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 かつての野菜や果物が品種改良を重ねられ、おいしく変化していったように、食肉の未来も変化しつつある。それは環境や動物に配慮するといった現代特有の事情によるものだが、やはりおいしくなければ需要は見込めない。

 動物の細胞を培養して作る「培養肉」の研究開発が進められているが、より本物のお肉に近づけるためには脂肪分が必要だ。

 アメリカの研究チームは、動物から採取した細胞から脂肪を培養することに成功したそうだ。これを培養肉に混ぜることで、よりリアルな風味と食感が味わえるようになるという。

 これまで高級霜降り肉のようなサシの入ったお肉を培養することは難しかったが、今後はこの技術を使うことで、脂肪の香ばしさと風味を培養肉で再現できるようになるかもしれないとのことだ。

【画像】 培養肉に脂肪分を入れるのが難しい理由

 培養肉が、いくら倫理的で衛生的で環境にいいと言われても、やはり美味しくなければ需要は上がらないだろう。。

 培養肉の技術は今やマンモスの肉を復活させられるほどだが、今のところ培養できるお肉はステーキというよりチキンナゲットに近い。

 筋繊維・結合組織、そして何より脂肪のハーモニーが生み出すお肉の食感や風味がないのだ。

 じつは培養肉で適度に脂肪分が入った霜降り肉を作ることは難しい。というのも、脂肪が増えると、培養肉内の細胞が死んでしまうからだ。

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 生きている動物の体には血管が縦横無尽に張り巡らされており、これが組織の奥深くまで酸素や栄養を送り届けている。だから、脂肪が増えても特に問題はない。

 だが今の技術では、培養肉の内部にこのような血管を再現できない。だから、脂肪が増えすぎると、奥の細胞には栄養や酸素が送られず、壊死してしまうのだ。

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photo by Pixabay

培養脂肪の作成に成功、培養肉に混ぜておいしさアップ

 この培養肉の欠点を克服するために、米タフツ大学のの研究チームが考案したのは、脂肪細胞を別個に培養してやるというアイデアだ。

 その実験では、まずマウスとブタから採取した脂肪細胞をペラペラの薄い層に培養。

 こうした増やした脂肪細胞を集めて、食品用の”接着剤”(アルギン酸塩と微生物由来トランスグルタミナーゼ)で固めた。

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 完成した脂肪細胞は、ぱっと見は普通の脂肪組織に見えたという。だが、問題は味だ。それは本当に香ばしいお肉のテイストを再現できるものなのだろうか?

 そこでまず培養脂肪細胞の食感を試してみることにした。ここに圧力をくわえて、本物の動物脂肪と比較してみるのだ。

 その結果、アルギン酸塩でくっつけた培養脂肪細胞は、普通の家畜や鶏肉の脂肪と同じような耐圧性があったという。一方、トランスグルタミナーゼでくっつけたものは、もっとラードに近い食感だったそうだ。

 つまり、”接着剤”の種類や量をうまく工夫することで、培養脂肪の食感を本物のお肉のように仕上げられるだろうということだ。

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培養脂肪に開発に至った背景とその作り方 / image credit:eLife (2023)。DOI: 10.7554/eLife.82120

培養脂肪を含んだ培養肉のお味は?

 肝心のお味はどうなったのだろう?

 こんがり焼き上げたお肉の香ばしくジューシーな味わいは、そこから放出される数百種類の化合物によるものだが、そのほとんどは脂肪からのものだ。

 そこで培養脂肪細胞の作りを分子レベルで分析したところ、ブタから培養された脂肪細胞については、本物にかなり近いことがわかったという。

 こうしたことから、培養肉にやはり培養した脂肪を足してやれば、本物の味わいがよりリアルに再現されたお肉に仕上がるだろうとのことだ。

 この研究は、『eLife』(2023年4月4日付)に掲載された。

References:Lab-grown fat could give cultured meat real flavor and texture / Lab-grown fat promises flavor boost for cultivated meat / written by hiroching / edited by / parumo

 
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培養肉に本物の風味と食感を与えてくれる「培養脂肪」の開発に成功