近年、グローバル企業を中心に、企業における人材の価値を消費すべき「資源」ではなく、投資によって価値を向上すべき「資本」だと捉えなおす「人的資本経営」が注目されています。

経済産業省が公開する『人材版伊藤レポート』で重要な一歩だと言われているのが、経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組みです。たとえば、CHRO(最高人事責任者)の設置や全社的経営課題の抽出などが当てはまります。

企業において人材にまつわる課題は、経営の中核とこれまで以上に密接な関わりを示すようになっています。

また、こうした企業の人的資本の活用に深く関わる「外部人材」をめぐる議論も注目されています。

2022年は、職能給やジョブ型雇用、フリーランスを対象とした保護法案の検討、そして税制改革などの議論が始まった1年でした。

個人のキャリア形成においても、コロナ禍以降は時間や場所に囚われない働き方を考える個人が増え、業務委託として副業を行う選択肢も広がりをみせています。大手企業や金融機関、ベンチャー企業でこの数年で副業を解禁する事例が新聞やテレビで報道されています。

株式会社サーキュレーションが2023年3月2日に発表した『プロシェアリング白書2023』では、企業担当者300名と外部人材500名に対して実施した合計80問にも及ぶ、外部人材の活用に関するアンケート調査の分析結果をまとめています。

2020年12月以来、3回目となったこの調査のポイントと経年変化について、株式会社サーキュレーション取締役・プロシェアリング本部長の福田悠さんに解説していただきました。

2022年の副業解禁ラッシュで企業の意識が変化

2022年は大企業や金融機関での副業解禁が話題になりました。企業は自社の人材が副業を行うことへのメリットや社員の副業ニーズを認識し始めています。

2022年10月に経団連が発表した『副業・兼業に関するアンケート調査結果』によると、回答企業の70.5%が、自社の社員が社外で副業・兼業することを2022年時点で「認めている(53.1%)」または「認める予定(17.5%)」と答えました。

この回答を裏付けるように、自社でもフリーランスなどの外部人材に業務を依頼する企業が増えています。こうした企業はどのような基準、頻度で外部人材を活用しているのか、調査しました。

過去5年間で1回以上、業務委託を行った企業担当者の4人に1人が年に5回以上外部人材を起用しています。その中で、1度外部人材を活用した企業が、その後も定期的に業務を依頼し続ける傾向がみえました。

サーキュレーションの顧客企業では、1社ごとの活用回数は平均で2回以上となっており、中には同時に数十名の“プロ人材”を活用する企業もあります。こうした傾向を踏まえると、外部人材が活躍する機会が今後もますます広がっていくと思われます。

外部人材に対する企業のジャッジはよりシビアに

年々増加するフリーランス人口に伴い、履歴書や簡単な職務経歴書だけでは企業に選ばれ続けるための差別化が難しくなっています。

企業が外部人材を選ぶ際に最も重視しているポイントを調査したところ、3年連続で1位になったのはやはり「専門性」でした。何かのプロフェッショナルである、とアピールすることは重要です。

一方で、このランキングに変化が現れています。

この1、2年で副業・兼業を取り巻くビジネス環境が拡大した結果、企業は「豊富な実績」よりも「仕事の速さ」「信頼性」を重視するようになりました。

実績を持つ人材が市場に増えたことで、「何ができたか」より「実際にやり取りがスムーズか、信頼できるか」を重視して企業側が人材を選べるようになっていることも一因でしょう。

また、DXやデジタル化が進みビジネス環境の変化がますます加速しているため、いち早くトライアンドエラーを繰り返して改善をしていける人材に価値があります。実績が豊富でもレスポンスが遅い人より、行動の量と質、どちらも備えた人に魅力を感じる企業が増えているのかもしれません。

さらに、全体的に重視されるポイントも変化しています。「実績があるプロフェッショナル」であるだけではなく、「仕事が早く、信頼ができるプロフェッショナル」であることが、昨今では求められるようになっているのではないでしょうか。

