・今年は「実写」もアリ。2023年のVTuberエイプリルフール

 今年も、VTuber業界にエイプリルフールがやってきた。毎年、様々な趣向をこらした「一日限りのウソ」があちこちで飛び交う祝祭だ。さすがにある程度は陳腐化してきたものの、まだまだおもしろいネタは多く見られる。

【画像】ミラノ・コレクションを歩いたドレスがVRアバター向けのアイテムとして本格展開

 今年特に興味深かったのは"実写化”という軸だろうか。ホロライブ兎田ぺこらと、ぽんぽこピーナッツくんが、一日限りの“実写化”動画を投稿した。無論、それは本人ではなく、コスプレイヤーだったり、本人とツテのある人物だったりする。とはいえ、かつてはかなり忌避されていたであろう実写化というアプローチが、4月1日限りとはいえ実現するようになったのはおもしろいところだ。

 個人的に興味深かったのは、にじさんじ鈴木勝が投稿した「架空のVRゲームのPV」だった。コンセプトといい、動画の作り込みといい、「キャラクターとふれあえるVRゲーム」のイメージ映像としてかなり完成度が高い。テストプレイしている人の実写映像まで差し込まれており、そこも実在感を大きく引き上げている。こうしたコンテンツをVTuberが出してくることも、カルチャーの交差を感じさせるところだ。

・『mocopi』アップデートに、『VARK SHORTS』登場。3Dモデルコンテンツ制作のハードルは下がっていくか

 「誰でも手軽にモーションキャプチャー」を実現するモバイルモーションキャプチャーmocopi』は、アプリ側のアップデートによってAR撮影機能が追加された。文字通り、3Dモデルをカメラに映る映像とAR合成することができる機能だ。そして、屋外でも動作する『mocopi』と組み合わせて、「3Dモデルが屋外で動く」という映像を簡単に作れるようになった。

 とりわけ大きな恩恵を受けるのは、「外ロケ」企画をやりたかったVTuberだろう。これまでは3Dモデルを動かす設備はもちろん、現地に行き、映像を撮影し、その映像をベースにモーションキャプチャーを行い、最後に映像合成を行う……という、かなりの重労働を要した企画がVTuberの外ロケだ。これが、『mocopi』と対応スマートフォンだけあれば、一通りの撮影はロケ地だけで完結する。ハードルを大きく下げるだろう。

 AR撮影機能に加え、『mocopi』はアプリアップデートによって、3Dモデル投稿・共有プラットフォーム『VRoid Hub』との連携も解禁された。1クリックで『VRoid Hub』上の3Dモデルを利用できるようになったため、より手軽に扱えるようになったと言える。とりあえず買っても使える、手軽なモバイルモーションキャプチャーとして、いよいよ完成されてきた印象だ。なお、アップデートはiOS版が先んじて配信され、Android版へは後日配信予定だ。

 もっと手軽に3Dモデルが動く動画を作りたい人向けに、Windows対応ソフト『VARK SHORTS』という新顔も飛び出してきた。VRM形式の3Dモデルを読み込み、動画のテンプレートを選択するだけで、3Dモデルが動くショート動画を簡単に生成できるというツールだ。この手のアプリとしては破格の手軽さで、生成した動画を用いた収益化も許諾されている。

 昨今はYouTube ShortsやTikTokの影響により、ショート動画の需要が大きく高まっている。とはいえ、動画編集はもちろん、構成や演出などを考える必要もあり、コンスタントな作成・投稿はなかなかに大変だ。こちらも、様々な「3Dモデルのショート動画」のハードルを大きく下げるツールになることが期待される。

 このほか、ボイスチェンジャーの方角からは「超高性能なAIボイスチェンジャー」というウワサも届いている。技術的な進展が、新年度のスタートから早速確認されているのは、テックのファンとしてはうれしい限りだ。

・意外な方角。意外なアプローチ。バーチャルファッションの新たな動き

 アバターファッションの方角では、ニューエントリーの動きが目立つ。まず名乗りを上げたのは『ATSUSHI NAKASHIMA』。ファッションデザイナーの中島篤が立ち上げたブランドが、突如としてVRChatアバター向けのファッション展開を発表したのだ。

 第1弾として登場するのは、2023年のミラノ・コレクションを歩いたというドレスだ。いくつかのアバターファッションブランドを運営する株式会社BALとともに制作・販売が予定されている。アダストリアも参入した加熱の続く領域に、『ATSUSHI NAKASHIMA』は「サステナブルなファッション」という文脈も合わせて踏み込むとのことだ。

 また、沖縄県の魅力を様々な形で伝えてるあしびかんぱにーも、メタバースファッションブランド「AtelierZ」を立ち上げた。「メタバースを楽しむ全ての人にファッションの自由を」というコンセプトのもと、服、髪、顔まで入れ替えができるアバターの制作を進めるとのことだ。第一弾は学生服をテーマにしたブランドが展開予定で、まずは価格が安いβ版として販売されるとのことだ。

 プレスリリースは出ていないが、『VRChat』に公式ワールドのようなものが確認できるブランドも見られる。名称は「VEIN」。『VRChat』公開ワールド「VEINPRM0118」では、販売アイテムと思われるものの展示のほか、写真映えする空間が各所に設けられている。

 いずれの空間も、アバターとセットでの撮影に非常に有効な構図やデザインが練り込まれており、眺めるだけでもワクワクとさせられる。空間のつなぎ方もなかなかに巧みだ。どのようなアプローチを仕掛けてくるか予想できないが、ある意味では「訪れることができるホームページ」を先んじて公開しておくというプロモーションとも言えるだろう。

 いまや、ブランドは「見るもの」から、「体験するもの」へとシフトしつつある。メタバースというフォーマットは、それを加速させるための様式とも言えるだろう。
(文=浅田カズラ)

4月10日のニュースたち