代替テキスト
(写真:PIXTA)

日本人の2人に1人がなるがん。死亡率は下がってきているものの、実は「死にやすい県」と「死ににくい県」があるという。がんで死なないためにはどうすればいいのか、それぞれの県の傾向から分析してみた。

3月28日に政府が閣議決定した国のがん対策の指針となる「第4期がん対策推進基本計画」。そこには、「予防」「医療」とともに重要課題として「がんとの共生」が盛り込まれている。

日本人の2人に1人がかかるがんだが、共に生きる時代が近づいているようだ。国立がん研究センターの松田智大がん対策研究所部長が語る。

’21年の男女合わせた75歳未満のがん死亡率は10万人あたり67・4人。’11年では83・1人ですから15以上も減少しています。胃がんや肝臓がんの患者数が激減していること、さらには体への負担が少ない内視鏡手術の増加、新しい薬が出たことが好影響。さらにほかの病気がなく基礎体力のある元気な中高年、高齢者が増えたことも、がんの死亡率を下げた要因です」

だからといって、“がんで死なない”と油断はできない。

「がんの死亡率は低下してきてはいますが、依然として各都道府県の間で顕著な差があるのです」

■がんが見つかっても受診しない青森県

まずは、〈全部位〉死亡率(女性)の都道府県ランキングを見てほしい。

がんで女性がもっとも“死なない県”である滋賀県徳島県と、がんでもっとも“死ぬ県”である青森県では死亡率に20以上の開きがあるのだ。なぜ滋賀県はがんで死ににくいのか。

滋賀県の女性は喫煙率が全国で2番目に低く、1日の塩分摂取率でもトップレベルの低さ。がんの罹患率自体も全国で2番目に低いこともあって全体の死亡率が抑えられているのでしょう。

また、がん検診の受診率は全国平均レベルですが、検診で異常を指摘された場合に精密検査を受けている人が多い可能性があります」(松田先生)

滋賀県では名物のふなずしをはじめ漬け物など発酵食品が食卓に並ぶという。発酵食品が腸内環境を整えることで、がん細胞を退治する免疫作用が高まっているのかもしれない。

また、滋賀に次いで女性ががんで死ににくい徳島県だが、じつは日々の健康度が高いとはいえないという。県の担当者が語る。

「甘辛い味つけを好んで、移動手段を車に頼っている徳島県民は、もともと糖尿病死亡率が全国的にも高い県です」

にもかかわらず、がんでは死ににくい理由は? 担当者が続ける。

徳島県は病院数が人口あたりで全国平均よりも多く、近所にかかりつけ医がいるのが当たり前。気軽に相談でき、必要に応じて拠点病院などにつなげてくれることが関係しているかもしれません」

一方、女性ががんでもっとも亡くなりやすい県となったのは青森県。全部位の合計だけでなく、大腸がん、胃がん、乳がんでももっとも悪かった。

青森市の主婦、鈴木貴子さん(52歳・仮名)が語る。

「嫁いだ先は、家族みんなが焼き魚にしょうゆをドボドボかけてから食べる家。生野菜を取ってもらおうとサラダを作ったときに“ワはベコでね(私は牛じゃない)”と言っていた義母は、がん検診を勧めても『雪が降っているから行きたくない』と。

病院に行ったとしても“お医者様”と必要以上にあがめて、ちょっとした不調も隠してしまう。大腸がんが見つかったときはすでに手遅れでした」

青森県民は“病院が苦手”な人が多いことも死亡率を高めている可能性がある。松田先生が語る。

「喫煙率や肥満率も高く、食塩摂取量も多い青森県ですが、がん検診の受診率は全国平均以上の数値で、がん専門医療機関へのアクセスも他県と比べて悪い状況ではありません。

ただ、県民の自己評価では“病院嫌い”が多いようで、がん発見後もなかなか通院しないことが死亡率を高めている可能性があります」

■乳がんの死亡率が高い奈良県

このような死亡率の差は部位別にも存在する。女性の死亡者数がもっとも多く、生活習慣が深く関わっている大腸がん。もっとも死亡率の高い青森県にくらべ死亡率が半分以下だったのが高知県だ。

「高知は飲酒量の多いイメージがありますが、実は女性の飲酒量は全国平均よりも低く、生活習慣病も少ないです。

芯が強くしっかりした高知の女性は“はちきん”と呼ばれ、共働きが多く家を守る意識も高い。早期に発見して治療すれば生存率の高い大腸がんに対しても、毅然と“はちきん”精神で前向きに臨んでいるのでは」(高知県がん担当者)

喫煙がリスクを高める肺がんで死亡率がもっとも高かったのは北海道。道の担当者が語る。

北海道では女性の喫煙率が14.8%で、肺がんの罹患率と合わせて全国ワースト1位。広大で自由な風土の中で、女性の行動も自由な傾向にあるため喫煙率が高いとも言われていますが……。

受動喫煙対策とともに、女性の禁煙支援やたばこの健康影響など啓発に取り組んでいきます」

また、2年に1度のがん検診が推奨されている乳がんの死亡率が低い鳥取県。しかし、’19年の乳がん罹患率は全国ワースト8位だ。

鳥取県の女性の乳がんの検診受診率は’19年で43.7%と全国平均よりも少し低いのですが、検診結果で、精密検査となった際の受診率が94〜95%と、全国平均(85.1%)よりも高いのが特徴。

診断されるのが怖いからと放置することなく、詳しい検査をして積極的に治療に当たっていることが死亡率の減少につながったのではないでしょうか」(県担当者)

一方、乳がんの罹患率では鳥取県よりも低かった奈良県死亡率ではワースト2位になっているのはなぜだろう。

死亡率が高い要因にはたどり着けていませんが、奈良県は共働き世帯の割合が低く、全国でもっとも専業主婦が多い。企業のがん検診を受けていないことが影響しているのかもしれません」(県担当者)

これらの都道府県の差から見えてくるのは、健康的な生活にくわえて、がん検診に行き、精密検査となったら早めに受診すること、そして万が一にもがんが見つかった場合はきちんと通院することが、がんによる死亡率を下げるのにつながるということだ。

最後に松田先生が語る。

「がんの死亡率を下げるには、がんを早期に発見して、迅速かつ適正な治療へとつながる仕組みが重要。ランキングを見て一喜一憂するのではなく、がんで亡くなりやすい地域とそうでない地域を比べて、がん予防のヒントを見つけることが大切なのです」