航空業界ではもはや常識となっている「機内禁煙」がスタンダードになり始めたころ、「全席タバコOK・嫌煙者NG」を掲げる航空会社の設立準備が進められていました。どのような航空会社だったのでしょうか。

最初はデュッセルドルフ~成田線に

現在、「旅客機の機内は禁煙」というのは、常識のひとつです。日本ではかつて旅客機内で喫煙が可能な時代もあったものの、JAL、ANAでは1999年に機内の全面禁煙化を達成。2020年には「国内旅客運送約款」にも「機内禁煙」が盛り込まれました。

実はちょうど機内の「タバコ事情」が変化した2000年前後、あえてトレンドに逆行した航空会社の設立準備が進められていました。その航空会社は「全席喫煙OK」、むしろ「嫌煙家お断り」をコンセプトとしていたのです。

その航空会社名はズバリ、「Smoker's International Airways(スモーカーズ国際航空)」、略して「スミントエアー(SMINTAIR)」です。この発起人となったのは、ドイツの実業家アレクサンダー・ショップマンで、もちろん同氏もヘビースモーカーです。

「スミントエアー」はイギリスロンドンに本社を置き、2007年、同社最初の路線としてデュッセルドルフドイツ)~成田線を開設する計画でした。

最初の就航地に日本が選ばれたのは、当時の日本における喫煙率の高さも一因とされています。厚生労働省によると、2006年当時の男性喫煙率は約40%。30歳から39歳の場合は、53%だったそうです。また、同路線はフライト時間が10時間超の長距離便となるため、愛煙家の需要を獲得しやすいというのも理由のひとつとして推測されます。

「全席喫煙OK航空」どんなものだったのか?

「全席喫煙OK」をかかげる「スミントエアー」は当初、「ハイテクジャンボ」ことボーイング747-400型機を2機導入し、運航を開始する予定でした。そしてその機内も、それ以外も振り切った客室仕様が計画されていました。

747-400はJAL・ANAをはじめ多くの航空会社で導入されていましたが、国際線仕様機であれば300席から400席の仕様が一般的です。ただし、ニューヨークタイムズや現地メディアにより、「スミントエアー」の座席数は138席が予定されていたと報じられています。

「スミントエアー」には、いわゆるエコノミークラスはなく、ファーストクラスが30席とビジネスクラスが108席の2クラスで構成されており、2階席にはシートベルト付きの椅子を備えたカウンターのほか、免税価格でタバコ類も買えるラウンジも機内に設置する計画とされていました。運賃は、60万円から120万円ほどというのが予定されていたそうです。CAの制服についても、2年おきに変えていく方針を宣言するなど、サービス面でも各種こだわりが見られるものでした。

その一方で、ブランドコンセプトである「タバコOK」は、同社のパイロットやCA(客室乗務員)といった乗員陣にも徹底されていました。乗員募集の条件欄には「嫌煙家お断り」と記載されていたという逸話も残っているのです。

「スミントエアー」は、デュッセルドルフ国際空港の着陸枠の承認も受け、当時発着枠がいっぱいとなっていた成田空港ではなく、中部空港の飛行許可を実際に獲得。しかし最終的には実現に至らずにその歴史を終えています。これは運航を開始するための資金が調達できなかったためで、その後ショップマン氏は2007年、飛行許可の権利を取り消しています。

現代の旅客機に掲げられている「禁煙」表示(乗りものニュース編集部撮影)。