2012年に「ラブレイン」で俳優デビューして以来、クール&スイート、セクシー&キュート、ツンデレ…と、反転の魅力で女性ファンを翻弄し続けているソ・イングク。コメディからシリアスまで幅広いジャンルをこなし、常に新たな面を見せている彼が、「いつか演じてみたい!」と熱望していたのが“悪役”だ。

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そんな念願が叶って、映画『オオカミ狩り』(4月7日公開)で遂に初の悪役に挑戦。それもハンパな悪人ではなく、人殺しを何とも思わない極悪非道な第一級殺人犯という振り切った凶悪犯。ドロッとした空気をまとい、目が合ったら絡めとられそうな視線を送り、嬉々として相手の耳を噛みちぎる様は、私たちが知っている“ソ・イングク”とは全くの別人だ。ただ居るだけでぞっとする圧倒的なオーラを放つ稀代の悪役を演じ、自身も「手ごたえを感じた」と言うソ・イングクに、悪役を演じることについての想いや役作りのビハインドなどを大いに語ってもらった。

■「ジョンドゥが序盤から非常に強烈な姿を見せていたことにも魅かれました」

この作品は、「ジャンル映画のマスター」と呼ばれるキム・ホンソン監督が、「フィリピン犯罪者たちを韓国へ送還した」という実際の出来事から着想したフィクションで、大量の血しぶきが噴き出しまくる残虐すぎる暴力描写の為、韓国ではR18+に。「韓国映画史上、最も強烈なバイオレンス・サバイバル・アクション」と言われる本作は、日本でもR15+で公開される。

ストーリーの中心は、凶悪犯罪者たちをフィリピンから韓国・釜山へ護送する貨物船を舞台に、逃亡を企む囚人たちの反乱をきっかけに起こる血で血を洗う凶悪犯VS警察の生き残りバトル。そこに、ある組織の思惑によって船に運び込まれて眠らされていた“怪物”が目覚め、壮絶なバトルロワイヤルが展開される。タイトルの『オオカミ狩り』とは、この護送プロジェクトの名前である。

この犯罪者の反乱の首謀者・ジョンドゥがソ・イングクの役柄。13名に対する殺人、殺人教唆、強姦罪により国際手配中の超凶悪犯だ。この役は、いままで悪役の経験がない俳優へのオファーを想定していたとのことで、ソ・イングクに白羽の矢が立ったのだった。そして、このオファーを彼が受けた理由は、先述のように悪役を熱望していた他に、脚本の面白さが大きな要因になったようだ。「予測不能なストーリーで、台本を読み進めるうちに“後半どうなっていくんだろう…”と、どんどん気になりました。ジョンドゥが序盤から非常に強烈な姿を見せていたことにも魅かれましたね。キャラクターが壊れていく姿を正確に観客に見せられるとも思いました」と、“キャラクターが壊れていく”という表現を敢えて使って、出演動機を語った。

そして、「“ソ・イングクが出るなら、何かやるんだろうな”という期待感を持って作品を観てくださる方も多いと思いますが、それを壊すと言うか裏切ると言うか…。そんなところがまた面白そうだと思い、魅力に感じたんです」と、何やら意味深なコメントも飛び出した。

■役作りの為に16kg増量して肉体改造

このジョンドゥを演じるにあたり、彼はカラダを鍛え16kgも増量した。実は、撮影前の監督のジョンドゥ像は“痩せた男”だったんだとか。しかし、ソ・イングクは逆のイメージを考えていた。「僕としては、いままで痩せている悪役はさんざん見てきたし、観客も食傷気味なのでは?と思っていて…。ジョンドゥは若いのに囚人たちのリーダー的存在なんですよ。だから僕は、残忍さに加えてカリスマ性のある人物をイメージしたんです。それを表現するには、やはり体を鍛えて体重を増やした方がいいんじゃないかと思って監督に提案してみたら、喜んでくれて、僕のアイデアが採用になりました」と、「監督と、とことん話し合って役を作っていく過程が好き」と言う彼らしいビハインドを話してくれた。

