春の堤防釣りの楽しみ

 堤防からのターゲットとして魅力的な「春アジ」。型が良く脂が乗り、竿先を絞り込む釣り味と並び、嬉しい春の味覚です。

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 毎年4月頃になると、東京湾の海釣り施設や釣りに開放されている堤防の中でも、比較的潮通しの良い場所で見られるようになります。

 ただ、時合い(釣れる時間帯)や盛期は短く、夏頃には小アジと入れ替わってしまうことから、タイミングよく釣行できるチャンスがあれば、焦らず基本的な釣り方を押さえて釣果に結びつけていきたいものです。

 この「春アジ」について、昨年は仕掛けの選択やコマセの同調など、基本的な釣り方を中心に書かせていただきました。

(「釣法と工夫が楽しい、少し気難しい陸釣りの「春アジ」」)

 今回はもう一歩踏み込んで、研究論文などからみる夏の小アジとの行動の違いや、時合の短い春アジの回遊行動などを推測しながら、釣果を伸ばすヒントにしたいと思います。

春と夏で変化するアジの体長と時合い

 まずアジの基本的な生態は、昼行性かつ底生性で適正水温帯は摂氏16度から22度といわれます。また群れで行動することも知られています。

 私が東京湾アクアライン以南の海釣り施設などでアジを狙う場合、春と夏以降でアジのサイズが入れ替わることを経験的に知っています。

 具体的には、毎年海水温が16度を超え始める4月頃から、20~23センチの型のよいアジが明け方から1時間程度の時合で回り始め、5月いっぱいでいったん収束。

 夏頃から秋にかけて15センチ程度にサイズダウンしたアジが午前中または1日釣れ盛る形で回り始めます。

春と夏でサイズが入れ替わる現象について

 まず、夏の入り口を境にサイズが入れ変わる現象は、アジの年齢による繁殖行動の影響と考えられます。

 この行動の分け目となる年齢については、房総沖で採取したアジの耳石の横断薄層切片による年齢査定の調査結果を参考にすると、1歳で16.0センチ、2歳で20.2センチ、3歳で23.1センチ、4歳で25.1センチとなります。

 また繁殖力は主に2歳、3歳から備わるとされています。

 そして繁殖力(成熟)を得た個体は、沿岸で盛んに摂食した後、7月頃から沿岸を離れ、沖合に移動して産卵。

 その後、生まれた稚魚は成長するに従い再び沿岸に戻ってくるようです。

 このことから、サイズの入れ替わりについては、産卵のために春アジが沖合に移動して行くと、代わって沖から沿岸に1歳の夏アジの群れが入ってくると推測できます。

(参考①「常磐南部~房総海域で漁獲されるマアジの年齢と成長,成熟」水産海洋学研究2018年多賀真、山下洋)

(参考②「マアジの成長と年齢」Bulletin of Japanese Society of Scientific Fisheries 1964 三谷文夫・井田悦子)

春アジの時合の短さについて

 次に春アジの時合の短さについては、主に「警戒心」が関係していると考えられます。

 本来、底生性のアジが堤防に寄る理由はアジの年齢に関係なく、堤防に吹き溜まる動物性プランクトンや稚魚を摂食するために、自らが捕食されるリスクを負って浅場に回ってくると考えられます。

 また、生き残って学習してきた2歳以上の群れには一定の警戒心が備わっていると考えられます。

 日が昇り、海中の透過性が高まる時間帯に入ってくると、捕食されるリスクが高まるため、同時に前頭にある「松果体」という器官によって脳に直接日照情報が送られ、水深があり、比較的安全な沖合に落ちて行くと推測します。

 反対に1歳魚の方は警戒心が薄く、捕食されるリスクを負いながら、摂食を優先していると考えられます。

 また警戒心にかかる魚の学習力については、(「今年はゲーム性が一気に高まった晩秋のイナダ釣り」)をご参照ください。

(参考:「釣りの化学」森秀人著、「魚の行動習性を利用する釣り入門」川村軍蔵著)

今回の釣行

 今年は3月上旬から暖かい日が続いたことで水温も上がり、春アジの開始も少し早まったようです。

 東京湾内の沿岸で型の良いアジの釣果が出始めた4月上旬、木更津沖堤防に足を向けてみることにしました。

 今回も渡船は栄宝丸さんのお世話になります。

 春アジといえども、今回はまだ「はしり」の時期。乗船前に栄宝丸さんに伺ったところ、前日のアジの地合いはわずか30~40分だったとのこと。

 モタモタしているとあっという間に終わってしまいますので、開始前からなかなかの緊張感です。

 今回の釣りは以下の通りです。

1.時期:4月上旬

2.時間帯:5~9時頃まで

3.潮回りは大潮。下げ1分から潮止まりあたりまで

4.海況:南西の風、風速1~2メートルのベタ凪

5.狙う魚種と釣り方の組み立て:

