「老後2,000万円問題」などで、老後のお金の問題がクローズアップされています。最も避けたいのは、老後に生活していけなくなることです。特に、公的年金の受給額が少ないと、文字通り死活問題となります。実は、わが国には公的年金の受給額が少ない人のためのセーフティネットの制度が用意されています。そのなかで、比較的新しい制度である「老齢年金生活者支援給付金」について解説します。

年金生活者支援給付金とは

年金生活に入ると、働き盛りの頃と比べて収入が限られるうえ、年齢が上がれば上がるほど体も思うように動かなくなります。そうなった場合に、お金が足りなくなってしまうと、目も当てられません。

もちろん、わが国では憲法で生存権が保障されているので、最終手段として生活保護の制度があります。しかし、そこへいく前に、あまり知られていませんが、公的年金制度の枠内で、足りない分をある程度カバーしてもらえる制度があります。

それが、「年金生活者支援給付金」です。

年金生活者支援給付金は、年金生活者のなかでも公的年金をはじめとする所得金額が低い人を対象として、公的年金に上乗せして支給してもらえるお金です。

2019年10月から、所得が一定基準を下回る公的年金の受給者をサポートするために給付されています。消費税の税率が10%に引き上げられた分を財源としています。

65歳以上の基礎年金受給者の方を対象とする「老齢年金生活者支援給付金」、障害基礎年金の受給者を対象とする「障害年金生活者支援給付金」、遺族基礎年金の受給者を対象とする「遺族年金生活者支援給付金」の3種類があります。

これらのうち、老後に関係するのは主に「老齢年金生活者支援給付金」です。本記事では、これに重点を置いて解説します。

受給要件

老齢年金生活者支援給付金の受給要件は以下の通りです。

【老齢年金生活者支援給付金の受給要件】

・65歳以上の老齢基礎年金受給者

・同一世帯の全員が市町村民税非課税

・前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計が78万1,200円以下

 ※78万1,200円超~88万1,200円以下の場合は「補足的老齢年金生活者支援給付金」の対象

78万1,200円は、月額に直すと65,100円です。したがって、前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計が65,100円以下であれば、受給対象ということになります。

以下、重要なポイントについて解説を加えます。

◆繰り上げ受給、66歳以降の遡及受給に注意

まず、65歳以上の老齢基礎年金受給者でなければならないので、65歳より前に繰り上げ受給をする場合は65歳になるまで年金生活者支援給付金を受給できません。

また、66歳以降に65歳時点に遡って老齢基礎年金を一括請求した場合は、その分については年金生活者支援給付金を受給できません。

◆非課税所得は除外

所得額を計算する際、非課税所得は除外されます。

たとえば、障害年金、遺族年金のほか、損害賠償金、医療保険の保険金等は除外されます。

◆公的年金等の合計が78万1,200円を超えたら「補足的老齢年金生活者支援給付金」を受け取れることも

前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計が78万1,200円超だったとしても、88万1,200円以下であれば「補足的老齢年金生活者支援給付金」を受け取れます。

これは、そのゾーンの人の所得が「老齢年金生活者支援給付金」を受け取った人に逆転されてしまうのを防ぐためです。

受給金額

◆受給額の算定方法

老齢年金生活者支援給付金の受給金額は、月額5,140円を基準とし、保険料納付済期間等に応じて算出されます。

保険料を納付した期間に対応する分と、保険料免除を受けた期間に対応する分とに分けて、それぞれ以下の計算式を用います。

【老齢年金生活者支援給付金の受給金額の計算式】

・保険料を納付した期間の分=5,140円×保険料納付済期間÷480ヵ月

・保険料免除を受けていた期間の分=11,041円×保険料免除期間÷480ヵ月

ここで、保険料を納付した期間よりも、保険料の免除を受けていた期間の分のほうが、基準額が11,041円と2倍近くになっていることを疑問に思った人がいるかもしれません。これには理由があります。

保険料免除を受けた場合には前提となる基礎年金の額が低くなる分、生活の困窮の度合いが大きいからです。

◆補足的老齢年金生活者支援給付金の算定方法

補足的老齢年金生活者支援給付金の算定方法は以下の通りです。

(保険料納付期間÷480ヵ月)×{(88万1,200円-前年の年金等・所得の合計額)÷10万円)}

◆保険料の支払いが苦しくなったら「免除」の手続きを!

ちなみに、「保険料の免除」の手続きをせずに保険料を支払わなかった場合には、老齢年金生活者支援給付金自体を受け取ることができません。

また、そもそも、保険料の免除を受けてさえいれば、その期間については基礎年金を半分受け取ることができますが、不払いの場合は1円も受け取れません。

したがって、生活が苦しいなどの理由で保険料の支払いが困難になった場合には、速やかに、保険料の免除の手続きをとるべきだということです。

【図表】は、上記計算式を用いて算出した67歳以下の方の受給額の早見表です。

これを見ると、保険料の免除を受けずに支払わないことがいかに不利益か、よくわかります。

特に、「保険料納付期間240ヵ月・保険料免除期間240ヵ月」と「保険料納付期間360ヵ月・保険料免除期間0ヵ月」の場合を比べると、後者の方が、保険料納付額の総額が大きいにもかかわらず、トータルでの受給額が少なくなってしまいます。

受給の手続き

老齢年金生活者支援給付金の対象者かどうかは、毎年、前年度の所得に関する情報を基に判断されます。そして、対象者には9月頃に「年金生活者支援給付金請求書」が送付されます。

この請求書に必要事項を記入し、返送するだけで手続きは完了します。

その後、10月分(12月に支払い)から受給できます。

対象者かどうかの判定は毎年行われますが、一度受給を開始すれば、以後は、要件をみたす限り手続きなしで受給し続けることができます。

請求書が送付されてきたら、忘れずに手続きすることが大切です。

(※写真はイメージです/PIXTA)