自動車盗難の被害者が泣き寝入りせざるを得ないケースが多発しています。その厳罰化や防犯のための取り組みを求め議員が国会で質問に立ちました。組織化、凶悪化する自動車盗へ、被害者の思いに寄り添った対応につながるのでしょうか。

自動車窃盗の厳罰化求める声に「検察は厳正な科刑の実現に努めている」

(犯人検挙を)あきらめてくれと言われてショックだった。GPS情報を提供してもすぐには動けないと言われた。自分のクルマがヤードにあることがわかっても、警察には手が出せないと言われた――自動車盗難の被害者の声を受けて、参議院議員が国会で質問に立ちました。厳罰化を迫る議員に法務大臣や国家公安委員長の回答は。そして岸田首相の問題意識は?

自動車ユーザーの不満が高まっているとして、国民民主党の浜口 誠議員は、自動車窃盗の厳罰化をぜひ検討してほしいと、岸田首相も出席した2023年4月3日参議院決算委員会で迫りました。

斉藤 健法相は参議院決算委員会で、刑罰を重くできるかどうかの基準を次のように説明しました。

「実際の処罰の実状を踏まえ、法定刑を引き上げないと適切な科刑が実現できないような状況にあるのかどうか。悪質組織的な手口での自動車窃盗について、特に重く処罰すべき対応を過不足なく明確に定めることができるかが検討課題になる」

窃盗罪は刑法により10年以下懲役、または50万円以下の罰金ですが、さらに厳罰化するためには組織性、悪質性を定義することを検討しなければならない、という一般論を述べたものです。そして、斉藤氏は重い処罰の必要性は認めながらも、現状で罰則を重くする可能性を否定しました。窃盗の適切な立件が行われているので、厳罰化は不要という理由です。

「悪質な自動車窃盗に厳罰な処罰が必要なことは指摘のとおり。検察当局が悪質な事情を適切に主張、立証することで厳正な科刑の実現に努めている。引き続き適切に対処するものと承知している」

刑法には2個以上の罪を重ねた場合などに併合罪として加重で懲役15年が科される規定があります。組織的に常習窃盗を繰り返していれば1個の罪だけでは終わらないので「相応に重い処罰が可能」(斎藤氏)という認識です。

岸田首相はどう回答?

自動車ユーザーが被害にあわないためにはどうすればよいのでしょうか。浜口氏は盗難の情報公開が少ないと、谷 公一国家公安委員長に対して、「国民に意識を高めてもらうためには、もっと情報を出していくべき」と質問しました。

これに谷氏は大筋で同意しました。「自主的な防犯活動を促す観点から、防犯情報の提供を積極的に行うべきと考えている」。

警察庁のウェブサイトでは、盗難被害の多い上位5車種ほどを公開していますが、自動車窃盗の被害は乗用車に留まらず、ワゴン車やトラックなど商用車にも広がっています。浜口議員は公表の対象を20車種くらいに拡大すべきだと主張しました。

自動車盗難被害は年間約5700件あります。約33%は300万円以上の高額車両の被害です。他の重要犯罪と比較すると検挙率はかなり低く45.6%に留まります。浜口議員は「海外に輸出された盗難車の回復支援を含めた官民の幅広い取り組みがないと、これ以上被害は減らない」と警告しました。岸田文雄首相は、次のように答弁しました。

「より幅広い関係省庁が連携する必要性を感じる。連携のあり方についても考えながら、官民の一体の取り組みの必要性は感じる。どういう対策をとるべきなのか、政府として考えたい」

被害者の思いが形になった素早い対応が求められています。

2022年の車種別盗難台数はランドクルーザーがワースト1位。日本損害保険協会によるとプラド含め450台が盗まれた(画像:トヨタ)。