西側諸国によるウクライナへの武器支援は戦車の供与にまで及び、そしてゼレンスキー大統領は次に戦闘機を熱望しています。おおまかに見積もってみても、やはりそれは決定的な戦力になりうるものでした。

ウクライナが熱望する「自由の翼」は金属製

ウクライナ戦闘機を、自由の翼を」

ロシアによる大規模侵攻から約1年。2023年2月8日ウクライナゼレンスキー大統領は、イギリス議会において戦闘機の支援が必要であることを強く訴えました。また同年4月12日にはウクライナのシュミハリ首相がアメリカのオースティン国防長官と会談し、戦闘機やより射程の長いミサイルの供与を求めました。

ウクライナ軍は2022年秋に大反攻を成功させ、ロシア軍の占領下にあったいくつかの都市を解放しました。また、冬はロシア軍が再攻勢に転じたもののウクライナ側は頑強な抵抗を見せており、2023年春現在のところロシアの攻撃は頓挫しつつあると見られます。

ロシアに全土併合されウクライナという国家が消滅する、という敗北は考えられなくなりつつありますが、一方でウクライナ側も慢性的な弾薬不足や兵器不足、そして公式発表はありませんが少なく見積もっても数万に達する犠牲者から、非常に厳しい状態にあることは明らかです。

「大国ロシアに勝った」という勝利のストーリーは描けそうであるものの、その勝利がロシアを完全に追い出したものであるのか、はたまた膠着の末にロシアの占領状態が既成事実化され、ある程度、妥協しなくてはならないのかは予想もつかず、そうした先行き不透明なウクライナの偽らざる本音が、「自由の翼を!」という言葉に込められているのかもしれません。

ゼレンスキー大統領の言う「自由の翼」とは、より具体的には、ロッキード・マーチンF-16ファイティングファルコン戦闘機を指しているものと推測されます。

これまでウクライナへ供与された兵器のうち特に重要であったいくつかは、たとえば高機動ロケットシステム(HIMARS)などは「ゲームチェンジャー」という言葉で呼ばれてきました。F-16は、見方によってはHIMARSのおよそ300倍の戦闘力を有しているともいえる強力な兵器であり、供与されれば次にゲームチェンジャーと呼ばれる最有力候補です。

「HIMARSの300倍」の内訳は…?

HIMARSは射程およそ70kmから80kmの誘導ロケット弾を6基、搭載する地上車両であり(ほか、約300kmの射程を有する「ATACMS〈陸軍戦術ミサイルシステム〉」1発も装備可)、その攻撃精度は直径3mの円内に半数が着弾するというものです。これはほぼ必中とみなして良いので「直径160kmの円内に存在するあらゆる目標を破壊できる」とも言いかえられます。実際、HIMARSロシアの補給拠点を的確に潰し、ロシアに慢性的な弾薬不足を強制しており、ウクライナ優勢の大きな要因のひとつとなっているようです。

こうした後方の要地を確実に破壊するような作戦は、F-16も得意とするところであり、たとえばHIMARSの誘導ロケット弾と同等の誘導爆弾である「SDB」ないし「ストームブレイカー」ならば8発を携行できます。通常2機編隊を最小単位として行動するので、1個編隊のF-16は一度の作戦で16目標を破壊できる計算となります。さらにF-16は700kmから800kmを進出することができますから、F-16の1個編隊はHIMARS300両に匹敵する、という見方もできるのです。

実際に2機のF-16が地上攻撃作戦を行うためには、対戦闘機任務を行う護衛機、地対空ミサイルを破壊する防空網制圧機など、さらに数倍の戦闘機が必要となりますが、F-16は搭載武装を載せ替えることであらゆる任務をこなせる多用途性にも優れているので、ともかくF-16が一機種あれば、空軍に必要なことは全てできるようになるでしょう。

現在、アメリカやヨーロッパ諸国ではF-16から新しいF-35へ更新が行われつつあり、年間100機近くのF-16が退役しています。そうした現状もあることから、彼らがウクライナF-16を供与する意思決定さえすれば比較的、短期間で十分な数を揃えることができるでしょう。また、人数は不明ですがすでにウクライナ人パイロットの訓練が行われてもいるようであり、さらにF-16の操縦が可能な義勇兵を募集しています。

F-16がウクライナの空で通用しうるワケ

あらゆる場所に、瞬間的に、正確に、大打撃を与えることができるF-16は、陸軍戦車部隊が突撃する前に敵を破壊することで、反抗作戦の要となり得ます。一方のロシア側も、実はこうした作戦の遂行をロシア空軍に期待していたことでしょう。ロシア空軍のSu-30やSu-35F-16と同等以上に高性能な戦闘機であり、カタログスペック上は可能なはずでした。

ところがロシア空軍はミサイルや誘導爆弾にこと欠き、無誘導爆弾を使用しなくてはならず、その結果、地対空ミサイルの脅威に晒され大きな被害を受けたのに対し、ほとんど何の成果も挙げられませんでした。

現代戦闘機は高度なセンサーや誘導兵器、情報共有するネットワークと一体となることで初めて現代戦闘機たりえます。そしてそれらのひとつでも欠けてしまうと、たとえ2020年に生産された最新鋭機であろうともその戦闘能力はせいぜい1960年代から1970年代の水準にまで低下してしまいます。

逆を言えば、1970年代設計のF-16が現代戦に通用しうる理由もそこにあります。F-16は最新鋭機ではありませんが、供与されるとすれば、非常に大きな意味を持つことになるといえます。

F-35配備にともない、F-16ブロック50/52と呼ばれるタイプないし同等機は、実は年間100機近くが退役している(画像:アメリカ空軍三沢基地)。