日本食肉生産技術開発センター、輸出向け肉用牛の取扱改善研修会を開催

〈「輸出向け肉用牛取扱改善のためのマニュアル」や頭絡の説明を行う〉

日本食肉生産技術開発センターは3月29日東京都内で輸出向け肉用牛の取扱改善研修会を開催した。農水省による日本での牛肉輸出情勢の発表の後、同センターが作成した「アニマルウェルフェアに配慮した輸出向け肉用牛取扱改善のためのマニュアル」の説明と、富士平工業による頭絡の説明が行われた。

農水省畜産局食肉鶏卵課の伴光課長補佐は、研修会あいさつとともに「我が国の最近の牛肉輸出をめぐる情勢」について説明を行った。このうち、米国向け輸出食肉の取扱要綱について、「人道的な牛の取扱い及びとさつ」「けい留中の牛には給水し、24時間以上けい留する場合は給餌を行う」ことなどが記載されていると説明。

鼻環にロープを通して引っ張る行為は、同要綱の「とさつペン室へ牛を追い込む際の牛に与える刺激、苦痛などは最小限なものとすること」に反するとみなされていると注意を促した。2020年1~2月に米国農務省食品安全検査局(FSIS)が視察した際に、監査官から「認定施設の敷地内で鼻環にロープを通して引っ張ることはアニマルウェルフェアに反する。これは苦痛を最小限にしなければならないとする連邦規則に抵触する」と指摘を受けたという。伴課長補佐は、「この指摘はあくまで米国向け牛肉処理施設内での鼻環にロープを通して引っ張ることを控えてほしいという内容で、日本の伝統文化である鼻環を生産段階で使用することに関しては理解と尊重を示している」と述べた。

伴課長補佐の説明によると、FSISの指摘を受け、農水省厚労省が、輸出認定と畜場の担当者、生産者、自治体などの関係者を招集して「輸出向け牛肉取扱改善推進委員会」を2021年に設置。

「輸出向け牛肉取扱改善推進委員会」で、〈1〉装着・脱着が容易で脱落し難く、簡易・安価であり、鼻環と概ね同等の制御能を有する頭絡の開発〈2〉と畜場における安全かつ円滑な牛のけん引方法などの取扱に関するマニュアルの作成――について取組み「アニマルウェルフェアに配慮した輸出向け肉用牛取扱い改善マニュアル」を作成したという。またこれに合わせて、「畜産物輸出コンソーシアム推進対策事業」で、コンソーシアムが取り組む、生産農場や食肉処理施設における動物福祉対応としての牛への頭絡装着の普及・定着についても推進を行うとしている。さらに、血斑発生要因の分析と低減のため「食肉輸出の食肉処理技術等のマニュアル」を2021年にまとめ、2022年度の「対米輸出牛肉低減フォローアップ事業」(3年間:事業実施主体JAMTI)で、血斑低減対策を強化していることも紹介した。

伴課長補佐によると、今回作成した「アニマルウェルフェアに配慮した輸出向け肉用牛取扱い改善マニュアル」は完成形ではなく、現在畜産局で進めている生産段階におけるアニマルウェルフェアの指針また輸送の指針も今後完成するため、そのような指針も踏まえて、アップデートを進めるという。アニマルウェルフェアの世界的傾向をみると、日本の伝統文化とする対応への理解を得られるのが厳しい状況になる可能性があり、世界的な流れをみつつ、関係者の話を聞き、日本としての対応を検討したいとも付け加えた。

〈今後の輸出市場としてイスラム諸国に注目〉

また、伴課長補佐は、日本の食肉輸出状況や今後の取組みも説明した。食肉輸出のうち、牛肉輸出は輸出量と輸出額ともに大きな比重を近年占めつつあり、カンボジアへの輸出減少や米国での物価高・低関税枠超過後の関税引上げによる消費減退の影響で、2022年は輸出量7,847t(対前年比96%)、輸出額520億円(対前年比96%)となったという。カンボジア、台湾、香港などのアジア向けが約6割だが、近年は欧米向けへの輸出が増えており、ロイン系中心に輸出している米国が輸出額のトップだとしている。

そして、今後の輸出先としてはイスラム諸国に注目しており、ハラル牛肉(イスラム教において食べることが許されている牛肉)が輸出されているという。現状、アジアではマレーシアインドネシア、中東ではUAEカタールバーレーンサウジアラビアに輸出し、輸出額の伸長がさらに期待されるとしている。

輸出部位にも輸出先で差異があり、薄切り肉や鍋文化などの影響で、アジア向けには牛肉1頭をフルセットで輸出し、ステーキ文化のある欧米向けには主に高級部位のロインを輸出しているという。

また、牛肉輸出は日本の牛肉生産者全体にメリットがあると統計学的に判明しており、今後も情報の更新を行うとした。輸出戦略にあたっては、海外市場で求められるスペックの産品を専門・継続的に生産・販売するマーケットインの発想に基づき、輸出産地・事業者の育成や展開を行う。牛肉に関しては、生産から輸出まで各業者が連携し、一貫して輸出促進を図る「コンソーシアム」で支援し、中国への輸出再開などに取り組んでいる。対米・EU輸出認定施設は2020年では15施設、施設整備後申請予定は2カ所ある。5者協議活用や施設整備支援を行い、2025年には25施設に認定施設を増やすことを目指す。現在、オールジャパンでのプロモーションや、輸出産地となるコンソーシアムでの課題対応などを行っており、今後もオールジャパンの取組みとコンソーシアムの取組みを両輪として進め、関係者一丸となって輸出促進に向け活動すると説明した。

〈畜産日報2023年4月5日付〉

農水省畜産局食肉鶏卵課の伴光課長補佐