鍛え上げた肉体とスキンヘッド、射るような眼差し…圧倒的な存在感で人気の個性派俳優デイヴ・バウティスタの最新作『ノック 終末の訪問者』が現在公開中だ。アクション系を中心にマッチョなルックで活躍しているバウティスタが、今作で演じるのはなんと学校教師!想定外のキャラクターだが、違和感を感じさせないその演技にきっと驚かされるだろう。これまでにない演技で新たな境地を見せつけた彼の波乱のキャリアを振り返ってみたい。

【写真を見る】シャマラン最新作『ノック 終末の訪問者』で謎の男を演じるデイヴ・バウティスタに注目!

プロレスラーとしてトップに上り詰めた後、映画界へ

フィリピン人の父とギリシャ人の母を持つバウティスタは、1969年バージニア生まれ。ボディビルダーに憧れ10代の頃からウエイトリフティングに没頭し、鋼のような肉体を手に入れた。高校を中退しクラブの用心棒で生計を立てていたバウティスタは、その日暮らしの生活から逃れるため20代後半でプロレス界へ。30歳でメジャー団体WWEに入団、遅咲きながら6度のヘビー級王者に輝く人気レスラーに成長した。

そんなバウティスタ(レスラー時代の名前はバティスタ)が映画界に進出しはじめたのは2010年のこと。きっかけはレスラー仲間ロブ・ヴァン・ダム主演の『奪還』(10)への出演で、格闘、ナイフ銃撃戦とひととおりの見せ場はあったが、いかにもカメオな役柄だった。しかしこの経験を機にバウティスタは演技に開眼。俳優を目指すことを決意した。

この時期は、同じくWWE出身のロック様ことドウェイン・ジョンソンハリウッドの人気者として定着し、バウティスタと対戦経験もあるジョン・シナも俳優として着実にキャリアを重ねていた。映画界も王座を手にしたバウティスタに注目したが、彼はレスラー時代の人気に頼らずキャリアをスタート。脚本を吟味しながら、体格だけを活かした主人公より個性のある脇役を選んで出演した。おかげで一時は家を抵当に入れることになったそうで、そのチャレンジ精神には頭が下がる。

彼が最初に注目されたのが、ラッセルクロウルーシー・リューと共演したRZA監督・主演のカンフーアクション『アイアンフィスト』(12)だ。クエンティン・タランティーノイーライ・ロスがバックアップした本作で、バウティスタは体を金属に変える殺し屋ブラス・ボディを熱演。クライマックスでRZAとパワー勝負のド派手なバトルを繰り広げたほか、子どもたちと戯れる愛嬌ある一面ものぞかせた。続いてヴィン・ディーゼル主演の人気シリーズ第3弾『リディック ギャラクシー・バトル』(13)でも存在感を発揮。ここで演じた傭兵部隊のディアスは、口数は少ないがユーモアを持ち合わせた武骨な兵士。体はごついが「いかにもプロレス出身者」というイメージを払拭する柔軟性を見せつけた。短髪やスキンヘッドがトレードマークのバウティスタだが、編み込んだ髪や長い髭をたくわえた姿が見られるのも本作のお楽しみだ。

そして世界にその名を広めた記念すべき作品が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14)。彼が演じたドラックスは、殺された妻子の復讐を誓った野獣のような荒くれ者。何があろうと我が道を突き進む無双系のオレ様キャラだが、時おり見せるお茶目さや仲間思いの熱血ぶりで世界中を魅了した。バウティスタ本人は喪失感を抱えた愛情深い父であり夫としてドラックスを演じたという。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのほかMCUの「アベンジャーズ」シリーズや『ソー:ラブ&サンダー』(22)でもドラックスは大活躍し、バウティスタの当たり役として定着した。

