高速道路で100km/hを超える最高速度の適用が相次ぐなか、大型トラックは最高80km/hのままで、業界団体がその引き上げを訴えています。運送業界に様々なメリットをもたらすだけでなく、一般車の走行環境も変えるかもしれません。

最高速度引上げ相次ぐ高速道路 大型トラックは“遅い”まま

2023年3月28日より、常磐道の桜土浦IC~岩間IC間(茨城県)で最高速度が100km/hから110km/hに引き上げられました。近年、高速道路で最高速度の引き上げが相次いでおり、100km/hを超える速度は、これで5例目です。

しかし、大型トラックは依然として最大80km/hのまま。このため各地の最高速度引き上げ区間では、「110」ないし「120」と表示された最高速度標識と、「80」の最高速度標識が並んで設置されています。こうしたなか、トラックの業界団体が政府に対し、大型トラックの速度制限の緩和を訴えています。

2023年2月17日経済産業省国土交通省農林水産省が主催する「持続可能な物流の実現に向けた検討会」にて、全国物流ネットワーク協会が各省庁に向け、次のように要望しました。

「衝突被害軽減ブレーキ等の先進安全装備を装着した大型トラックに限り、高速道路において時速100kmで走行することの協議を開始していただきたい」

同協会は東京~大阪間などの幹線で、不特定多数の顧客の貨物をまとめて運ぶ「特別積合せ貨物運送」を行う事業者のなかでも、比較的規模が大きい63社で構成されています。20km/h引き上げれば、東京~大阪間輸送の拘束時間は1.5時間短縮されるのだそう。

検討会は、トラック輸送の担い手不足や、2024年度から始まるトラックドライバーの時間外労働における上限規制の適用などで、物資が運べなくなる事態に対処するため設置されたもの。ヤマト運輸も同検討会で、大型トラックの速度規制が撤廃されれば東京~大阪間では拘束時間が2時間減り、長距離輸送のサービス維持やコスト改善につながるとして、そのための研究開発を進めると表明しています。

安全は技術でカバー?

大型トラックには2003年から、90km/h以上の速度を出せなくするリミッターの装着が義務化されています。大型トラックの速度超過が、重大事故を引き起こす要因となっていたからです。

事故からドライバーを守る側面もあるものの、労働時間が増える側面もあります。法令を遵守し80km/hで左車線を延々と走るトラックもあれば、少しでも遅れを取り戻そうとするためか、それを追い越そうとするトラックも。しかし90km/h以上は出せないため、追い越しに時間がかかり、横並びとなったトラックが車線を塞ぐ光景もしばしば見られます。

ヤマト運輸の資料によると、大型トラックの追突事故件数は年々減り、2010年の4275件から2019年には2245件まで減少。その間に大型トラックへの衝突被害軽減ブレーキの装着も義務化されたほか、新東名などでトラックの「後続車無人隊列走行」など自動運転技術を活用した実証実験も重ねられてきました。

さらに政府は2024年度から、新東名静岡県内約100kmを対象に、深夜時間帯における「自動運転専用レーン」の実証実験を行うとしています。2025年度以降は区間を拡大し、完全自動の「レベル4」自動運転トラックによる物流サービスへ発展させる構えです。

仮に自動運転専用レーンが、「レベル1」の自動運転、すなわち、前車に追従して加減速を支援するACC(オートクルーズコントロール)搭載の一般車も対象とする現実的なものになった場合、一般車と大型トラックとの速度差は一つの障害になる可能性も考えられます。

国土交通省の物流政策課によると、現在は「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の最終とりまとめに向けた段階のため、大型トラックの速度規制の緩和について、方向性を示せる状況ではないといいます。物流をめぐる諸問題が顕在化し、自動運転社会へ向けたビジョンも開けていくなかで、速度制限のあり方についても見直しが図られるのでしょうか。

高速道路で追い越しのため横並びになるトラック。リミッター装着のため速度が出せず、追い越しに時間がかかる(ドラレコ画像)。