劇団四季のオリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』の製作が決定し、4月10日、都内にて製作発表会見が開催された。作品は『うしおととら』『からくりサーカス』等のヒット作を持つ藤田和日郎による中編コミックス『黒博物館 ゴーストアンドレディ』を原作にしたもの。19世紀ヨーロッパを舞台に、近代看護の礎を築いたフローレンス・ナイチンゲール(フロー)と、芝居好きなゴースト、グレイが繰り広げるファンタジックなラブストーリーだ。

劇団四季『ゴースト&レディ

会見には演出のスコット・シュワルツ劇団四季の吉田智誉樹 代表取締役社長が登壇し、この原作をミュージカル化するに至った経緯や作品の構想が語られた。まず吉田社長は「看護の道を閉ざされ生きる希望を失い死を望んでいたフローと、そんな彼女から「殺してほしい」という依頼を受けたグレイがバディを組み、クリミア戦争のただ中に赴く筋立てです。「フローが絶望の底に落ちた時に取り殺す」という契約をしたふたりだが、幾多の困難を乗り越えかけがえのない関係性を築いていくこの物語は、人間というものを超えた大きな宿命を描いているように思えます。また、19世紀半ばの欧州が直面したシリアスな歴史を描きながらも、冒険やロマンスといった要素が盛り込まれている。ファンタジックだが、人生の本質を示唆する物語です。さらにグレイはゴーストにして芝居好きという、舞台お誂え向きのキャラクターですし、作中にはシェイクスピアマザー・グースの詩も引用され、演劇好きの方々の知的好奇心も刺激する要素が多くある」とその魅力を語り、「舞台版は、この物語の本質的な部分を大事にしながら、信念を貫くことの大切さや人生の価値とは何かといったメッセージを投げかける、劇団四季らしい舞台にしたい」と意気込んだ。

近年オリジナル作品創作に力を入れて、2019年からは年1本ペースで新作を生み出している劇団四季だが「今回は2017年頃から題材の選定を始め、ジャンルを問わず様々な作品を検討する中で本作が候補のひとつにあがった」とその経緯を明かし、同時に「苦しいコロナ禍を経て、収益構造の多様化が課題となり、オリジナル作品の重要性を改めて痛感しております。オリジナル作品は自由度が高く、オンライン配信やマーチャンダイジングでの商品開発など、コンテンツの二次利用などが可能。また将来的には海外でのライセンス上演などもできる。今後も四季オリジナル作品のブランド力向上を目指し、この『ゴースト&レディ』も重要なレパートリーのひとつとなれば」(吉田社長)と期待も話した。

フライングもあり? 「冒険のようにワクワクした体験ができる」演出を構想中

そのオリジナル新作の演出家として白羽の矢が立ったのが、ミュージカルノートルダムの鐘』の演出家としても知られ、四季とは2016年の同作初演より交流があるスコット・シュワルツ。吉田社長は「これほどの才気とインテリジェンスに溢れた演出家はいらっしゃらない。あの『ノートルダムの鐘』を手掛けたスコットさんならば、この物語をみごとに立体化してくださるだろうと思った」との惚れ込みようだ。

シュワルツ氏はまず、「初めてこのプロジェクトの話を聞いた時、すぐに嬉しさがこみ上げた。劇団四季で『ノートルダムの鐘』の仕事をした時、本当に素晴らしい時間を過ごすことができたので、今回また日本の俳優さんやクリエイティブチームとご一緒できる機会がめぐってきたことを非常に嬉しく思います」と四季での仕事の喜びを語る。

また原作漫画を最初に読んだ感想を「オリジナリティに溢れた作品で、ワクワクした。英語ではページターナー(page turner)という表現がありますが、どんどんページをめくり、先を読みたくなる話です。漫画のアートの部分に心を動かされましたし、物語はダークでありロマンチックでありスリリング、でも楽しい。フローレンス・ナイチンゲールという歴史上重要な人物とゴーストとの関係性を使い物語を進める描き方は意外性があるし、ミュージカル作品にするにふさわしい題材だと感じました」と言い、「私自身、非常に惹かれました」と話した。