■大作に引っ張りだこ!快進撃はまだまだ続く

その快進撃がスタートしたのは2010年代半ば。『007 スペクター』(15)ではボンドを狙う犯罪組織の怪力男ヒンクス役。ロジャームーア時代のボンドの宿敵ジョーズを思わせる殺し屋だが、知的でリアルなキャラクター造形はダニエル・クレイグ版にぴったり。高級スーツに身を包んだジェントルな姿も映えていた。『ブレードランナー 2049』(17)で演じたのは、映画の冒頭で主人公を襲うレプリカントのサッパー。同じくドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『DUNE/デューン 砂の惑星(21)では邪悪な策士ハルコンネン男爵の甥の兵士ラッバーンを演じ、その獣性で観客を圧倒した。シルヴェスター・スタローン主演の脱出アクション『大脱出2』(18)、『大脱出3』(19)ではスタローン演じる主人公ブレスリンの友人デローサ役。派手なアクションは控えめで、ここいちばんで頼りになるベテランの仕事屋を渋く演じて存在感を見せつけた。いずれ「エクスペンダブルズ」シリーズにも参戦してほしいと切に願う。

フィリピンの格闘技カリの経験もあるバウティスタは、ジャン=クロード・ヴァン・ダムの出世作のリブート『キックボクサー リジェネレーション』(15)でムエタイの王者をクールに熱演。『ブッシュウィック -武装都市-』(17)では女子大学生と共に廃墟と化した街を放浪する兵士、『イップ・マン外伝 マスターZ』(18)では猪突猛進型の格闘家、ザック・スナイダー監督の『アーミー・オブ・ザ・デッド(21)ではゾンビで埋め尽くされたラスベガスに潜入する傭兵と、その役柄はファイターが多くを占めている。そんなバウティスタは意外にコメディ映画でも活躍している。

『STUBER/ストゥーバー』(19)で演じたのはUberタクシーを使って犯人を追うロス市警の豪腕刑事ヴィック。視力低下に悩むヴィックと平凡な青年が二人三脚で事件に挑む正統派バディもので、コワモテだけど根はいい人というバウティスタらしさが活きている。やり過ぎ系CIAエージェントのJJと少女ソフィーの絆を描いたのは『マイ・スパイ』(20)。監視対象である9歳の少女に振り回される大男という設定はよくあるが、安易にドタバタ劇に走らずドラマで見せる展開も心地よく、続編も決定している。純コメディ作ではないが、ダニエル・クレイグ主演のシリーズ第2弾『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』(22)では「おっぱい」を連発するオタク気質のYouTuberデューク・コーディを演じ演技の幅を広げている。アクションスターがコメディに挑む図式はスタローンアーノルド・シュワルツェネッガーほか多くの前例があるが、作品の質という面で先人たちを上回っているバウティスタ。その作品チョイスも彼の人気の秘訣なのだろう。

そして今作の『ノック 終末の訪問者』でバウティスタが演じたレナードは、先に触れたように学校教師。筋骨たくましい体つき、半袖のワイシャツからタトゥーだらけの腕がのぞくいかつい系の大男だが、やわらかい物腰やいつくしむような眼差しは優しい先生そのものだ。彼と仲間たちがある目的のため、平穏に暮らす家族に“ある試練”を強いに行くという不条理な役柄ながら、「俺のようなタイプには滅多に回ってこない役」と語るバウティスタは説得力ある演技を披露。ミステリアスなレナードの心の闇の部分を含め、そのキャラクターにぐいぐいと引き込まれていくだろう。

3部作の最後を飾る『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(23)、サッパー・モートンの大暴れに期待の『Dune: Part Two』(23)と注目作が控えているバウティスタ。これが最後のドラックスと明言しているバウティスタが、盟友ジェームズ・ガンのDCユニバースに参戦するのかも気になるところ。今後の彼の動向からますます目が離せない!

文/神武団四郎

シャマラン流“黙示録”『ノック 終末の訪問者』では世界の救済という使命を負った男を演じる/[c]2023 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.