食の知識はグローバル社会の必須教養であり、他国の食文化への敬意がビジネスエリートの武器となります。約4万人の人生を変えてきた人気テーブルマナー研究家・小倉朋子氏の著書『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』より、「世界のエリート層の食べ方とふるまいからにじみ出る教養」について解説していきます。

食べ方を変えると「やせる」「健康になる」……何も不思議ではありません

意識が変われば行動が変わるというのは、何も正式な食事の場に限った話ではありません。

「意識して会食でのマナーを守る」というだけでは実に表層的な行動変容、いってしまえば対処療法です。むしろ意識的に「普段の食べ方」から変わることが、どのような正式な場に出ても恥ずかしくない美しい食べ方につながると考えてください。

いくつか例を挙げてみましょう。

・食事の前には「いただきます」、食事の後には「ごちそうさま」と言っているか?

・お皿を移動させるときに、引きずらずに少しの距離でも持ち上げているか?

・お箸を正しく持っているか?

ごく日常的な食事で、こうした基本を守っていなくては、正式なマナーを身につけることもできません。極端なことをいえば、カップラーメンを美しく食べることも、宮中晩餐会でマナーを守ることも、通底している意識は同じといえるのです。

このように「食べ方」に意識が向くようになると、不思議と食事の量や質も変わっていくものです。おそらく食べ方を意識し、日々、丁寧に食べるようにすることで、必然的に、食べものと丁寧に向き合うようになるからでしょう。

たとえば、やむを得ずインスタント食品で食事を済ませるとしても、切るだけで食べられるトマトやキュウリを添えるなど、少しでも健康的な食事にする工夫ができるようになります。

私自身はインスタント食品の類を仕事以外ではほとんど口にしないのですが、教室の生徒さんたちには、現実にこうした変化が起こっています。

また、食べ方に意識を向けることは、早食いや過食の予防にもつながります。実際、太りやすい体質の生徒さんが、私の教室に通い始めてから自然と3〜4キロやせるというのは、よくあることです。1年で7キロも減量した生徒さんもいます。

このうれしい副産物は、「食べ方を意識する=丁寧に食べる=ゆっくり食べる=ちょうどよいところで満腹を感じ、満ち足りた気持ちになる」という変化が積み重なった結果でしょう。

ゆっくり食べることで、適量を食べた時点でちゃんと満腹中枢が刺激される。こういう生理学的な作用に加えて、丁寧な食事によって生まれる精神的な満足感が、食べすぎを防いでくれるという作用もあると考えられます。

衝動的な食行動も自然と抑えられる

食べものと丁寧に向き合っていると、「ちょっとたくさん作りすぎちゃったけど、全部食べてしまおう」といった衝動的な食行動も自然と抑えられます。「多かった分は、次の食事にとっておこう」という発想が働くようになるのです。

さらには、風邪を引きにくくなった、お通じがよくなった、頭痛が解消された、長年の持病が完治したなど、体調がよくなったという声も多く寄せられています。

ここまでくると、「それは本当に食べ方を変えたおかげ?」と疑問に思われるかもしれないのですが、みなさん、「ほかに何も変わったことはしていないのだから、きっとそうだ」と口をそろえるのです。

しかし、それは至極理に適った結果なのです。自分の体に入れるものと対話することで、自分の感度が磨かれ、精神的な充足感が、腸内環境や血流の流れを変え、体調改善につながるという一面があるのです。

自然と自己肯定感も上がる、その理由

食べ方を意識していると、表に見える所作が美しくなるだけではありません。この意識には、「食べる」という行為そのものの内実にも影響し、自分自身を大きく変える力があるのです。

すると、もっと大きな変化が起こります。自己肯定感が上がるのです。

今までは何となく済ませていた1日3回の食事と、毎度、丁寧に向き合う。これは、習慣的な惰性で食べるのではなく、毎度、五感で捉えながら納得して食べるということ。

言い方を変えれば、目の前にある食べものと向き合い、感謝し、そして「食べることで命をつないでいる自分自身」を丁寧に扱い、慈しむということです。

そう考えれば、自己肯定感が上がるというのもうなずけるのではないでしょうか。

そのなかで、先に述べたように、より健康的な食事にする工夫ができるようになる、早食い・過食が抑えられてやせる、といった目に見える変化が起こったら、それがまた自信につながるでしょう。

もちろん、正しいマナーを身につけ、所作が美しくなること自体、「どんな場に行っても怖くない、恥ずかしくない」という堂々たる自信を生んでくれます。

すべて、私の教室の多くの生徒さんに実際に起こっている変化です。こうしたさまざまな変化を目の当たりにするごとに、「食べること」は「生きること」であり、「食べ方を変えること」は、「生き方を変えること」なのだと改めて感じます。

株式会社トータルフード代表取締役

小倉 朋子

(※写真はイメージです/PIXTA)