①のべ竿にコマセを使ったトリックサビキ釣りでアジを狙っていきます。手返しやコマセと仕掛けの同調がポイント。

②アジのアタリが遠くなってきたところで、のべ竿のままフカセの仕掛けに付け替え、払出しの潮に乗せて散発的に回遊するアジや、メバルクロダイを狙います。

③魚の気配がないようであれば、正面・約40~70メートル先の海底付近にサビキを入れて少し沖合のアジの回遊を探ります。

ルアーや投げ釣り混在の場所ですので、周囲の迷惑にならないよう、ウキ釣りは自粛します)

④全く反応がなければコマセ釣りは諦め、残り時間はキス釣りで遊んでいきます。

6.道具:

①5.3メートルの硬調の渓流竿(のべ竿)

②9フィート(約3メートル)の胴調子のライトルアーロッドにPE1.5を巻いた2500番のリール

7.釣況:

 当日は大潮。下げ潮からの展開です。

 意外に潮はゆっくり流れ、濁り潮でプランクトンもたくさん浮いているように見えます。なかなか良いコンディションです。

 最初は下カゴとトリックサビキにコマセをたっぷりと仕込んで、気持ち潮上に仕掛けを入れて仕掛けを沈め、軽く竿をあおってコマセを振り出します。

 海中でコマセが潮に乗ってゆっくり流れる様子をイメージしながら、仕掛けを同調させるよう流速に合わせて少し潮下へ動かしていきます。

 2投目に竿がぎゅっと海面に刺さり、持ち上げると長い竿が弧を描きます。すぐに型の良いアジであることが分かります

 竿の弾力でいなしながら、ゆっくりと上げてくると、見た目で20センチ台と分かる良型のアジが現れます。

 まずはほっとしながらも、時合が短いことから手早く手返しを入れると、すぐに反応。開始早々から入れ食い状態です。

 実用と遊びの趣向が強い竿で、魚とのやり取りを存分に楽しみながら、約1時間で17匹の釣果となりました。

 その後はパタリと止まったことから、フカセ釣りに変えますが、リリースサイズのメバルが1匹のみで、海中は沈黙します。

 早々に見切りを付けてライトルアーロッドに切り替え、サビキを遠投して底寄りを狙う仕掛けにします。

 周囲にはルアーマンやキスなどを狙った仕掛けが入っているため、左右に流すウキ釣りは避け、正面の飛距離の調整のみでポイントを探ります。

 何投かポイントを変えて投げてみると、70メートル付近で竿先に強いアタリが入ります。

 ドラグはアジング並みに緩めて、ゆっくり上げてくると、ご無沙汰していたアジが顔を出します。

 その後、同じポイントでコンスタントに釣れ、10匹を追加したところでタイムアップとなりました。

今回の料理

 今回も釣果の3分の2はご近所に楽しんでいただき、我が家では畑で採れたアスパラとともにアジフライにしました。

 サイズの良いアジを食べやすくするため、3枚におろして小骨をすべて外しました。

 翌日は真空パックで1日寝かせたアジの「なめろう丼」や例年より早くご近所からいただいたタケノコを煮て、アジの塩焼きとともにいただきました。

 今年も何とか春アジを楽しむことができました。

 特に今回は仮説が実を結び、堤防下での時合が過ぎても、少し沖合の水深のある場所に移動したアジと出会うことができました。

 再現性はこれからとなりますが、とても有意義な釣行でした。

これまでの連載一覧

第1回:ITが激変させた釣りの楽しみ方と釣果(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59294

第2回:SNSを駆使して釣りの楽しみ10倍増(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59542

第3回:ITを駆使してお金をかけずに釣りを楽しむ(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59827

第4回:好奇心と予算コントロールで釣果を上げよう(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60091

第5回:手軽に楽しめる「江戸前小物釣行」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60560

第6回:シーズン到来、アジ釣りのタイプ別楽しみ方(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60891

第7回:繊細な引きが病みつきに、河口の手長エビ釣り(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61369

第8回:最盛期に入ったハゼ釣り、奥行きの深さを味わう(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62001

第9回:洋上の格闘技、初秋のカツオとキハダマグロ釣り(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62186

第10回:初心者もマニアも楽しいイナダ釣り(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62472

第11回:多数魚賑わう陸っぱりで、カワハギと頭脳戦を楽しむ(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62687

第12回:20センチの竿に釣りの奥義を知る(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63005

第13回:忙しいあなたにお勧め、時短釣行とは(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64400

第14回:釣れそうな日を決める「時短釣行」実践編(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64470

第15回:早くも始まった相模湾の大アジ釣り(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64887

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第21回:釣果の再現性につながる情報を活用、季節のカワハギ釣りを楽しむ(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67551

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