マネジメントの父ともいわれる世界的経営学者でありコンサルタントピーター・F・ドラッカー。彼が提唱した「ドラッカー理論」は世界的に有名ですが、じつは日本では多くの企業に“誤って”捉えられていると言います。本連載は、ドラッカー研究に50年以上携わっている二瓶正之氏の著書『徹底的にかみくだいた「自己目標管理」ドラッカーが本来伝えたかった目標管理』(春陽堂書店)を一部抜粋してお届けします。

ドラッカーが提唱した「自己目標管理」実践のポイント

ドラッカーの「自己目標管理」を実践していく上で、押さえておくべき五つのポイントがあります。

〈自己目標管理実践の五つのポイント〉

①指標と基準の明確化

②目標達成へのシナリオの共有

③成長につながるストレッチ目標の設定

④納得性と相互理解の確保

⑤ミッションとビジョンへのフォーカス

①指標と基準の明確化

自己目標管理の実践において、どんな状態が達成といえるのかの明確化が大切です。そのために、目標が達成できたと判断する指標の達成水準(レベル)の基準を明確化することです。つまり、何を物差し(指標)にして、どこまで(基準)を目指すのかを明確化します。

このとき、明確にしやすいことだけを優先し、数値化可能な目標だけを目標にしてしまいがちです。ドラッカーは、目標とは数値化可能な定量的な目標だけでは不十分。必ず数値化できない定性的な目標を設定しなければ、バランスの取れた目標設定につながらないと注意を促しています。

数値化が難しい場合は、「こういう状態になったら達成できたとしよう」という状態目標として設定するか、「この日までにこれだけできたら達成」というスケジュール目標に分けて設定します。

②目標達成へのシナリオの共有

目標達成への道筋=シナリオをしっかりと描き上司と部下との間で共有する。この共有により目標達成行動の進捗の逐次の確認と、必要な軌道修正が可能です。そのシナリオを職場全体でも共有すれば目標達成に向けたチームワークとチームプレイも可能になります。

シナリオづくりに先立って、目標達成のための具体的な方法についても明確にするとともに、達成のプロセス管理のために四半期ごとの中間目標(マイルストーン)の設定も重要です。

特に、初動の四半期である3カ月後の中間目標の達成状況は極めて重要です。この段階での未達状況への適切な対応が通期の目標未達という最悪の事態の防止につながります。

③成長につながるストレッチ目標の設定

目標の原案は部下自らがつくることが大前提です。目標に対して積極的な意識を醸成することが極めて重要です。この積極的な目標意識の醸成によって、自己の成長につながる努力を必要とするチャレンジ性のあるストレッチ目標(背伸びを必要とする目標)を、本人の自発性と主体性によって設定することが可能となります。

ドラッカーは、自己目標管理の最大の価値は、上司・部下間の真のコミュニケーションの実現にこそあると断言します。部下の成長につながる適切なストレッチ目標を設定するには、上司と部下との間で遠慮のない建設的なコミュニケーションが必要です。

この目標設定のコミュニケーションを通じて、上司と部下はいかに互いに理解不足であったかを認識します。そして、互いの思いと考えの真意を知り、その結果、相互理解が相互信頼へと変化して両者が納得できる目標設定に行きつきます。

④納得性と相互理解の確保

事前面談と目標設定面談を通じて、上司・部下ともに、目標設定について納得と相互理解を得ることが重要です。その際、目標だけでなく達成方法と着手時期についても上司と部下でしっかりと詰めることが大切です。目標だけは決めて、「あとはよろしく頼む」というのは、自己目標管理においてはあり得ません。

どんな方法で達成するのか?

もし目標未達で終わるとしたら原因は何か?

達成に向けて必要なサポートは何か?

上司の立場でできるサポートは何か?

このような視点から上司と部下との間で率直なコミュニケーションが求められます。本当に大切なことは何かを論じる質の高いコミュニケーションが、両者の相互理解を確かにします。

結果の評価を上司と部下で行う「フィードバック面談」をスムーズに実施するためにも、目標設定時の納得性と相互理解の確保は重要です。自分のことを「わかってくれている」安心感から生まれる上司への信頼は部下にとって重要なモチベーションのベースとなります。

多くの武将が主君のためには進んで命をささげ戦国時代でも、主君の理解を得られず絶望した武将は主君の命を奪ったという厳然たる事実は相互理解の重要性を教えてくれます。

⑤ミッションとビジョンへのフォーカス

自己目標管理の実践において欠かせないのは、その目標を目指す理由を明確化することです。目標の上位概念としての目的の理解は、目標達成へのモチベーションの源泉です。目標未達で終わる原因の一つは、目標達成に没頭するあまりに目標を目指す理由、つまり目的を見失ってしまうことにあります。

目標の前提としての目的を意識するには、その源泉となる自社のミッションとビジョンについて深い理解と共感を持ち、絶えず意識を向けることが大切です。

わが社は、いかなる企業であり、その存在理由、つまりミッションは何か、そして、そのミッションが実現されたときにはいかなる状態にあるか? ミッションとビジョンを踏まえた上で、目の前の目標に向き合うことが目標達成の確率を大幅に上昇させます。上司は事前面談や目標設定面談で繰り返し自社のミッションとビジョンを部下に語り続けることが大切です。

(※写真はイメージです/PIXTA)