ワールドベースボールクラシックWBC)で世界一となり、指揮官栗山英樹のマネジメントが注目を浴びている。

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 大谷翔平の起用法をはじめ、ヌートバーら「化学反応」を生んだメンバー選出、選手との距離……そのすべてがチームの力となった。

 そんな栗山にとって監督キャリアを歩む上で大きな転機となったシーズンが「1年目」だ。

 いきなり優勝を果たしたあと、のちに球界を代表する選手になる若手にかけた「三つの志」があった。

 それこそが今大会でも発揮された、栗山の信念でもある。その内容とは――?

 本稿は発売から多くの反響を呼び、今なお重版を続ける栗山英樹の著書『稚心を去る~一流とそれ以外の差はどこにあるのか~』を再編集している。ぜひ本書もご覧いただきたい。

監督1年目、何もわからなかった

 1年目は何もわからないまま、ただがむしゃらにやって、チームのみんなに勝たせてもらった優勝だった。

 当時、ヘッドコーチだった福良淳一さんは本当に野球を知り尽くした人で、「うちは栗山みたいのを監督にするチームなんだから、とにかく監督のやりたいようにやらせてあげようよ」と考えてくれた。

 まだ右も左もわからない、まるでピカピカの小学1年生のような監督を、福良さんがいつもそばで支えてくれた。

 あのとき、もし誰かに「監督の仕事はこういうものですよ」と教えられていたら、自分ではどこか違うと思っていても、そういうものだと思い込んでいた可能性はある。

 それくらい何もわかっていなかった。

 それでも本当に好き勝手やらせてくれたから、いまの自分がいる。これは「周りのおかげ」以外の何物でもない。

 その後、バファローズの監督になられた福良さんに、ある日、こんなことを言われた。

「僕、監督を見ていて学んだこともあったんですよ。こんなに強気にいろんなことができる人もいるんだなって」

 その言葉には、苦笑いするしかなかった。

 何もわからないというのは恐ろしいもので、あの頃は「超」の付く「怖いもの知らず」だったのだと思う。

「怖い」ということが何なのかすらわからない。

 だから野球をよく知っている人が見たらゾッとするようなやり方ができてしまう。それを周囲に悟られないよう、福良さんは裏でこっそり何から何までフォローしてくれた。それでいきなり優勝させてもらったのだから、こんなに幸運な男がいるだろうか。

 時を経て「怖がっている」自分がいた。

 経験を重ねてきたことによって、勝たなきゃいけないという意識が強くなり過ぎ、知らず知らずのうちに気持ちが守りに入っているのかもしれない。

 2018年、厚澤和幸ベンチコーチに「こんなことして大丈夫かな?」と何の気なしに尋ねたことがある。普通に考えたらあり得ない作戦だったからだ。

 そしたら、「監督、いままでご自分がどれだけ無茶なことをしてきたかわかります?」と笑われた。「それに比べれば、それくらいじゃ誰も何も思わないですよ」って。

 たしかに最近、ちょっと大人しくなりすぎかな、と思うことはある。まぁ、それでもほかの人に比べたら、相当めちゃくちゃなことはやっているけれど。

 それにしても1年目、もしあそこで優勝できず、Bクラスに終わっていたら、それこそ何もわからないまま辞めていたはずだ。早いうちに結果が出たことによって、落ち着いていろんなことを見せてもらえたのはとても大きかった気がする。

 あの年は、リーグ優勝の勢いそのままに、ホークスとのクライマックスシリーズを3連勝(優勝のアドバンテージを加え、4勝0敗)で突破し、ジャイアンツとの日本シリーズに挑んだ。結果は2勝4敗で敗れ、日本一とはならなかった。

 余談だが、あの日本シリーズの第1戦、東京ドーム始球式を行ったのが、リトルリーグの世界選手権で優勝した東京北砂(きたすな)リーグ清宮幸太郎だった。その5年後、ファイターズでチームメイトとなるのだから、やはり縁とは不思議なものだ。

 さて、はじめての日本シリーズを戦って、自分なりにチームに足りないもの、これから必ず必要になるであろう3つのことがはっきりと見えた気がしていた。

 そしてそのオフ、千葉の鎌ヶ谷にあるファームの施設で、若手選手たちにそのことを伝えた。その中には当時3年目の中島卓也、2年目の西川遥輝(はるき)、1年目の近藤健介らもいたはずだ。

 そこで、彼らに伝えた3つのこととは、

一、さらに身体の強さを求めること

一、野球脳をさらにレベルアップすること

一、人間力を上げること

 特に人間力を上げること、それには力を込めた。

 プロ野球選手としてどうあるべきかの前に、まずは人としてどうあるべきか、必ず問われることになる。

 人としての規範は、間違いなくプロ野球選手としての規範に通じる。そして1章(『稚心を去る』組織作りの中での「勝利」と「育成」の関係)で指摘したとおり、ファイターズというチームを考えたときに、プロ野球選手としての成功に欠かせないものになる。

「人間力」は最も根源的で、かつ何よりも重要なテーマだ。若い選手たちには、そのことを感じてもらいたかった。(『稚心を去る』栗山英樹・著より

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