10年ぶりの再放送が好評のNHK連続テレビ小説あまちゃん」。4月11日放送の第8回では、ヒロイン・天野アキ(能年玲奈)の父親が初登場を果たした。その場面を巡って視聴者から疑問の声があがっているという。

 アキの父親・黒川正宗(尾美としのり)は個人タクシーの運転手。アキを連れて故郷の岩手に舞い戻った妻の春子(小泉今日子)を追いかけて、黒川は自分のタクシーで岩手を訪れていた。

 一方で春子は離婚届を速達で自宅に送ろうと、郵便ポストの前で逡巡。そこに黒川のタクシーが通りかかり、クラクションに驚いた春子は封筒をポストに投函してしまっていた。その場面に一部の視聴者からこんな声があがっていたというのである。

「視聴者が着目したのは黒川が乗っていたタクシーの車種です。国産セダンが主流のなか、黒川が選んだのはなんと韓国ヒュンダイの『グレンジャー』。このチョイスには本放送の当時にも視聴者から疑問の声が寄せられ、NHKには100本以上にのぼる苦情の電話が入っていました。今回の再放送でもグレンジャーの登場に疑問を抱く視聴者が少なくないようです」(週刊誌記者)

 本放送の2013年当時には、朝ドラグレンジャーの個人タクシーを登場させたことで、NHKには〈反日放送協会だ!>との批判が渦巻いていたもの。今回はそこまでの騒ぎにはなっていないものの、ネット上では当時の騒動を振り返る動きもあり、またもや「反日」のキーワードが散見されている。

 それにしてもなぜ「あまちゃん」では、ヒュンダイ車のタクシーという、意外すぎるチョイスにしていたのか。当時のタクシー事情を知る者に言わせると、このチョイスには演出上の意図がくみ取れるというのである。

「ネットでは《ヒュンダイのタクシーなんて見たことない》との声も多いのですが、実際には東京都内を中心にヒュンダイ車を採用するタクシー会社もありました。一般向けにはほとんど売れなかったヒュンダイ車でしたが、グレンジャーではタクシー向けのLPG仕様車を用意していたこともあり、大幅な値引きでそれなりの数が売れていたのです。私も実際に乗ったことがあり、その時は内装をしげしげと観察したことを覚えています」(前出・週刊誌記者)

 ヒュンダイでは当時、東個協(東京都個人タクシー協同組合)向けに、東個協用の特別色をオプションで設定。メーカー自身がタクシー向けに注力していた。今回の作中に登場した車両も東個協カラーだ。

 タクシー用車両ではトヨタクラウンコンフォートや日産のフーガなどが人気だったが、当時のグレンジャーは低価格を武器にそれなりの台数を販売。2009年にヒュンダイ自体が日本市場から撤退したことにより、現在はほとんど見かけることもなくなったが、「あまちゃん」作中の2008年当時には個人タクシーでもグレンジャーを見かけることは珍しくなかったのである。

「ここでのポイントはやはり安さでしょう。春子はタクシー運転手の夫に愛想をつかしていましたが、安さにつられてマイナーなモデルを買ってしまう性格もまた、東京に大きな憧れを抱いて上京してきた春子にとっては、離婚を決意した理由の一つだったというわけです。これが普通の国産車だったら、黒川らしさが表現しきれなかったかもしれません」(前出・週刊誌記者)

 決して春子がヒュンダイ車を嫌ったのではなく、あくまで「安い車」を選んだ夫を嫌ったということか。その意味でグレンジャーの登場にはしっかりとした設定が存在したわけであり、反日批判を浴びたNHKとしてはとんだとばっちりだったようだ。

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