そして舞台化にあたっての注目ポイントとして「まず非常にメロディアスな素晴らしい楽曲。一度聴いたら鼻歌で歌いたくなる楽曲を期待してくださって大丈夫です。曲数は現時点で全何曲とお答えすることはできませんが、ほかのミュージカル作品に匹敵するくらいのフルスコアになります。そしてスペシャルエフェクトでゴーストたちが魔法のごとく現れたり消えたりフライングしたりします。舞台上でゴーストを表現する方法は数百年前からの歴史がありますが、その昔からある演劇的テクニックも使いつつ、現代技術も織り交ぜて見せていくプランを考えています。舞台セットも見応えのある素晴らしいものになりそうですし、衣裳も魅力的なデザインがどんどん上がってきています。物語の題材はシリアスなものですが、遊び心とユーモアにあふれ、冒険のようにワクワクした体験ができる演出的アプローチをしていこうと考えています。強調したいのはこの物語は情熱的でロマンチックなラブストーリーであるということ。演劇的なツールを巧みに使い、お客さまに楽しんでいただけるものにしたいし、観る方をインスパイアするようなミュージカルになればいいなと思います」と現状の進捗と構想を語った。

フロー、グレイを取り囲む魅力的なキャラクターたち

キャストについては「舞台上には約30名ほどの演者さんが揃う予定」(シュワルツ氏)とのことで、フロー、グレイ以外のメインキャストは「ヴィラン的な敵対する役どころのジョン・ホール、(グレイ同様)もうひとりのゴーストであるデオン・ド・ボーモンも非常に魅力的なキャラクターとして登場します。さらにプリンシパルとしてはフローレンスの友人である若いナースエイミー、もしかしたらフローレンスとの間に何かあるんじゃないかなと感じさせる男性、アレックスが出てきます。またスクタリや戦場、病院から今どんなことが起きているかを報告する新聞記者ジョン・ラッセルも重要人物として登場します。ほか原作同様にフローレンスの父母、姉もしっかりいます。それ以外にもフローレンスやグレイの人生に関わった人が出てきますが、全部語るとネタバレになりますのでサプライズとしてとっておかせてください(笑)。アンサンブルも大人数登場する予定です」とのことだ。

原作の再現性に関しては「ビジュアルの部分はもちろん原作漫画がインスピレーションのもとになっていますが、やはり舞台版の見え方、スタイル、雰囲気が出てくると思う。物語に関しても、基本的には原作の物語を追いますが、異なる部分もある。原作の藤田先生には、台本の進捗を話し、相談させていただいたりしています。とても応援してくださり、ポジティブなフィードバックをいただいています」とシュワルツ氏。

原作者コメント「これを本当にミュージカルにできるのでしょうか?……」

上演決定に際し、原作の藤田和日郎は「長いこと漫画を描いてきて、口を「え?」の発声のカタチのまま固まることがあるとは思いませんでした。自作が「劇団四季」のミュージカルになるとは! この作品はとんでもない幽霊が出ますし、激しいアクションシーンはもちろんのこと、もの凄い女性が途轍もない力で戦場を変えていきます。これを本当にミュージカルにできるのでしょうか? …………知りませんよう。演出のスコット・シュワルツさん、脚本の高橋さん(笑)。一方、この斜に構えたゴーストと信念のレディの心が交わる大変なお話を既に描き終わっております自分は、ただもうワクワクしながら、素晴らしい上演を待っておりますね。ただし、まだ口は驚きのカタチを残したまま」とコメントを寄せた。

脚本・歌詞は高橋知伽江(『アラジン』、『アナと雪の女王』、『バケモノの子』ほか)、作曲・編曲は富貴晴美(『バケモノの子』。振付はシュワルツ氏が「親友」と語る、チェイス・ブロック(『ノートルダムの鐘』)が手掛ける。今回のシュワルツ氏の来日にあわせリーディングワークショップをすでに行い、現在美術プランや楽曲制作の進行中とのことだが、今後の進行の予定としては、8~9月に劇団内オーディションを実施、その後読み合わせやステージング検証を経て、本格的な稽古は来年2月にスタートするそう。公演は2024年5月にJR東日本四季劇場[秋]にて開幕、期間は半年程度を予定し、その後は各地での上演も検討中とのこと。チケットは2024年1月発売開始予定。

取材・文:平野祥恵

劇団四季 最新オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』公演情報
https://www.shiki.jp/applause/ghostandlady/

劇団四季 最新オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』製作発表会見より 左から)劇団四季代表取締役社長 吉田智誉樹、演出のスコット・シュワルツ