フリーランスが企業にこうした印象を持ってもらうためにも、コミュニケーションの質を高める努力が差別化に繋がる可能性もあります。

企業のニーズを明確に汲み取って提案することが重要

企業が仕事を依頼しない理由については、2020年度は「タイミングが合わない」2022年度はコロナ禍の投資抑制で「費用が予算に合わない」がそれぞれ1位でしたが、今回「条件に合わない」が初めて1位になりました。

企業が外部人材を複数回に渡って起用していく中で、リテラシーが高まっているのではないでしょうか。

依頼した業務に対しての報酬の相場感や、投資判断ラインなどの条件をしっかりと社内で事前に確認してから相談されるケースが増えていると考えられます。

提案する立場にある外部人材は、相手が求める条件を詳しくヒアリングして、自分が満たせるポイントをアピールすることで、失注を減らせるかもしれません。

直接契約でも仲介契約でもトラブルが起きている

近年、よく言われるのが、フリーランスの契約トラブルの多さです。『プロシェアリング白書2023』でも、契約条件によってトラブルの性質が変わるのかを調査しました。

その結果、直接契約、仲介業者を介した契約のいずれでもトラブルは同じように起こっていました。

また、副業層に契約トラブルが多い傾向が見受けられました。

特に初めて副業を経験する人は、契約内容を事前に副業契約に詳しい人や業者に確認してもらったり、後述するプロジェクトマネジメントを意識して実践したりすると良いかもしれません。

目的、ゴールを擦り合わせていないケースは2割も

契約形態に関わらず、トラブルが起きる原因を探るべく、次に「プロジェクトマネジメントに必要な行動をどのくらい取っているか」を調べました。

ここで注目するべきは「目的やゴール、課題などの共有」を常に行っている企業担当者や外部人材が全体の2割程度しかいないという点です。

プロジェクトを進める上で最も重要なのは「何のためにするのか」ということ。この点で見解に相違があると、不測の事態が起きた時に「やってくれと言った覚えはない」「やると言ったつもりはない」など、報酬の支払いや契約継続に影響を及ぼすトラブルに発展する恐れがあります。

たとえ相手が信頼できる知り合いだとしても、契約行為は最終的には会社の意向であり、責任を伴うものです。

口約束や前提条件を確認せずに仕事を契約するのではなく、目的やゴール、コミュニケーション頻度や方法についてしっかり確認することが重要です。

プロジェクトマネジメント能力を高めよう

さらにこの結果では、企業担当者の行動と外部人材の行動に差があることが分かります

企業担当者が、プロジェクトマネジメントのために行っている項目が多い傾向です。外部人材は依頼者が気にしているポイントを認識して、相手が社内で仕事を進めやすいように確認や報告を心がけるなどの工夫をする必要があるかもしれません。

「この人とは仕事が進めやすい」「この人と仕事をすれば社内での評価も高まる」と思ってもらえれば、次の仕事にも繋がっていく可能性が高まるでしょう。

こうした仕事の進め方は、外部人材に限らず全てのビジネスパーソンにとっても重要なポイントです。社内外で情報の非対称性が生まれる分、外部から入る場合の難易度はより高くなります。

今後、副業や独立を目指す人は、社内の仕事でもプロジェクトマネジメント能力を高めることを意識することで、どんな人とも仕事がしやすくなっていくと思います。

<著者プロフィール>

福田悠
株式会社サーキュレーション取締役
プロシェアリング本部長

中央大学工学部を卒業後、大手総合人材サービス企業へ入社。
製造業を中心とした約600社の人材採用を支援。大手法人顧客専属部門を経て、同社初となる社内ベンチャーの立ち上げに携わる。
2014年、サーキュレーションの創業に参画。
中小企業や製造業大手顧客を担当しながら、地方金融機関とのアライアンス、地方7拠点の設立を主導。
オープンイノベーションコンサルタントプロフェッショナルとしてレガシーマーケットの変革を志し、プロシェアリング本部を管掌。