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(写真:PIXTA)

単身世帯の増加、近所付き合いの減少―。現代社会では誰もがゴミ屋敷予備群だ。孤独やストレスが原因となり、あなたの家や親の住む実家がゴミ屋敷化する前に、対策を学ぼう。

ゴミ屋敷はいまや大きな社会問題です。国は全国で認知されたゴミ屋敷を5224件と発表しましたが、実際にはその数十倍は存在している可能性があります」

こう話すのは、ゴミ屋敷清掃士認定協会理事の田中義彦さんだ。

環境省3月29日に「『ごみ屋敷』に関する調査報告書」を公表。これは「悪臭や害虫の発生、崩落や火災などの危険が生じる『ごみ屋敷』事案について各市区町村の対応事例などの把握を目的に実施」されたもので、都道府県に協力を要請し、全国の市区町村を対象にアンケート調査した結果だ。

しかし、全国1741市区町村のうちゴミ屋敷を「認知している」と回答したのは661市区町村と全体の38%にとどまり、それ以外の62%にあたる1080市区町村は「認知していない」ことがわかった。認知方法の約9割が「市民からの通報」であるため、郊外の戸建てや、集合住宅のワンルームなど、周辺住民が気付かないだけで、隠れたゴミ屋敷はまだまだあると考えられる。

ゴミ屋敷対策の条例がある市区町村はわずか1割

市区町村ごとの件数は公表されなかったため、本誌は都道府県別の公表件数をもとに人口10万人あたりの「ゴミ屋敷」認知件数が多い10都県を算定した。たとえば1位の高知県では人口10万人あたりで35.4件が認知されていることがわかる。

次に高知県をはじめ、佐賀県三重県山形県東京都長野県の各担当部署に、ゴミ屋敷問題への取り組みについて取材すると、概して次のような回答があった。

ゴミ屋敷は、法律的に一般廃棄物にあたり、市区町村の管轄になるため、都や県での対策は立てていません。ゴミ屋敷問題は市区町村に対応をお任せしています」

もはや各市区町村の実態を直接取材するしかない。そこで、これまでにゴミ屋敷にまつわる条例を制定・施行した実績のあるいくつかの市区町村を取材した。

6位の山形県にある河北町は、2007年に「河北町快適な住みよいまちづくり条例」を制定。同町まちづくり推進課の担当者が話す。

「この条例はゴミ屋敷問題に特化したものではなく、空き地の管理やペットのふんなど、生活環境全般に関するものです。土地・建物の所有者の方には、周辺の生活環境を害さないよう、適切に管理していただくこととしています」

これまでに、「樹木が道路にはみ出している」「雑草の密生で害虫が発生した」などの苦情があり、「条例をもとに管理を依頼する文書を出して、所有者の方に対処していただいた」実績があるという。

ランキング3位の三重県では、松阪市で2022年12月に新条例「ゴミ屋敷対策条例」が可決。同市健康福祉部の担当者が明かす。

「『道路上にゴミが出て通行の妨げになる』『悪臭がひどい』といった苦情が寄せられたため、市として具体的に対応できる条例を制定し、今月1日に『松阪市住居等における不良な生活環境の解消に関する条例』(通称・ゴミ屋敷対策条例)が施行されたばかりです。ゴミは本来、環境生活部の管轄ですが、ゴミ屋敷を出してしまう方の健康面や生活面のケアも必要と考え、健康福祉部も連携して対策に当たっています」

このように、すでに対策に動きだしている市区町村はある。だが、全国的には約9割の市区町村にまだ条例がないのが実状なのだ。

■収集日や分別がわからず、ゴミがたまるのが日常に

ところで住居がゴミ屋敷になってしまうのは、どんなタイプの人に多いのだろうか? 前出の田中さんに解説してもらった。

「まず、身体的な面では、けがや病気などで動くことがままならず、家にこもりがちになってしまっている状態のときによく起きます。これは高齢者の方に多いですね。しかし、ゴミ屋敷の清掃依頼は、じつはふつうに仕事をしている若年層の方々からも多いんです」

最初は、「ゴミ箱からあふれる1つのゴミ」から始まるそうだ。

「ゴミがゴミ箱に入っていない状態が常態化すると、いずれ手に負えなくなります。床が埋め尽くされたらもうゴミ屋敷です」

依頼人は人口が集中している都市部で、しかも集合住宅のワンルームに住んでいる人が多いという。また、単身生活の人の比率も高い。

「マンションのゴミ分別が厳しいところや、どこまで分別したらいいかわからないほど細かく分かれている地域などは特に注意です。ゴミを出す心理的ハードルが上がり、『もう無理』とあきらめてしまい、どんどんゴミがたまる事態を招きがちです」

福祉系をはじめ、“人のために力を注いでいる職業”の人も、じつはゴミ屋敷に陥りやすいそうだ。

「夜勤など不規則なシフトがある方も多いです。生活リズムが乱れて、帰宅時に買ってきたお弁当を、疲れて食べずに寝てしまうような方ですね」

では、家族がゴミ屋敷を生まないためには、何を心がけたらいいのだろうか?

「まず、単身の家族がいる場合は、こまめに顔を見に行くことです。ゴールデンウイークなどを利用し、実家に一人で暮らす高齢の親御さんの元を訪れて話をしましょう。特にストレスの蓄積が危険因子となるので、家族でコミュニケーションを取ることが大切です」

ゴミ屋敷になるかどうかの境界線は、「ゴミの収集日に出せるか、出せないか」にあると田中さん。

「収集日に出せないことが2度、3度と続けば、ゴミ袋がたまっているのが日常になってしまいます。それを防ぐため、スマホのリマインダー機能で収集日にアラームが鳴るよう設定してあげてください」

また、心のケアも大事となる。

「パートナーや身近な方、ペットを亡くすことがきっかけになるケースも。友人や身内が周りにいない場合は、連絡できる人の存在をご家族が確認しておきたいですね」

知らないうちに手がつけられない状態に陥っていた、ということのないよう、まずは離れて住む家族との対話から始めよう。