシン』は、筋肉をつくる重要な働きをします。ロイシンを多く含む鶏肉と豚肉を意識して取りましょう」

【19】風邪のときの入浴

「風邪をひいたら入浴してはいけない」という考えも、現在は否定されている。

「昔は銭湯を利用する人が多く、湯冷めが怖かったのですが、家に風呂があれば心配はありません。ただし風呂は体力を落としてしまうリスクが。短時間かつぬるま湯での入浴なら問題ないが、長時間に熱いお湯につかって汗を出そうとするのは厳禁です」

健康情報をアップデートして、正しい選択をしよう。