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KENSO『LIVE’92』(1993年) 清水義央によるセルフライナーノーツ

1991年秋、『夢の丘』リリース後は、プログレの殿堂・シルバーエレファントでのライブ、NHKの公開ライブ(誰が横流ししたのか、NHKのスタジオで個人的に撮影した映像がYouTubeにアップされている)、HATFIELD AND THE NORTHのメンバー2人を含むイギリスジャズロックバンド・IN CAHOOTSとのジョイントライブなどハイペースでライブや雑誌取材をこなし表面的には絶好調のKENSOであったが、私自身は疲弊し始めていた。

約3年という比較的短い期間に行なわれた村石、三枝、光田というメンバーチェンジによりバンドが加速し、それはアルバム『夢の丘』に結実したのであるが、とにかく数年間全力で走ってきたことによる私のエネルギー切れというのが原因の一つ。

そこに、私と他のメンバーとの演奏力の差に悩み始め、「こんなにすごいメンバーを率いていけるのか」と自問するようになっていたこと、更に『夢の丘』完成による目標喪失感が加わった。

自分には一旦休息が必要だと思い、1992年2月1日の大阪と2月29日の六本木ピットインでのライブが終わったら活動を休止することをメンバーに告げた。

メンバーからは「なぜこんなに勢いのあるバンドを活動中止するんですか!?」という反応もあった。
申し訳ない、いつも自分勝手で。

そんな活動休止前のピットインでのライブを収めたのがこの『LIVE’92』だ。

以前のライブアルバム『イン・コンサート』では私の民生用16トラックレコーダーを持ち込んで録音したが、『LIVE’92』では、ピットインの入っていたビルの上階にあったレコーディングスタジオとリンクしてのレコーディングとなった。

レコーディングエンジニアは『夢の丘』に大きく貢献してくれた福島浩和氏。

今回聴き直してみて「いや、これ本当に自分のバンドなんですか?」というくらいテンションの高い、怒涛の如き演奏をしていて驚かされる。やはりこの時の“夢の丘バンド”(と私は呼んでいる)はひとつの頂点だったのだと思う。

冒頭の小口曲メドレー「フォース・ライク」「月夜舟行」「時の意味」における小口&光田のアドリブパート、それを煽る三枝&村石のリズムセクション、、、、、はて、私はどこに?
このメドレーがこの時期のKENSOの一面をよく表している気がする。

でも私も「KENSOはこれで一旦終わり!」という覚悟のもと自分を奮い起こし、アレンジ面では次々にアイディアが湧いて来ていたのが分かるし、「POWER OF THE GLORY」のギターソロは自分でも気に入っている(三枝くんのベースソロもドライヴしていて素晴らしい!)。

光田曲「謎めいた森より」のドラマティックなライブアレンジ、「インスマウスの影」最終部分、村石雅行くんの切れ味鋭いドラミングを中心とした、それこそ脳の血管がブチ切れそうな白熱の演奏などなど、聴きどころは多いのではないだろうか。

この日のライブではKENSOの代表曲の一つ「空に光る」を演奏していないし、「美深」もメドレーの中の一曲としてアレンジを変えて割とサラッと演奏している。

ありえない、今だったら。「空に光る」や「美深」は聖域。

でも、きっとこの時《私には(KENSOには)『夢の丘』という自信作がある。もうライブで「空に光る」を演奏する必然性はなくなった》くらいに考えていたのかもしれない。

私が高校時代、表向きはバカにしつつ実は心を揺り動かされていた四畳半フォークの名曲に「若かったあの頃、何も怖くなかった」という歌詞があったが、、、、ちょっと待てよ、私はもう既に30歳を越えていたはず。まあ、色々な心情があったのでしょう。

『LIVE’92』は一時期、海外で音質粗悪な海賊盤が出回っていた。今回の配信では良い音質で、そして、ブックレットに書かれた「PLAY LOUD !!」で楽しんでいただきたい。




KENSOライヴ’92』(1993年
https://lnk.to/KENSO_LIVE92

■プレイリスト第1弾「KENSOの前にコレを聴け」
https://lnk.to/KENSO_Playlist1
■プレイリスト第2弾 「KENSOを聴け(初心者編)」
https://lnk.to/KENSO_Playlist2
■プレイリスト第3弾「KENSOを聴け(マニア編)」
https://lnk.to/KENSO_Playlist3

■プロフィール
清水義央 Yoshihisa Shimizu (Guitar)
小口健一 Kenichi Oguchi (Keyboards)
光田健一 Kenichi Mitsuda (Keyboards)
三枝俊治 Shunji Saegusa (Bass)
小森啓資 Keisuke Komori (Drums)

1974年、リーダーの清水義央を中心にKENSOを結成。バンド名は在籍校であった神奈川県相模原高校の略称“県相”に由来する。1980年自主制作盤1stアルバム『KENSO』をリリースし、1985年キングレコードNEXUSレーベルより3rdアルバム『KENSO(Ⅲ)』でメジャー・デビュー。以降、メンバーチェンジを経ながらも長きに亘って活動を継続。ロックをベースに、クラシックジャズ、民族音楽といった様々なジャンルの要素を採り入れた音楽性や高度な演奏テクニックによって国内外で多くの支持を集め、海外のロック・フェスティバル出演経験も持つ日本屈指のプログレッシヴ・ロック・バンド。
プログレを聴こう~KENSO探求紀行~Vol.7