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※画像はイメージです

日夜、日本中のどこかで建設や道路工事などが行われているが、不安定な足場や大型機械など、さまざまな危険があるゆえ、死傷事故が起こることも少なくない。直近では、4月2日兵庫県神戸市の工事現場で、建設会社社員の男性(58)が横転したショベルカーの下敷きになって死亡するという事故があった。

そんななか、“驚きの体験談”を告白したTwitterでのツイートが注目を集めている。

とあるユーザーが《上司に聞いたやばい話》として、手書きの絵を投稿。工事現場の作業員が、ショベルカー操縦者の死角にいたせいで、誤ってショベルに首だけをもぎ取られてしまったという内容が描かれていた。あまりに衝撃的な内容に、たちまちのうちにツイートは拡散された。

しかし、これに反応した別のユーザーが、さらに衝撃的な内容をリプライ(返信)したのだ。

《これされた事あります。奇跡的に腰椎5本折れただけで済みましたが、潰された時内蔵が「うにょん」て移動したのがわかった直後引き摺られて「あ、死んだ」「えっ?生きてる?」ってその場から走って逃げたら、5m先くらいで倒れました。腰折れてるからそらそうだ》

このリプライをしたのがノズさん(@akiornoz)。本誌はこのノズさん本人に、当時の状況などについて、詳しく話を聞くことが出来た。(以下、カッコ内は全て本人によるコメント)

「事故に遭ったのは、’13年の夏。当時は34~35歳くらいで、土木作業員をしていました」

ちょうど10年ほど前に起こったという、工事現場でのショベルカーによる事故。ノズさんの作業していた付近には、ショベルカー(以下、重機と記載)が2台とそれを操縦するオペレーター2人、さらにもう1人の作業員がいたという。

「3メートルくらい積み上げられた土山の上で、重機がベルトコンベアの投入口に土を入れる作業を行っていて、もう一台の下に居る重機がその土山に土をまく、という作業をしている現場でした。自分ともう1人がその間に入り、ゴミ等を除去する作業に従事していたんです。

すると、下にいた重機のオペレーターから『こっちはあらかた片付いたから、向こう(土山のほう)に行ってくれ』と指示されました」

ノズさんは指示に従い、土山のほうへ移動する。これが、事故の引き金となってしまった。

「移動した直後の出来事で、土山の上のオペレーターも入ってきたとは思って無かったみたいです。重機の作業員にも、ショベルカーのアームの死角になって自分の姿は見えていなかったと思われます。自分と同じ作業をしていたもう1人の従業員は、少し離れた所で集めたゴミの仕分けをしていて、こちらには全く気づいていませんでした」

ノズさん本人も、自身に迫っていた危険に気づくことはなかった。すると突然、後部から重機のバケツで、被っていたヘルメットを叩かれたという。

「『ゴンッ』というヘルメットを叩かれた音がして倒されましたが、何が起こったのか分かりませんでした。直後に腰の辺りからバケツで掬われて、『うにゅん』と内蔵が押し上げられて移動する気持ち悪さを感じました。そのまま『ズササササ』と体を引きずられるのが分かって、『あ、死んだ』と思いました」

■腰椎が5本折れ、重機のツメで腎臓が損傷……

一体どのようにして助かったのか、ノズさんはこう続ける。

「自分の身体が細いのと下の土が柔らかったので、バケツの爪の間から身体が抜け、下の土に埋まって助かりました。『この場にいたらもう一度やられる』と思い、走って逃げようとしましたが、5メートルほどのところで倒れてしまいました。そのときは腰が痛すぎて唸るしか出来ず……。

そうしていると、事故を起こした重機のオペレーターが倒れている自分を見つけて、駆け寄ってきて発見されました。集まってきた人達にも話しかけられましたが、『あー!あー!』と叫ぶことしか出来ませんでした」

すぐに現場近くの国立病院に運ばれ、鎮静剤を打たれてから話せるようになり、付き添いの現場関係者にようやく事の顛末を伝えた。

「まさか皆、自分がバケツで掬われたとは思って無かったようで、顔を青ざめさせて『よく生きていたな』と言われました。

レントゲン撮ったところ、腰椎が5本折れているのと、バケツのツメが腎臓を引っ掛けたみたいで、出血していたそうです。最悪の場合、下半身不随と自分でおしっこが出来なくなるかも知れないから覚悟しておいて下さい、と医師には告げられました」

奇跡的に、その最悪の事態は免れることになる。

「腎臓は幸い出血も止まっていて、大事には至らないってことで何もせず終わりました。腰椎のほうは髄膜を少し押していましたが神経損傷などは無く、ただの骨折ということで、首から下腹部までのギブス処置で済みました。入院していたのも、ICUで9日間、一般病棟で5日間の合計14日間です。

退院したのは9月になって直ぐだったんですが、ギブスは1ヶ月半ほどしていたと思います。その後、脇下から下腹部までのコルセットを作って貰って、そのまま半年ほど、年内は休業させてもらいました。その間も会社の社長から『知り合いのところでガードマンの仕事頼んでやるから、ボチボチでええから仕事慣らしていこう』と言っていただいたので、ゆっくり復帰させていただきました

■面倒くさくてもルールは守って

ある程度の休業期間も経て、同じ仕事に復帰したというノズさん。果たして、後遺症などはないのだろうか。

「後遺症に関しては、退院してから1年間ほどは尿意を感じてトイレに行っても、出しかたが解らない感じで出せないときがありましたが、今は普通に元通りです。 ただ、右足から発汗しなくなりました。冷や汗は出るんですが、夏場とか全身汗だくになって服がびしょ濡れになっていても、右足だけカラカラに乾いています。 後遺症はそれくらいですね」

決して重い後遺症はなく、今は五体満足だと語った。だからこそ今回のツイートを投稿したのだという。

「自分は事故の前と同じ様に、五体満足で現場復帰して以前と変わらず仕事しているので、今回のツイートを見て軽くリプライ送っただけなんですが……。皆さんから『生きてて良かった』と多く言っていただいて有難かったです。

今の工事現場では、ショベルカーなどの重機の可動範囲に作業員が入るのは厳しく制限されています。自分の様な事故が起こって、未然に防ぐ為に取られた処置だと思います。自分は運良く何とも無かったけど、十中八九死ぬ事故なので。面倒臭いルールが設けられていても、現場のルールは守って安全に作業して欲しいと思います」