カラパイアの元の記事はこちらからご覧ください

 ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した写真の中に、奇妙な筋が写っていた。

 『The Astrophysical Journal Letters』(2023年4月6日付)に掲載された研究によると、その正体は「銀河同士の合体によって追い出された超大質量ブラックホールがつけた跡」かもしれないという。

 そのブラックホールは高速で銀河から遠ざかりつつ、ガスの中を通過するときに星々が引き寄せられている。その結果、飛行機雲のようなまっすぐな線が宇宙に描かれていると推測される。

 もしこの説がが正しければ、天文学者が初めて目にする現象であるとのことだ。

【画像】 ハッブル宇宙望遠鏡の写真に写る謎の筋

 イェール大学のピーター・ヴァン・ドックム教授は、ハッブル宇宙望遠鏡が矮小銀河「RCP 28」の周りの球状星団を撮影した写真の中に、奇妙な筋が写っているのを発見した。

 何十億光年も離れた銀河についた筋は、最初撮影ミスだと思われた。カメラに宇宙線が差し込むと、傷のように写ってしまうことがあるからだ。

 だが、よくよく見てみると、その筋は少々風変わりな形の銀河に向かって伸びていることがわかったのだ。

 もしかしたらこれは、単なる撮影ミスなどではなく、宇宙で何かが起きているのではないか?そう考えたイェール大学をはじめとする研究チームは、また別の望遠鏡で観察してみることにした。

・合わせて読みたい→2つのブラックホールが偶然に衝突し、未だかつてない時空の波紋を広げる

 すると、筋の先端と銀河は地球からほぼ同じ距離にあり、この2つには関係があることが明らかになったのだ。

1

星の筋を拡大したハッブル宇宙望遠鏡 / image credit:NASA, ESA, Pieter van Dokkum (Yale) IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI)

銀河から追い出された巨大ブラックホールの可能性

 筋の長さは約20万光年と推測された。銀河の中心にある超大質量ブラックホールは、同じくらい長い物質のジェットを放出することがあるが、そうしたジェットは普通なら銀河から離れるにつれて広がっていく。ところが、謎の筋はずっと細いままだ。

 また、ブラックホールが銀河から離れる際、その重力に引き寄せられた星々がついてきて、ブラックホールの周りに集まるのだが、筋の中にある星々の光から、銀河から離れている星ほど新しいものであることもわかった。

 どうやら、謎の筋は約3900万年前に形成され、その先端は銀河から秒速1600キロで遠かっているらしい。

 研究チームの仮説では、この筋は、銀河から追い出された超大質量ブラックホールが移動したことによってつけられた可能性があるという。いわば飛行機雲のようなものだ。

 銀河の中心には巨大な超大質量ブラックホールがあることはよく知られている。それはとんでもない質量の塊だが、銀河同士が合体するときの混乱で追い出されてしまうことがあるのだ。

[もっと知りたい!→]ブラックホールがダークエネルギーの源であるという初の証拠を発見

 このこと自体は、以前からよく研究されている。わからないのは銀河を追い出されたブラックホールが、その後どうなるのかということだ。

3

筋(両画像とも中央)は、2つの異なる波長で見ると、右上の銀河に由来しているように見える / image credit:van Dokkum, et.

追い出されたブラックホールはどうなるのか?

 研究チームは、1970年代に考案されたとある古いモデルを参照して、追い出されたブラックホールのその後について推測している。

 たとえば、そのモデルによると、追い出されたブラックホールは、合体前の銀河の中心部にあった星々の殻をともなっていると考えられるという。

 その殻の大きさは、大きな「球状星団」か、かなり小さな「矮小銀河」くらいだ。だが、それらを構成する星々は、超大質量ブラックホールの周囲を回っているために、高速で移動している。

 そうしたブラックホールに連れられた星々(超小型恒星系)がガスにぶつかると、衝撃波が発生する。今回の筋で一番明るく輝いているのは先端なのだが、その理由をこの衝撃波で説明できるかもしれない。

 また、ガスにはこの衝撃波によってぽっかりと空洞ができる。そしてこの空洞が崩壊することによって、星の形成が始まる。筋の中の星々が、銀河から離れているほど若いことは、これで説明できる。

2

ブラックホールの正反対に第三の存在が!?

 大枠としては、この筋の正体は、銀河から追い出された超大質量ブラックホールが残した痕跡であると推測することができる。

 だが、これだけでは説明がつかないこともある。

 最大の問題は、銀河をはさんだブラックホールの正反対の位置に何やら存在するように見えることだという。

 その何かは、筋の先端ほど銀河から離れていないし、銀河に向かって伸びる筋もない。

 だが、そのすぐそばにはイオン化した衝撃波面があるらしく、イオン化物質が銀河に戻ろうとしているかのような様子が認められる。

 もしこれがブラックホールなのだとしたら、ゆっくりとした動きから筋の先端にあるブラックホールより重たいものが、同時に銀河から追い出されたということになる。

 だが、具体的にどのようなプロセスなら、2つの巨大ブラックホールが同時に、しかもそれぞれまったく逆の方向に追い出されるということがあり得るのか、よくわかっていない。

 銀河からブラックホールが追い出されるプロセスとして一番単純なのは、ブラックホールが3つあり、そのうちの1つが放出され、残り2つは銀河にそのまま居座るというものだ。

 この2つのブラックホールが合体して、重力的な力が生じる可能性はある。だが、それが生じる方向は特に決まっていないので、2つのブラックホールが正反対の方向に飛ばされるとは考えにくい。

 あるいは、3つのブラックホールどれもが銀河から追い出されるケースもないわけではないが、そのためにはすべてが同じような質量でなければならない。ゆえにやはり可能性は低い。

 こうした点を踏まえ、研究チームが提唱する現時点での仮説は、その何かの正体は、2つの超大質量ブラックホールを持つまた別の超小型恒星系ではないかというものだ。

 はたしてこの宇宙に引かれた謎の筋の正体は何なのか? 今後の研究が待たれるところだ。

References:Black hole is soaring between galaxies, leaving stars in its wake / Hubble Spots A Suspected Black Hole On The Run, Trailing Stars | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo

 
画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

銀河から追い出されたブラックホールか?その軌跡に星々が引き寄せられているのを観測