山本翼氏の著書『電車で学ぶ英会話』より一部を抜粋・再編集し、日本人の英語力について考えていきます。

現在の日本の語学の立ち位置

平成から令和の世の中に変わり、産官学いずれのフィールドにおいてもグローバル化の波はより急速に進んでおり、最早モノリンガルでは生き残れないという時代になってきています。

企業の採用時における語学力についても求められるレベルが上がっており、企業や大学が持つ危機感を容易に感じ取ることができるのは言うまでもありません。

ですが、数字を見ても、日本の語学力のレベルは10年前と比較してもそう伸びていないのが実情です。これは、TOEICTOEFLを主催するアメリカのEducational Testing Service(ETS)の統計が証明しています。

ETSのデータによれば、2010年に行われたTOEFLの国別ランキングで、日本は世界163ヵ国中135位、アジア30ヵ国中27位と語学学習の面で未だに諸外国から遅れを取っている状況です。

さらに近年の2017年のデータを見ると、世界170ヵ国中146位、アジア29ヵ国中26位、OECD加盟国36ヵ国中ダントツの最下位、スピーキングセクションに至っては170ヵ国中最下位という厳しい結果になってしまいました。

さらに外国語のスキルの弱さは国際的な競争力の衰退にも間接的につながっていて、スイスのIMD(International Institute for Management Development)が行った2019年の世界競争力年鑑のランキングにおいても、日本の順位は30位と前年2018年の25位から大幅にランクダウンしているのです(2020年では34位)。

また、フランスのLes Echos(レゼコー)や英国のFinancial Times(フィナンシャルタイムズ)などの海外の経済紙が指摘しているように、東京が金融のハブになり切れない理由として、英語が他国と比べて通じにくいということを挙げています。

ただ、本腰を入れて語学力の向上に取り組んでいる企業や大学は年々増加しており、学習面や経済面でのサポートも徐々に手厚くなってきています。

企業の場合、多くの上場企業が全社員にTOEIC受験を義務づけたり、楽天やファーストリテイリングが社内公用語に英語を導入したりするなど、国際化に対応するための対策をどんどん取り入れているのは有名です。

この他にも通信教育での英会話学習やeラーニングネイティブスピーカーの先生による出張授業、資格取得に対する奨励金の支給や語学手当など様々なやり方で社員の語学力の底上げが行われているようです。

「面白い取り組み」を行っている企業

中には面白い取り組みを行っている企業もあります。

大学院時代に会社説明会に参加したことのある矢崎総業は、内定者の中から希望者に対し1年間「アドベンチャースクール」という海外武者修行制度を実施していて、語学力だけでなく現地の異文化理解や人間力、想像力などを鍛えて海外でもたくましくやり取りできる人材を育てているのは画期的なことだと感じます。

また大学では、秋田の国際教養大学早稲田大学の国際教養学部などが英語による授業を展開し、1年間の海外留学を必須とするといった海外での経験や語学に多く触れる機会を設けて国際社会で戦える人材を育てるという、海外の大学で行っているようなカリキュラムを実践するところが出てきました。

他にも明治大学法政大学近畿大学京都産業大学などの有名大学でも国際関係の学部が新設されており、学生の外国語習得による社会人としての基礎力アップが一つのトレンドになりつつあります。

この趨勢は、何も社会人や高等教育の分野に限ったことではありません。中等教育、さらには初等教育の面でも外国語能力向上に対しての取り組みは着実に進んでいます。

ですが、聞く・話すのオーラル面も含めた総合的な力は、短期的なスパンで一気には上がりません。国家レベルでの語学力の底上げについては、まだまだ時間を要しそうです。

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山本 翼

2001年 大阪工業大学工学部 卒業

2006年 英国キングストン大学大学院 人文社会科学部 国際紛争コース 修了

高松琴平電気鉄道で車掌として勤務した経験を持つ他、教職課程を経て小学校や特別支援学校での教員経験も併せ持つ。

(※写真はイメージです/PIXTA)