今回、この肉体改造の他にも、周りの人間に畏怖の念を抱かせる大きなポイントが、顔以外ほぼ全身にくまなく入っているタトゥーだ。首にはヘビのウロコを思わせる模様がぎっしり入り、背中からお尻、太ももにかけても一瞬全身タイツなのかと思うほど隙間無くタトゥーが施されている。これは、描いたのではなく、あらかじめシール状になったモノを毎回貼ったのだとか。貼って剥がして…だけでも大変だが、それ以上に苦労があったそう。「シールの糊でアレルギー反応を起こして湿疹ができちゃったんです。撮影中はそんなことも忘れて役柄に没頭してるんですが、宿舎に帰ってシールをはがすと、蕁麻疹みたいになってて、それを塗り薬で抑えてたんです。撮影の時は楽しいけど、終わるとそんな苦痛がやってくるんで、天国と地獄を行ったり来たりしているような日々でした(笑)」と、苦笑しながら撮影を振り返った。

■自分と違うキャラとの出会いは、着たことのないファッションを試着したときめきに似ている

シーンには直接関係しないが、フィリピンの囚人の収監施設を検索し、どんな人が居るのか、環境、雰囲気なども調べて、役を膨らませる参考にしたそう。このように外見も内面も念願の悪役にどっぷり染まった彼に、演じきった感想を尋ねてみると「僕自身も知らなかった表情をしていて、”こんな表情が出来るんだ”と驚いたことがありました。”僕も、どん底の人生を表現できるんだな”と、気分が良かったです。とにかく撮影中楽しかったです。体を鍛えて増量してタトゥーだらけの姿を見て、”こんな感じも似合うなあ”と思ったりもしました。今回の経験を次にも生かして、また悪役を演ってみたいです」と、大きな手応えを感じていた。

それに関連して、自分に近い役と、かけ離れた役、どちらが演じやすいのかきいてみたところ、「演じやすいかどうかはわからないけど、自分とは違うキャラクターを演じると、新たな自分を発見できて楽しいですね」と答えが返ってきた。「例えば、久しぶりに気分を変えようと新しい服を買いに行った時、持ってない色やいままで一度も挑戦したことの無いスタイルの服を着ると、ちょっと気分がいいな、って感じる時があるじゃないですか。それと同じ感じです」とオシャレ好きな彼ならではの例えで説明してくれた。

■「肩の力を抜いてコンプレックスだと思っていた部分を表現できたのは今回が初めて」

今回のジョンドゥは、作品を観たファンから、残忍なキャラはともかく「グク史上最高にセクシー!」と撃沈コメントが溢れるほど大評判。そんなファンからのコメントで、ソ・イングクが一番うれしかったのは、「目がイッちゃってる」だそう。この言葉を聞いた時、満ち足りた気持ちになったんだとか。「例えば、麻薬について話してる時にイッちゃった目をしてるのは当然じゃないですか。でもそうじゃなくて、人を破壊するような目だ、という意味で言ってもらえて、”僕は、このジョンドゥというキャラクターを上手く表現できてるんだ”と思えたんです」と、この嬉しい誉め言葉を噛みしめていた。

いまでは彼のチャームポイントとなっている三白眼は、子どものころや俳優を始めるまではコンプレックスだったんだそう。「年上の人には好かれないし、よく言いがかりもつけられた」と…。しかし、俳優になってからは、「その目が好き」と言われるようになり、三白眼を生かした微妙な表情を作れることもあり、コンプレックスが武器に変わった。「なかでも、こんなに肩の力を抜いてコンプレックスだと思っていた部分を表現できたのは今回が初めてで、すごく気分が良かったし、不思議な感じもしたし、うれしかったですね」と、ジョンドゥを通して”武器”の使い方をさらにマスターしたようだ。

■「3年間ずっと待っててくださって、胸がいっぱいになりました」

昨年は、コロナ禍で日本での活動ができなかった3年間を埋めるように、ファンミーティングやイベントで何度も来日し、待ち続けていたファンを喜ばせた。今年も年明け早々にコンサートを開催。そして、この『オオカミ狩り』での大胆なイメージチェンジで日本のファンを驚かせることとなる。

「日本のファンの皆さんにはいつも感謝しています。3年間ずっと待っててくださって、皆さんにお会いしながら、本当にありがたくて胸がいっぱいになりました。今回は映画で僕の姿を見ていただけるのが本当にうれしいです。残忍な描写も多いので、観るのがツラい方もいるかもしれませんが、『パイプライン』(22)以来の映画出演なので、どうか心から楽しんで観ていただければ…と思います」と、メッセージ。最後に「また日本に来てくださいね」と言うと、「はい!ゼヒ!」と、とびきりの”グクスマイル”で答えてくれた。

取材・文/鳥居美保

念願の悪役に初挑戦したソ・イングク/撮影/Kim TaeKoo (C)LADSTUDIO KIMTAEKOO